世界が西洋色に染まる?AI文章支援ツールが文化の多様性を損なう可能性

2025年5月3日(土)21時0分 カラパイア


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 アメリカ・ニューヨーク州にあるコーネル大学の研究チームが発表した最新の研究によると、生成AIによる文章支援ツールは、文章スタイルを画一化し、非欧米圏のユーザーに西洋(アメリカ)風の文体を促す傾向があることがわかったという。


 研究では、アメリカとインドのユーザーが同じテーマでAIの力を借りて文章を書く様子を比べた。


 その結果、AIの提案が西洋的な話題ばかりを押し出し、インドらしい表現が見えにくくなっていた。


 インドのユーザーはAIの提案を受け入れつつも、内容をたびたび修正しなければならず、作業の効率もあまり上がらなかったという。


 研究者たちは、これからのAI開発では「言葉」だけでなく世界の多様な文化的文脈を尊重することの重要性を訴えている。


アメリカで開発された生成AIが世界中で使われている


 ChatGPTのような生成AIは、英語の文章を補ってくれたり、書き方のアドバイスをくれたりする「文章支援ツール」として、いま世界中で使われている。


 特に、インターネットが普及した国々では、学校の課題やビジネスメールの作成、SNSの投稿などで、AIの助けを借りることが珍しくなくなってきている。


 しかし、多くのAIはアメリカのテクノロジー企業によって作られている。そのため、こうしたAIの文章提案は、英語だけでなく、文化的な内容もアメリカや西洋を基準にしていることが多い。


 アメリカ・コーネル大学の研究チームは、この点に注目し、AIが他の文化圏に住む人たちの「書き方」や「伝え方」にどんな影響を与えているのかを調べた。



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AIはインドのユーザーにアメリカの文化を提案


 研究では、アメリカとインドの合計118人の参加者を集め、それぞれに「好きな食べ物」や「祝日」「尊敬する人物」など、文化に関わる話題について文章を書いてもらった。


 参加者の半分にはAIの文章補完機能を使ってもらい、残りの半分はAIなしで書いてもらった。


 実験の結果、AIを使ったインドのユーザーの多くが、アメリカ的な話題を提案されていたことがわかった。


 たとえば、「好きな食べ物」と入力すると、AIは「ピザ」や「ハンバーガー」をすすめ、「祝日」と入力すると「クリスマス」などを提案してきた。


 さらに、「S」という文字から有名なインドの俳優「シャー・ルク・カーン」さんの名前を書こうとしたとき、AIは「シャキール・オニール」(アメリカのバスケットボール選手)や「スカーレット・ヨハンソン」(アメリカの女優)をすすめた。


 このように、インドの人はAIを使うことによって、インドの文化や表現が書きづらくなっていたのだ。



提案は受け入れつつも修正箇所が多く非効率的に


 実験では、インドのユーザーはAIの提案を全体の25%の割合で受け入れており、アメリカのユーザー(19%)よりも多かった。


 これは、英語が母語でないインドのユーザーの方が、AIを頼りにする場面が多いからだと考えられている。


 しかし、インドのユーザーは提案をそのまま使うのではなく、文化に合うように内容を直すことが多かった。そのため、AIを使っても、文章を書く時間が大幅に短くなるという効果は薄かった。


 しかも、インドの人たちは、自分の文化について書こうとしても、AIがすすめてくるのはアメリカっぽい表現ばかりで、その流れに合わせるうちに、まるでアメリカ人のような書き方になってしまう。


 研究チームのドルヴ・アガルワル氏は、「インドの人たちは、自分の文化を紹介する文章を書くときでさえ、AIの提案に合わせてアメリカ風に書くようになってしまう。これはとても大きな問題だ」」と話している。


AIが無意識に自国の文化を西洋風に変えてしまうおそれ


 研究チームは、この現象を「AIによる植民地主義(AI colonialism)」と呼んでいる。これは、昔の植民地支配のように、強い国の文化が他の文化に押しつけられ、元の文化が見えにくくなることを指す。


 この研究の筆頭著者であるアディティヤ・ヴァシスタ教授はこう警告する。


これはAIを使うことによって、文章の内容だけでなく、書き方そのものまでが西洋風になってしまうという初めての証拠のひとつだ。人々が似たような書き方になってしまえば、世界の文化の多様性が失われてしまう(ヴァシスタ教授)


 つまり、AIは人の文章を助けてくれる便利な道具ではあるが、そのまま使い続けると、知らないうちに自分の文化が薄まってしまう可能性があるというのだ。



開発者に求められる「文化への配慮」


 AIは多くの人の役に立つすばらしい技術だが、それを公平に活用するためには、ただ言語を正確に扱うだけでなく、その言語が使われている文化や価値観にも目を向ける必要がある。


 研究を行ったコーネル大学のチームは、西洋以外の国、特に「グローバル・サウス[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%AB%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%82%B9]」と呼ばれるアジアやアフリカ、中南米の国々でもAIが正しく機能するように、文化的な配慮をもっと重視するべきだと強く訴えている。


 この研究成果は、「AI Suggestions Homogenize Writing Toward Western Styles and Diminish Cultural Nuances[https://arxiv.org/abs/2409.11360]」というタイトルで、コンピュータと人間の関係を研究する国際学会「CHI(カイ)」で発表される予定だ。


References: AI Suggestions Homogenize Writing Toward Western Styles and Diminish Cultural Nuances[https://arxiv.org/abs/2409.11360] / AI suggestions make writing more generic, Western[https://news.cornell.edu/stories/2025/04/ai-suggestions-make-writing-more-generic-western]

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