本郷和人『光る君へ』無職の藤原為時に対して「国司になったぞ!」と喜ぶ宣孝。国司が管轄する地方政治が当時どうなっていたかといえば…【2025編集部セレクション】
2025年5月10日(土)10時0分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
2024年上半期(1月〜6月)に『婦人公論.jp』で大きな反響を得た記事から、今あらためて読み直したい1本をお届けします。(初公開日:2024年04月11日)
*****大石静さんが脚本を手掛け、『源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。第十四話は「星落ちてなお」。藤原兼家(段田安則さん)は、自らの後継者を嫡男の藤原道隆(井浦新さん)と定める。しかし兼家の命令に従い、汚れ仕事をやってきた次男・藤原道兼(玉置玲央さん)は反発し——といった話が展開しました。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生が気になるあのシーンをプレイバック、解説するのが本連載。今回は「平安時代の地方政治」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!
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国司になった宣孝
前話にて、筑前守(現在の福岡県北西部にあたる)となった佐々木蔵之介さん演じる藤原宣孝。
ドラマでは「いよいよ国司になったぞ!」と、まひろたちのもとへ旅立ちのあいさつに訪れるシーンが描かれました。
一方で、まひろに対して「わしの目の黒いうちに、そなたの父が官職を得ることはない」とまで言っていた兼家が死んだことを耳にし、なかなか職を得られない為時が、うれしいのか悲しいのかわからない涙を流すシーンは、当時の官職事情を象徴するようで、なかなか印象的でもありました。
そこで今回は、お勉強回です。題目は地方政治について。
大宝律令
701(大宝元)年に制定された大宝律令で、日本国内には国・郡・里、三段階の行政組織が置かれました。今の「県−市−町」とか「県−郡−村」みたいなものですね。
本郷和人先生が監修を務める大人気の平安クライム・サスペンス!『応天の門』(作:灰原薬/新潮社)
そして、それぞれの長として、国司・郡司・里長が置かれました。
里は715(霊亀元)年に郷に改められ、郷を2,3の里に分けるようになりました。それに伴い、里長は郷長と名前が変わりました。
税の取り立てを主な職務としていて、現地の有力農民から選ばれ、税の一部を免除する、という優遇を受けました。
そんなにきちんとしたものだったかどうか
とまあ、教科書的にいうとこんな具合なのですが、どうなんでしょうねえ。古代の地方社会は、そんなにきちんとしたものだったのかどうか。
『十八史略』という歴史書にこんな話があります。
むかし、むかし、聖天子の誉れ高い堯は人々のナマの声を聞きたいと思い、身をやつし、町中にしのび出た。
すると白髪の老百姓がひとり、食べ物を口に含み腹つづみをうち、足で地面を踏み鳴らして拍子をとりながら、楽しげに歌っていた。
民には民の暮らしやルールが
日出でて作き、日入りて息う。
(日が出りゃせっせと野良仕事、日非ぐれにゃ帰って横になる。)
井を鑿りて飲み、田を耕して食う。
(のどが渇きは井戸を掘り、腹がすいたら田んぼを耕す。)
帝力我に何かあらんや!
(王さま? おれの暮しにゃ、いてもいなくても同じこと。)
堯の心は明るく晴れわたった。
「これでよい。人民たちが何の不安もなく、自分たちの生活を楽しんでいてくれる。これこそわたしの政治がうまくいっている、証拠というものだ」
お上がどう言おうが、どんな決まりを押しつけてこようが、民には民の暮らしがあり、民のルールがある。
『光る君へ』の時代の地方には、その地その地の独特の風習や習慣があって、その土地に根付いたボスがいたような気がしてなりません。
※本稿は、『応天の門』(新潮社)に掲載されたコラムの一部を再編集したものです。
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