日食の数時間前、森全体が動き出し木々がシンクロ。お互いに情報を伝え合っていた
2025年5月13日(火)20時0分 カラパイア
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森はただの木の集まりではなく、1つの大きな仲間集団なのかもしれない。
イタリア北部のドロミテ山脈にある森で、オウシュウトウヒの木々が日食の数時間前から一斉に生体電気信号を発し、同期していることが判明した。
森には、数十年にわたる環境の“記憶”のようなものが存在し、年を経た古い木が太陽の動きに反応し、その情報を若い世代の木々に伝えていた可能性があるという。
もしこの仮説が正しければ、長い時間をかけて経験を蓄えてきた老木は、森の記憶を担う重要な存在であり、その保存と保護が求められることになる。
日食の数時間前、森がざわざわと動き始めた
今回イタリア・英国・スペイン・オーストラリアの国際チームによる研究では、世界自然遺産にも登録されるイタリア北東部の山地「ドロミーティ」の森林で、オウシュウトウヒの木に特殊なセンサーを仕掛けてその生体電気信号を記録した。
そのデータを解析した結果、日食の数時間前から木々の電気信号が次第に同期し始め、日食の最中にはまるで「合図を送り合っている」かのように、動きがシンクロしていたたことがわかったのだ。
オウシュウトウヒはマツ科トウヒ属の常緑針葉樹で、ドイツトウヒとも呼ばれる。樹高は50mにもなる高木だ。
イタリア工科大学のアレッサンドロ・キオレリオ教授は、「森は単なる木々の集合ではなく、フェーズ(位相)が相関する植物のオーケストラなのです」と述べる。
イタリア北東部の世界自然遺産「ドローミティ」/CREDIT:Monica Gagliano/Southern Cross University
森の“長老”が先に反応していた
さらに注目すべきは、反応の順番だった。
いち早く変化を示したのは、長い年月を生きてきた古木たちだったのだ。これに続くように、若い木々も反応を始め、森全体で協調した動きが起きていたという。
研究に参加したオーストラリア、サザンクロス大学のモニカ・ガリアーノ教授は、こう述べている。
古い木は、これまでに経験した環境の変化を記憶していて、それをもとに行動している可能性があります。さらに、それを若い木々に伝えているとすれば、森全体が記憶を持ち、共有していることになります
この仮説が正しければ、老木は単なる過去の遺産ではなく、「森の知恵袋」として現在も重要な役割を担っていることになる。
樹木に取り付けられたセンサーは、生体電気信号を記録するためのもの/CREDIT:Monica Gagliano/Southern Cross University
つながり合う森の木々たち
この現象は、近年注目されている「ウッド・ワイド・ウェブ(Wood Wide Web)」という考え方とも関係がある。これは、木々が地下の菌類ネットワークや根を通じて情報や栄養をやりとりしているという仮説だ。
ただ、今回の研究では、それとは別に木の内部を流れる電気信号の同期に注目している。特定の物質のやりとりではなく、電気的な「タイミング」が一致していたという点が非常に興味深い。
森を守る鍵は“記憶を持つ木”にある
今回の発見が示すのは、森はただの木の集まりではなく、互いに情報を伝え合いながら生きている「集団」であるということだ。
そして、その中心にいるのが老木たち。彼らが過去の経験をもとに行動し、それを次の世代に伝えているとすれば、老木はまさに森の“記憶の柱”といえる。
「長く生きた木こそが、未来を守るカギになる」ガリアーノ教授はこのように述べ、老木の保護の重要性を訴えている。
この研究は『Royal Society Open Science[https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.241786]』(2025年4月30日付)に掲載された。
また、2025年5月にはイタリアで公開されるドキュメンタリー映画『Il Codice del Bosco(森のコード)』でも紹介される予定だ。
References: Bioelectrical synchronization of Picea abies during a solar eclipse[https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.241786] / Forest in sync: Spruce trees communicate during a solar eclipse[https://www.eurekalert.org/news-releases/1082082]