インテリアデザイナーがモノを「減らす」よりも「足す」ことを勧める理由。日本風の家屋は建った時点で完成しているが、洋風の部屋は真っ白なキャンバス状態

2025年5月14日(水)12時30分 婦人公論.jp


(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

おしゃれな部屋には憧れていても、「めんどくさい」「どこから手をつけていいかわからない」などの理由から、なかなか模様替えに踏み切れない人も多いのではないでしょうか。インテリアデザイナーの飯沼朋子さんは、「心地よいインテリアの秘訣は、モノを減らすことではなく『足すこと』」だとアドバイスします。今回は飯沼さんの著書『イギリス人の部屋はなぜ物が多くても素敵なのか』から一部を抜粋し、新しい模様替えの方法をご紹介します。

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イギリスのインテリアは「足す」インテリア


この記事でお伝えする「イギリス流インテリア」とは、イギリススタイルのインテリア(たとえば、重厚感のあるアンティーク家具を用いたインテリア)のことではありません。

ここで言う「イギリス流」とは、家にモノを「足す」ことで、心地よい空間をつくるインテリアです。

「え、ただでさえモノが多いのに足したくない」

「すっきりした空間が好きだから足さなくていい」

という声が聞こえてきそうです。

実はイギリスでも最近は、すっきりしたモダンな部屋が人気です。部屋も決して広くなく、都市部では、日本と同様に限られたスペースでの工夫が必要です。

それでも日本の一般的な住まいに比べると、確実に「足して」あるのです。

足されているのは、具体的には、次のようなものです。

・家具
・ファブリック(クッションやカーテンなどの布製品)
・インテリア小物(置き物、オブジェ、フォトフレーム、キャンドルスタンド、本など)
・ランプ
・アート
・ミラー
・素材(異素材や素材感)
・色
・柄
・光の陰影(照明で灯りが照らされることによりできる影など)

さらには、

・個性、思い出
・その家独特の空気感

といった、家主に関連するものだったりします。

長年多くのお宅を見てきましたが、こういったモノを組み合わせて足していくことで、確実にすてきな部屋に変わっていきます。

私の仕事は、「いかに足すか」といっても過言ではないでしょう。

「フォーカルポイント」をつくるだけでもいい


特に部屋に「最初に視線が行く場所」がしっかりつくってあると、第一印象がグっとよくなり、すてきな部屋に見えます。

「最初に視線が行く場所」とは、玄関のドアを開けると見える正面の壁、リビングに入ったときに目が向かう場所、あるいはトイレに入った際の正面の壁などです。

正面にかぎらず、目を引く美しいインテリアや飾りつけがあればそこに最初に目が行きます。これが、「フォーカルポイント」です。


ドアを開けたときに最初に目が行くフォーカルポイント。(写真:『イギリス人の部屋はなぜ物が多くても素敵なのか』より)

そして、モノがたくさんあるのに、ごちゃごちゃしている印象はなく「なんだかおしゃれ」な家もイギリスにはたくさんあります。いわゆる「外国っぽい」感じです。そのようなインテリアを目指したい人もいるでしょう。

その場合も、キャビネットの上の写真や置き物、壁いっぱいのアート、たくさんの色や柄の布製品など、もちろんたくさん「足して」います。

ですが、ただモノを足しているのではなく、「視線が行く場所」をいくつもつくっていて、モノが多い中にもメリハリをつけているのです。


『イギリス人の部屋はなぜ物が多くても素敵なのか』(著:飯沼朋子/飛鳥新社)

こういったアイテムは最初から計画的に置かれたものばかりではなく、時間が経つにつれ、少しずつ増えていくことがよくあります。

部屋に飾る写真がわかりやすい例です。

自分や家族の写真が時間と共に増えていき、目に入るたびに楽しかった思い出がよみがえってきてホッコリしますよね。

「足す」ことにより、目と心を楽しませるアイテムを少しずつ増やしていくのはインテリアの楽しみの1つです。

1つずつ足していくことでインテリアをつくり上げていく——。

「足す」とは、あなた、そして家族の歴史の積み重ねでもあります。

「引き算」の美学を持つ日本人


一方で、私たち日本人はどうしても引こう、引こうとしてしまいます。なぜなら、日本人は、文化的に引き算の美学を持つ民族だからです。

日本風の家屋には、柱やふすま、障子、畳などで縦横のラインがたくさん存在し、建った時点ですでにインテリアデザインが完成しています。

一方、イギリスなどヨーロッパ諸国の場合、家を建てた時点では、白い壁と白いドアしかない、のっぺらぼうの状態です。

だからこそ、家具や布製品で利便性や快適性を整え、壁の色や柄、インテリア小物などによって部屋を部屋らしくつくっていく必要があります。「足し算」のインテリアが発展した理由です。

次のイラストを見れば、インテリアデザインのスタートが違うことは一目瞭然ですよね。

洋風の部屋は真っ白いキャンバス


この記事を読まれている多くの人は、和室がほとんどない、洋風の暮らしをしていると思います。

洋風の部屋は、絵画にたとえるなら、真っ白なキャンバスです。どんなモノや色を足していくかは住む人次第。すべてをあなた色に染められます。イギリス人は、そこにワクワクした楽しさを感じています。

ところが、私たち日本人は、「引き算」を美学としてきたため、好きにインテリアをデザインしていいよ、と言われても、「どこ」に「何」を「どうやって」配置し、「何」を「どう」飾ったらいいのか迷ってしまうのです。

そして、部屋をすっきりさせることを考えてしまいがちです。

実際、多くの日本人は「片づけさえすればすてきな部屋になるはず」と思いがちですが、実はそれだけではおしゃれで居心地のいい部屋にはなりません。

インテリアがうまくいかないのは、洋風の暮らしをしているのに、日本の「引き算」の美学を実践しようとしているからなのです。

そうではなく、「インテリアは足すことでうまくいく」と意識してみてください。

モノを足すほどに、使い勝手がよくなったり、あなたらしさが際立って魅力的な部屋になっていきます。

日本人には日本人らしい美的センスがあります。

だからこそ、「足すこと」で自分のセンスを活かし、もっと豊かなインテリア空間をつくり出せるのです。

※本稿は、『イギリス人の部屋はなぜ物が多くても素敵なのか』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

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