レジェンド2人によるユニット「VINYL」が再始動、黒服系キャリアから脱却したポップな音楽性
2025年5月30日(金)6時0分 JBpress
(冬将軍:音楽ライター)
90年代から現在までの、さまざまなヴィジュアル系アーティストにスポットを当て、その魅力やそこに纏わるエピソードを紹介していくコラム。今回は2024年に再始動を果たしたユニット・VINYL。hideの立ち上げたレーベル「LEMONed」の中でも異彩を放っていた彼らは、再始動でどんな音を奏でるのか? (JBpress)
25年ぶりに再始動
2024年にまさかの再始動を果たしたVINYL。今年3月のライブではサポートを務めるValentine D.C.のベーシストJUNが、2023年10月29日に急逝したX JAPANのHEATHの愛用ベースを持ってステージに上がることが事前に告知され話題になった。
VINYLは、黒夢のレコーディング中に脱退し、その動向に注目が集まっていたギタリスト臣こと鈴木新と、D’ERLANGERの2代目ボーカルであり、STRAWBERRY FIELDSを解散後、表舞台から姿を見せていなかった福井祥史の2人が組んだことで、大きな話題を呼んだユニットである。
VINYLはhideなくして語れないだろう。多くの音楽ファンがVINYLを知ったのはhideが掲げた『LEMONed』というコンピレーションだった。
hideの立ち上げた「LEMONed」
ZEPPET STOREのインディーズ1stアルバム『Swing, Slide, Sandpit』を偶然聴き、その音楽に衝撃を受けたhideは彼らを世に広めるために「LEMONed」を立ち上げる。音楽のみならずアートやファッションなど、単純に“良い”と思ったモノや人を集めていくこのLEMONedについて、hideは“レーベル”という言葉を用いていなかった。そんな得体の知れないLEMONedのお披露目作品、4アーティスト収録のコンピレーション『LEMONed』がCD、ビデオで1996年5月22日にリリースされた(LPは10月23日リリース)。
このオムニバスには聴いたことのないようなハイセンスな音楽が詰め込まれていた。ZEPPET STOREと、LEMONedのアートディレクションを担当したアートユニット、t.o.Lのセルフプロデュースバンド、tree of life。その中で1曲だけ異質な音楽があった。
音数の少ないバンドサウンド、ハードなギターが耳を襲う。極度に深く掛けられたディストーションギターは音が潰れているようにも聴こえるし、がなるようなボーカルも日本語のようで何語なのかわからない。これはハードロックなのか、オルタナティヴロックなのか、とにかくハイテンションでフルスロットル、そんな言葉が似合う音楽だった。サビだけはとにかくポップで、明瞭な日本語が踊っている。それが、VINYLの楽曲「BE」だった。
hideはギクシャクした発音を持った熟語や慣用句を使い、さらにイントネーションやアクセントをズラすことで、日本語を英語風に聴かせることを得意としていたが、「BE」に登場する〈照魔鏡〉〈カッコマン〉という福井のワードセンスも冴え渡っていた。平歌をそうした独特の言葉選びと発音で、日本語ではないように聴かせていたのだ。
『LEMONed』のアーティストは2曲ずつ収録されていたが、VINYLの破壊力を知らしめるには「BE」1曲で充分だった。これがあの福井と鈴木というレジェンド2人によるユニットだったとは……。
歌モノのポップロックに弾きまくりのギター
VINYL結成の経緯についてはソロ活動を模索していた鈴木が、福井に声を掛け、そのことを当時の所属事務所ヘッドワックスオーガナイゼーションの社長であったhideに話したところ、「すぐ一緒にやれ」と言われたことを、後年明かしている。
さらに同年9月に千葉マリンスタジアムで行われた、LEMONedの決起集会ともいえる『hide Indian Summer Special』では、ベースにSEELA(ex. D’ERLANGER)、ドラムに池畑潤二(ex. ルースターズ)という豪華なサポートメンバーを迎えたライブを展開。暴れに暴れたパフォーマンスも大きな話題になった。そして1997年9月、日清パワーステーションにて初ワンマンのコンベンションライブを成功させ、11月に1stシングル『とまらない鼓動』でメジャーデビューする。同曲は本来1996年8月にMCAビクターよりリリース予定であったが、ニュートーラスへ移籍。再録されてリリースされている。
同曲が収録された1stアルバム『Go to VINYL』は、1997年12月20日リリース。白井良明(ムーンライダース)をプロデューサーに迎えて制作された。「とまらない鼓動」や、のちにシングルカットされた「20世紀のマスタード」、攻めに攻めまくるアッパーなナンバー「逃げろ!」、デジタルダンスチューン「Dance on me」など、バラエティに富んだ楽曲が詰め込まれている。
歌モノのポップロックに軸足を置きながらも、ハードロック&ヘヴィメタルな弾きまくりの鈴木のギターが圧巻だ。真空管アンプフルテンさながらの豪快なディストーションが猛り狂うバイトサウンドで、ヘヴィリフからエッジィなキザミ、シュレッドなギターソロなど、華麗で鮮やかなプレイを至るところで聴かせている。黒夢では影を潜めていた鈴木のメタルルーツを全開にしたギタープレイが堪能できる。これだけ弾きまくれるのは福井の強靭なボーカルがあってこそのものだろう。
サウンドもプレイもこんなにもギターが前面に出ているにもかかわらず、はっきりと聴こえる福井のボーカルが凄まじい。自由気ままに書かれた歌詞と野生味に溢れた野太く滑舌の良い声は、同シーンのバンドには見られないスタイルである。STRAWBERRY FIELDSのフロントマンと、黒夢のギタリストが、新たにこうした音楽をやっていることが、誇らしく思えたものである。
黒服系キャリアから脱却したアートワーク
そのハードながらもポップな音楽性はヴィヴィッドなカラーを用いたファッション&アートワーク周り同様に、2人の黒服系キャリアからの良い意味での脱却があったように思う。“ヴィニイル”というカタカナロゴも奇抜でイカしていた。当時はシーンに脱ヴィジュ(脱・ヴィジュアル系)やソフヴィ(ソフト・ヴィジュアル系)への潮目もあったし、裏原宿ブームのファッションの流行もあった。何より、サイバー系ファッションの最先端を行っていたhideの影響力は大きいはず。
その後は先述の「20世紀のマスタード」が日本テレビ系『進ぬ!電波少年』エンディングテーマとしてシングルカット(1998年3月4日リリース)、テレビ東京系『64マリオスタジアム』エンディングテーマ表題曲「ずっとそばにいて」(1998年5月13日リリース)と2枚のシングルをリリースするも、1999年12月31日を以って活動を停止した。
福井は2000年4月29日、渋谷ON AIR EASTでのソロライブを以って引退。そして2012年5月4日、病気を克服した旧友の呼びかけによってVINYLは1日限定で復活している。
そして、2024年の再始動である。ライブのみならず、過去の未発表音源もアナログ盤でリリースした。冒頭で述べたライブは、PATAとhide with Spread BeaverのDIEが在籍するバンド、Ra:INとの2マンだった。
6月からはKIYOSHI率いるMAD BEAVERSとのスプリットツアー『NOTHING BUT FUTURE』を開催するVINYL。往年のファンにはたまらない攻勢である。
筆者:冬将軍