フィギュアスケーター・三浦佳生の目指すもの、最大の武器であるスピード生かした理想の演技とは

2024年9月19日(木)8時1分 JBpress

文=松原孝臣 撮影=積紫乃


スピードを培うことができた要因

 昨シーズン、初めて世界選手権に出場するなど飛躍の1年を過ごし、課題を見出しつつそれも含め収穫を得たフィギュアスケーター三浦佳生。その持ち味として、スピードがあげられる。

「もともとスピードを出してジャンプを跳びたいタイプで、それが小さい頃からあって、何も考えなくてもスピードが出るようになりました。最初はたくさん力を使ってこいで、こいで、とやらないとスピードが出なかったんですけど、だんだんエッジの乗る位置とか、効率のいいスケートの仕方とか、そういうものを意識しだしてからやっと楽にスピードを出すというやり方も身につけてきました」

 スピードを培うことができた要因には小学3年生から中学1年まで都築章一郎コーチの指導を受けたことにもあるという。

 練習の特色の1つに早朝のランニングがあった。

「練習前、めちゃめちゃ走ってましたよ。朝4時に集まって、リンクの横にある公園を50周、多いときは100周、走りました」

 その公園は都心部に見受けられる狭いものではなく、ジョギングに活用できるような大きな公園だ。

「(青木)祐奈ちゃんも同じ時代の仲間の一人ですけど、誰に聞いてもみんな『しんどい』って口を合わせて言うと思います。でも楽しかったですよ。都築先生に教わった時代があったからこそ、ジャンプの前でもスピードを落とさずに突っ込んでいくこともできますし、じゃなかったらここまでスピードも出せてないし、チャレンジ精神もここまでなかったかなと思います」

 スピードという武器を軸としつつ、心に抱いてきた方向性がある。

「もともと自分はフィギュアスケートを見るのが好きで、特に2010年代のフィギュアスケートが好きです。その頃のスケートは1人1人、スケートの技術や個性が光っていた印象があって、自分もそういうスケートがしたいと小さい頃から意識するようになりました。自分はスピードを出すというところに個性があるので、それをよりいかしていくための表現の仕方だったり、スケートの技術のあり方に意識を置いています」

 だから、近年出演する機会が増えているアイスショーは貴重な時間になる。

「今回(8月30日〜9月1日)の『フレンズオンアイス』などのショーでは、アプローチだったり滑りが上手なスケーターさんばかりなので、ほんとうに見て学べるいい機会です。どの選手を見てもクロス一歩で全然力を使っていないように見えるけれど実はスケートはかなり滑っている。そういった効率のいいスケートをされているので、どうやったらできるかというのを見て学んで、かつ、上半身の使い方とか体の使い方にも意識を置いている方たちばかりなので、そういったところも見て学んでいます」


見ている人が楽しんでもらえるような演技

 その先に見据える理想の演技についてこう語る。

「ざっくり言えば、見ている人が楽しんでもらえるような演技が目標です。フィギュアスケートは競技なので、どれだけ演技がよくてもジャンプがはまらないと見ている人の気持ちは変わらないので、そういった意味でもジャンプも必要になってきますし、いかに自分のスケートを見せながらジャンプを入れるか要素を入れるかというところにもっと意識を向けてやっていければ、徐々に理想に近づけていけると思います」

 男子は若い世代が台頭し、一方でキャリアを重ねてきた選手もいる。そんな現在の状況も、より自分らしさの追求に拍車をかける。

「今、面白い時代にはなってきていると思っています。例えば、イリヤ(・マリニン)みたいな4回転をたくさん入れてすごい点数を出す選手もいれば、ジェイソン・ブラウン選手みたいな表現やつなぎ、その中で完成度のあるジャンプをトータルパッケージで見せる選手もいる。いろいろな戦略があって見ていても面白いと思います」

 8月、来年行われるミラノ・コルティナダンペッツォオリンピックで日本が使用する練習拠点を利用しての日本代表合宿に参加した。

「これといった感想はないんですけど、イタリアを直接訪問して、まだできていない選手村を見たりして、やっぱりオリンピックが近づいているなという気持ちにはなります。かといって、僕は意識すると駄目なのでなるべく意識はせず、ベストコンディションで行けるような練習をしていきます。1シーズン1シーズンを別物だと捉えて、まずは今シーズンを大切にしていきたいと思います」

 シーズンに携えるプログラムについてはこう語る。

「ショートプログラムは『Conquest of Spaces』という曲なんですけれど、振付師の方に言われたイメージで言えば、最初地球にいるんですけど地球にいることに飽き飽きした人が宇宙に冒険に出るというテーマです。難しいですけど解釈して腕のマイムであったり、そういったものもけっこう使っていてダイナミックであり、でも不思議な感覚になるプログラムなので見ている人も楽しめるんじゃないかな、と。

 フリーは『シェルブールの雨傘』です。映画で知っている方も多いと思うんですけど、自分も好きな映画で、その映画のストーリーだったり世界観というものを振付師のシェイリーン・ボーンさんとアイデアを出し合いながら作った、こだわりのあるプログラムです。ぜひ楽しみにしてもらえればなと思います」

 三浦と言えば、試合後などの取材での言葉が際立って個性的であることでも知られる。

「自分がしゃべりたいことをしゃべっているという感じで言葉が出てきていて、意識して作ろうとすると逆に出てこないと思います(笑)」

 自然体で飾らず、まっすぐにフィギュアスケートと向き合ってきた三浦佳生は自身の武器をさらなる個性へと磨き上げ、理想へ向かって進んでいく。

筆者:松原 孝臣

JBpress

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