南阿蘇鉄道のトロッコ列車「ゆうすげ」奇跡の復活を遂げた改造貨車の魅力とは

2023年10月20日(金)12時0分 JBpress

文・写真=山﨑友也 取材協力=春燈社(小西眞由美)


2023年7月15日に奇跡の復活

 九州のど真ん中、阿蘇のそよ風を浴びながらのんびりと走る南阿蘇鉄道。雄大な自然を感じられることで人気の高いこの路線は、今年の7月15日に奇跡の復活を遂げたことでも話題になった。

 2016年に起きた熊本地震によって線路や駅、トンネルなど施設の大部分が甚大な被害を受けたため、一時は全線運休を余儀なくされていた。その後7月には比較的被災の少なかった中松〜高森間で運行を再開したものの、全線復旧までのめどは全く立たない状況だった。

 しかし復活へ向けての思いは諦めることなく、沿線自治体や国の協力はもちろんだが、なにより全国のファンや企業から多くの支援と励ましや応援を受け、7年3ヶ月ぶりにようやく南阿蘇鉄道は全線運転再開へとこぎ着けたのだ。

 そんな南阿蘇鉄道の代名詞ともいえるのが、トロッコ列車の「ゆうすげ号」。そもそもトロッコとは荷物輸送用の屋根のない貨車のことで、「ゆうすげ号」の車両もその無蓋車と呼ばれる貨車を改造して作られた。

 晴れた日には窓を使用しないため高原の爽やかな空気が車内を駆け巡り、阿蘇五岳や外輪山など迫力抜群の景色を五感で味わえる。これがなにより「ゆうすげ号」が大人気の理由である。ちなみに愛称の「ゆうすげ」とはユリ科の高山植物で、沿線で夏に見られる黄色い花のこと。


南阿蘇鉄道最大の見所

 さてボクなりの「ゆうすげ号」の楽しみ方をここで伝授しておこう。列車の運転日は3月中旬から11月までの土日祝日と春や夏の多客期で、立野駅発高森駅行きの下り列車とその逆の区間を走る上り列車とが1日2往復走っている。

 ボクのお勧めは13時40分に高森駅を発車する立野行きの上り「ゆうすげ4号」だ。できれば阿蘇五岳が望める進行右側の席を確保したいところだが、惜しいことにトロッコ列車は座席の予約はできても指定をすることができない仕組みになっている。だがそこは貨車からの改造車。窓枠が景色を邪魔することなく開放感ある車内のため、進行左側の席だとしても絶景を存分に楽しめるのでご心配なく。

 阿蘇の大パノラマを堪能したら、終点立野駅に到着する手前にクライマックスが待ち受けている。南阿蘇鉄道最大の見所である第一白川橋梁を渡るのである。この橋梁は1927年に架けられた、長さ166.3mものバランスドアーチ橋。国内初の鋼製アーチ橋であることから2015年には推奨土木遺産にも選定されたのだが、先の地震で大きく被災。そしてこの修復こそ、鉄道が完全復旧するためへの最大の足かせとなっていた。

 ただし鉄道を残そうとする人々の並々ならぬ意思のもと、巨大な橋を直に吊上げたまま撤去するという前代未聞の工法で工事を実施。そして約5年の歳月をかけて、旧橋梁と同じような形式のアーチ橋を架け替えることに見事成功したのである。とはいうもののこの橋は水面からなんと約60mもの位置にあるため、そのような感動に浸るよりもあまりの高さで足が震えてしまうかも。

「ゆうすげ号」の乗り心地はもとが貨車なだけにそれほど良くはないが、考えてみれば貨車に乗れるほうが貴重である。1両に車軸が2本しかないためガッタン、ゴットンというゆっくりとした線路のジョイント音や、線路や路盤のわずかな凸凹でも伝わってくる振動など、普段の列車とは違う独特の乗り心地を楽しむのもおつなもの。また小さくかわいい機関車が客車を挟むように前後に1両ずつ連結され、プッシュプルで運転されているのも大変珍しい方式だ。

 余談になるが立野の隣にある長陽駅は、南阿蘇鉄道の前身である旧国鉄高森線が1928年に開業した当時のままのたたずまい。昭和にタイムスリップしたような駅にはカフェ「久永屋」が営業しており、素材にとことんこだわった資本(シフォン)ケーキなどが駅舎内やホームで食べられる。甘いもの嫌いのボクがイチオシするほどなので、味はここで述べるまでもないだろう!

筆者:山﨑 友也

JBpress

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