駒大・篠原、山川、創価大・吉田響…全日本大学駅伝で大活躍したランナーたちの伊勢路の快走劇と箱根への思い
2024年11月9日(土)6時1分 JBpress
(スポーツライター:酒井 政人)
吉田響がまたしてもスピード区間を爆走
國學院大が初優勝を遂げた全日本大学駅伝。チームでは目標に届かなかったが、“個”で強烈な輝きを放った選手がいた。まずは出雲駅伝に続き2区を任された創価大・吉田響(4年)だ。
出雲では区間2位に32秒差をつけるダントツの区間賞。今回も自ら志願して“スピード区間”の勝負に臨んだ。
「30分台を目標にしていました」という吉田は、トップと2秒差の3位でスタートすると、佐藤圭汰(駒大3)が持つ区間記録(31分01秒)の更新を目指して突っ走った。
1区で大差がつかなかったため、吉田を先頭に10人ほどの選手がトップ集団を形成したが、徐々に人数が削られていく。5kmは13分52秒ほどで通過。7km過ぎからは青学大・鶴川正也(4年)との一騎打ちになった。
残り500mほどで5000m13分18秒51のスピードを誇る鶴川に引き離されたものの、追いつき、前に出る。最後はわずかに先着を許して、区間賞争いも鶴川に1秒敗れた。それでも後続に41秒差をつけるインパクト抜群の走りを披露した。
「向かい風がきつくて後半は持ちませんでしたね。でも前に出させたら勝てないと思っていたので、最後まで自分が絶対前で走るんだという気持ちでした。今回は後ろを引き離してトップで渡すことができなくて、すごく悔しいです」
本人は納得していなかったが、最後まで競り合った鶴川が「本当に吉田響君は強くて、引っ張ってもらうかたちになりました。ラストは引き離したのにもう一回きて、こんな選手見たことない」と絶賛するパフォーマンスだった。
スパート合戦に負けた吉田だが、次は得意とする上りで勝負する。「自分は4年間、『山の神』を目指してきたので、5区を68分台で走って、区間記録(69分14秒)を塗り替えたい」と最後の箱根駅伝で“神”になるつもりだ。
7区のエース対決を制した駒大の主将
出雲駅伝は國學院大・平林清澄(4年)と駒大・篠原倖太朗(4年)のアンカー勝負になった。“主将&エース”同士の対決に篠原は敗北。区間タイムは平林に36秒差をつけられて、青学大・太田蒼生(4年)と同記録の区間3位だった。
篠原にとって“悪夢”となった出雲駅伝から約3週間後、今度はハーフマラソンの学生日本人最高記録保持者が意地を見せた。
当初は2区篠原、7区桑田駿介(1年)の予定だったが、大八木弘明総監督が桑田の状態を不安視。当事者同士の相談となり、「自分を平林に当ててほしい」と篠原が志願するかたちで7区に入った。
「全日本7区は田澤廉さん、鈴木芽吹さんが走ってきた区間。自分が2区というのは劣等感もあったんです」
駒大のエースとして篠原は7区での勝負を熱望した。そして快走を見せる。
トップ青学大と2分43秒の4位でスタート。当初の設定タイムは「51分10秒」だったが、追い風を受けて、10kmを28分18秒で突っ込んだ。
「出雲のやり返しというよりは、自分の走りに集中しました。前を詰めるしかないので、最低限、メダル圏内に押し込む込むことを意識しましたね。追い風が吹いていたので田澤さんの区間記録(49分38秒)を狙えるかなと思ったんですけど、10km通過時でちょっと厳しいなと感じたので、自分のペースにチェンジしました」
創価大を抜いて3位に浮上した後は見えないライバルを必死で追いかけた。國學院大・平林と青学大・太田だ。
ふたりに大きく近づくことはできなかったが、競り合って進んだ太田と平林のタイムを10秒上回る49分57で区間賞に輝いた。
それでも本人は、「前ふたりとさほど差がつかなかった。それはちょっと悔しいですし、及第点かなと思います」と満足はしていない。今後は11月23日の八王子ロングディスタンス10000mで学生日本人最高記録(27分21秒52)の更新を目指して、最後の箱根駅伝に向かう。
「箱根は2区を意識しています。平林とは1勝1敗なので、どっちが強いか決めたいですね」と篠原。駒大のエース&主将として、最終決戦では國學院大の「3冠」を食い止め、チームを総合Vに導く覚悟だ。
山川が最終8区で日本人歴代2位の快走
伊勢神宮へと続く道。2分半以上も先にスタートした青学大と國學院大に急接近したのが駒大・山川拓馬(3年)だ。前年も8区で区間賞を獲得しているが、今年はさらに強かった。
「花尾さんの記録は絶対抜きたいと思っていましたし、条件が良ければ56分台を狙いたいね、という話をしていたので、8区が決まった時点で『やるしかない!』と思っていました」
山川は2022年大会で区間賞を獲得した先輩・花尾恭輔(現・三菱重工)の記録(57分30秒)だけでなく、早大・渡辺康幸(現・住友電工監督)が1995年に打ち立てた56分59秒の日本人最高記録も視野に入れていた。
前が見えない展開で、5連覇は絶望的だった。それでも山川はあきらめていなかった。
「とにかく突っ込んで、あとは一定ペースで行き、ラストもう1回上げるのが自分のプランでした」
5km付近で中継車や白バイが見えるようになり、「追いつくしかない」という気持ちが高まった。中継所では2分37秒差あった青学大を18.7kmで逆転。國學院大の背中にも近づいていく。
そして國學院大の初優勝が決まった28秒後にゴールテープへ駆け込んだ。山川は8区19.7kmを日本人歴代2位の57分09秒で走破した。しかし、「悪くはなかったんですけど、勝てていないですし、日本人最高記録にも届いていません。夏にちゃんと距離を踏めていなかった部分が出たのかなと思います」と不満を口にした。
昨年は全日本大学駅伝の後に左恥骨を疲労骨折。箱根駅伝には間に合わせたが、4区で区間6位と本領を発揮できなかった。
3回目となる箱根駅伝は、「チーム状況に応じて、任された区間をやるだけですけど、正直、山をやりたいです」と1年時に任された5区を希望。「68分台を目指したい」と区間記録の更新を狙っている。
伊勢路で輝いたエースたち。箱根路でもドラマを作ってくれるだろう。
筆者:酒井 政人