【受験2022】家族の予防接種歴を総チェック…万全の体調で当日を迎えるために
2021年11月11日(木)14時15分 リセマム
秋が深まり、いよいよ到来する受験シーズン。我が子が実力を発揮できるよう体調管理に心を砕かれている保護者も多いのではないだろうか。受験生をおもちのご家庭、そして未来の受験生を子育て中の保護者に向けて、子供の感染症と予防接種について、小児科専門医・日本医師会認定産業医の諏訪内亜由子(すわないあゆこ)先生に話を聞いた。
<この記事でわかること>
1、アルコール消毒だけでは防ぎきれない感染症
2、「防げる病気は防ぎたい」予防接種の大切さ
3、兄弟の接種歴も総チェックして家庭内感染を防ぐ
4、頻繁に更新されるワクチン情報、最新のものを入手して
アルコール消毒だけでは防ぎきれない感染症
諏訪内先生は、感染症により受験のタイミングで体調を崩さないために予防接種が大切であると指摘。接種歴の見直しと接種スケジュールの確認の重要性を語った。
--受験シーズンが本格化してくるこれからの時期に増えてくる感染症の疾患についてお聞かせください。
本来、冬は風邪全般に気を付けるのはもちろん、インフルエンザや、ノロウイルスなど胃腸系の感染症が流行りやすく、注意を払うべき時期です。ところが昨今、新型コロナウイルスの影響で感染症の流行時期が判断しづらくなっています。2021年夏、本来冬に流行るはずのRSウイルス感染症が大流行し、大変な思いをされたご家庭も多かったのではないでしょうか。そのため「冬だから何か特別に気を付けよう」というのではなく、まずは手洗い・不織布マスク着用を徹底したうえで、バランスの良い食事を摂り、適度に運動し、よく眠るという基本的な体調管理に立ち返ることが大切です。
とはいえ、冬はやはり乾燥しやすく、寒さで窓を閉めて換気が不十分になるなど感染症が流行りやすい要素も多いため、その部分は夏より気を付けなければいけません。
--不織布マスク着用や手指消毒など、衛生面での意識は高まっていると思うのですが、それだけでは防ぎきれない部分もあるということですね。
1つ気を付けていただきたいのは、アルコールの手指消毒についてです。ロタウイルスやノロウイルスといった胃腸系のウイルスや、手足口病の原因ウイルス、アデノウイルスなどは「ノンエンベロープウイルス」と呼ばれ、ウイルスの構造上、アルコール消毒が効きません。対策としてはやはり基本の手洗い。胃腸炎はウイルスが口の中に入ることによって起こりますから、帰宅時、食前後(学校で配膳がある場合はその前後)、トイレ後など、適切なタイミングで石けんで手洗いをし、手に付着したウイルスを物理的に洗い流すことが大事です。もちろん、アルコール消毒の効くウイルスにも石けん手洗いは有効です。
「防げる病気は防ぎたい」予防接種の大切さ
--諏訪内先生が小児科医として現場で感じていらっしゃる「受験生が気を付けたい感染症」について教えてください。
感染症の中には「学校感染症」といって発症すると学校保健安全法により「出席停止」になるものがあります。感染症が広まらないように、症状が治まっても一定期間は出席停止期間が設けられています。感染症になれば受験機会が失われる可能性があり、直前期の場合も思うように勉強に取り組めません。人混みに遊びに行く、普段は会わない人と会うなど、いつもと違う行動はしないことをお勧めします。受験生は年末年始やお正月など大勢での会食も避けた方が良いですね。
まず、ワクチンで防ぐことが可能なものをいくつかご紹介します。
水痘(みずぼうそう)やおたふくは、潜伏期間が2〜3週間あり、年齢が高くなってから発症すると症状が重くなることがあります。水痘の場合、すべてのブツブツがかさぶたになるまで出席停止です。学校感染症の場合は別室受験も認められないケースがほとんどだと思います。幼稚園や保育園のお子さんが感染し、そこから兄や姉がうつって小学校で流行ることもありますので、予防接種は受験生本人だけでなく兄弟の接種歴も含めてチェックしてください。予防接種の効果や副反応については、日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報 」(no.16、17が該当の感染症について)を参照してください。水痘が定期接種になったのは2014年ですので、今年中学受験を迎える、現在の小学校高学年以上のお子さんは、定期接種化前の世代です。任意接種は有料(地域によっては自治体補助がある)ということもあり、接種していない人がいる可能性もあるので改めて確認してほしいですね。おたふくは現在も任意接種で自費になりますが、小児科では接種をお勧めしています。
次に、百日咳です。百日咳は、小さなお子さんでは重篤な症状を引き起こすものの、中学受験生以上では、適切な治療があれば「こじれた風邪」程度で済むかもしれません。とは言え、そもそも普通の風邪ですら引きたくない受験生が「こじれた風邪」にはかかりたくないですよね。速やかに診断され、適切な抗生剤を飲めば治りますが、そうでないと咳が続き、苦しい期間が続きます。予防接種は乳幼児期に定期接種の3種混合(ジフテリア・百日咳・破傷風、現在はポリオを含む4種混合)として打っているはずですが、小学生ぐらいになると百日咳の抗体は減ってしまいます。日本小児科学会では、任意ではありますが5歳から11歳での追加接種を推奨しています。年長さんの麻疹風疹や9歳の日本脳炎の追加接種時に同時接種をする、11歳の2種混合(ジフテリア・破傷風)を3種混合に変更するのがお勧めです。
また、髄膜炎菌感染症は学校保健安全法で定められた感染症の1つで、飛沫感染で髄膜炎菌が鼻や喉の粘膜から入ることで起こります。髄膜炎菌による髄膜炎は初期症状が風邪と似ており、早期診断が難しい病気です。他の菌による髄膜炎よりも進行が急激なのが特徴で、発症後2日以内に、5〜10%が死亡します。適切な治療が受けられても、神経障害や手足の切断などの後遺症を残すことがあります。集団生活で感染リスクが上がるといわれていますので、特に寮のある学校への進学や運動部などの集団生活、海外留学での入寮の予定がある場合※1は、入学前の接種※2を推奨しています。
※1 米国では入学に際して接種証明が必要
※2 乳児期に行う、肺炎球菌やHibの髄膜炎予防のワクチンとは異なる
さらに、ワクチンがないけれど気を付けたい感染症として、伝染性単核球症があります。初めて耳にする方も多いかもしれません。思春期以降の若い人がEpstein‐Barr ウイルス(EBウイルス:EBV)に初めて感染することで起こります。乳幼児期の感染では「不顕性感染」といって症状が出にくく、思春期以降で初めて感染すると症状が出やすいのが特徴です。潜伏期間は1〜2か月で、極度の疲労感、高熱、喉の痛み、リンパ節の腫れが起こります。症状は2週間ほどが多いですが、何か月も続くこともあります。特別な治療薬もなく、安静と対症療法で軽快するのを待つしかありません。「キッシングディジーズ(Kissing disease)」とも呼ばれ、飲み物や食べ物のシェアなどでも感染します。コロナ禍で機会は減っていると思いますが、部活動でのスポーツドリンクの回し飲みなどは感染リスクが高いので避ける必要があります。
こういった病気について、受験前は受験生本人だけでなく、年下の弟妹も含めて家族一丸となって対策していただきたいですね。乳幼児期に適切な予防接種の機会を逃してしまったがゆえに受験期に感染症に罹ってしまうお子さんも少なくありません。
兄弟の接種歴も総チェックして家庭内感染を防ぐ
--生後2か月から始まる予防接種ですね。日々子育てや家事に忙殺される保護者の方にとって、スケジュール管理が難しい部分もあると思います。
おっしゃる通り、子供の予防接種をされていないご家庭で多い理由は「忙しくて忘れていた」「接種時期を逃してその後受診しにくかった」というものです。たしかに、複雑な接種スケジュールを読み解くのは大変かもしれません。NPO法人の「 VPDを知って、子どもを守ろうの会(以後VPDの会)」の予防接種スケジュール表は最新で見やすいですし、日本小児科学会のサイトの「知っておきたいわくちん情報」というページには、1つずつの病気の説明、ワクチンの効果や副反応について分かりやすく解説されているのでお勧めです。
百日咳や水痘、おたふくかぜや百日咳などは、ワクチン接種をしていれば予防できる、もしくは軽症で済む感染症です。接種せずに感染し、受験機会を逃してしまったら悔やんでも悔やみきれませんので、1月の受験時期を見越して、インフルエンザや新型コロナのワクチンと併せて、抜けていた予防接種があれば年内の接種をお勧めします。おたふく・水痘などの複数の異なる種類の生ワクチンと三種混合・インフルエンザなどの複数の異なる種類の不活化ワクチンは同日に同時期接種することが可能です。接種間隔は分かりづらいので、かかりつけの小児科に相談し、必要なワクチンを見極めてもらうのが良いですね。
なお、新型コロナワクチンは、12歳の誕生日が来たら接種できます。日本はコロナワクチンと他のワクチンの同時接種はできず、前後2週間、間をあけないといけません。コロナのワクチン接種は日程を動かしづらいと思いますので、優先して打つと良いと思います。なお、接種券がお誕生日前に来る自治体ではお誕生日が来てからすぐに摂取できるように、事前に予約を取ることも可能です。
--インフルエンザの予防接種を検討する場合、受験時期から逆算していつまでに接種するのが望ましいでしょうか。
例年であれば10月中に1回目を、11月に2回目を接種するパターンが一般的です。12歳以下は2回接種で、1回目と2回目の間は2〜4週間空ける必要があります。13歳以上の高校受験生や大学受験生は1回のみの接種です。
ワクチンの効果が出るまで接種から2週間かかりますから、流行りだしてから打つのでは間に合いません。ワクチンの枠が埋まらないよう、まず予約をしてワクチンの確保をすると安心ですね。
冒頭でお伝えしたように、新型コロナの影響で感染症の流行時期を予測しづらくなっています。インフルエンザも2020年は感染者数が激減したものの、2021年秋から2022年春にかけての流行予測に関しては、専門家も2つの立場に分かれています。いずれにしても日本感染症学会では、インフルエンザワクチンの接種可能な時期がくれば速やかに接種するのが望ましいと示しています。
ただ2021年はワクチンの供給量自体が少なく、小児科でのワクチン接種は予約がすでに埋まっているところも多いと聞きます。内科や耳鼻科、皮膚科などの診療科でもワクチンを取り扱っているところがありますので、小学生以上は近くのクリニックに問い合わせてみても良いでしょう。乳幼児の場合は小児科での接種をお勧めします。
頻繁に更新されるワクチン情報、最新のものを入手して
--予防接種の接種状況を振り返ることは、現在受験生のご家庭はもちろん、将来受験を予定されているご家庭にとっても大切ですね。「接種し忘れ」を防ぐためにも、保護者の方が心がけておくと良いことはありますか。
予防接種は、以前は任意接種だったものが定期接種になったり、推奨される接種回数が変わったりすることがあります。まずは、最新の接種スケジュールとお子さんの接種歴を見比べ、接種漏れがないかどうか受験生のみならず兄弟の分も含めて確認してほしいですね。接種記録を母子手帳でされているご家庭が多いと思いますが、母子手帳は自治体によって仕様が異なり、おたふくなど任意接種の欄がしっかり確保されていないものもありますし、最新のワクチン情報も載っていません。先ほどご紹介した日本小児科学会や「VPDの会」など、わかりやすく情報を発信しているWebページを参考にすると良いとます。抜けていたものがあれば、かかりつけの小児科に接種スケジュールを相談するのがお勧めです。また高校1年生の11月までに接種しないと無料で接種できないHPVワクチンのようなものもありますのでご注意ください。小さいころ打つべきワクチン接種をしばらく忘れてしまっていても、「ワクチン接種しよう」と来てくださる親子を小児科医はいつでも歓迎しています。
--実は諏訪内先生ご自身も受験生のお子さまを子育て中でいらっしゃいますね。同じ受験生をお持ちのリセマム読者のみなさんにメッセージをお願いします。
受験には何年も前から準備が必要ですし、家族をはじめ周囲のさまざまな協力があって当日を迎えます。体調管理はもちろん、本人の力を発揮できるベストな状態で臨みたいと願っています。
予防接種に関しては、子供本人ではどうにもできませんので、保護者の方に接種記録を確認していただくことが大切です。予防可能な感染症について正しい知識をもって対策していきたいですね。頑張ってきた受験生みんなが、病気に足を引っ張られることなく、力を発揮してほしいと思います。
また、大学受験を終えて新生活を始めるお子さんには、母子手帳の中の「かかった病気・受けたワクチン」の欄をスマートフォンの写真などで共有しておくことをお勧めいたします。これからも予防接種の大切さをはじめ、医学情報をわかりやすくお伝えしていこうと思っています。また、子供たち自身も小学生から高校生の間に正しい「医療リテラシー」を身につける機会が増えると良いですね。
--ありがとうございました。
諏訪内先生のお話を聞き、思わず我が子の母子手帳と「VPDを知って、子どもを守ろうの会」のWebサイトを見比べた。任意接種が定期接種になったり、接種回数が増えていたりと、いつの間にか子供向けの医療情報がアップデートされていたことに驚いた。受験において「やるべきことをすべてやる」という言葉は、勉強だけにとどまらない。家族の日々の体調管理に気を配りつつ、その前提として予防接種を最大限活用することが、受験生の親としての大きな務めなのではないだろうか。
諏訪内 亜由子(すわない あゆこ)先生
慶應義塾大学医学部・大学院 Johns Hopkins 大学 COVID-19 Contact Tracing修了。小児科専門医・指導医、医学博士、日本医師会認定産業医。複数企業にて産業医として感染対策等の産業保健に従事している。自身も子育て中。
<この記事でわかること>
1、アルコール消毒だけでは防ぎきれない感染症
2、「防げる病気は防ぎたい」予防接種の大切さ
3、兄弟の接種歴も総チェックして家庭内感染を防ぐ
4、頻繁に更新されるワクチン情報、最新のものを入手して
アルコール消毒だけでは防ぎきれない感染症
諏訪内先生は、感染症により受験のタイミングで体調を崩さないために予防接種が大切であると指摘。接種歴の見直しと接種スケジュールの確認の重要性を語った。
--受験シーズンが本格化してくるこれからの時期に増えてくる感染症の疾患についてお聞かせください。
本来、冬は風邪全般に気を付けるのはもちろん、インフルエンザや、ノロウイルスなど胃腸系の感染症が流行りやすく、注意を払うべき時期です。ところが昨今、新型コロナウイルスの影響で感染症の流行時期が判断しづらくなっています。2021年夏、本来冬に流行るはずのRSウイルス感染症が大流行し、大変な思いをされたご家庭も多かったのではないでしょうか。そのため「冬だから何か特別に気を付けよう」というのではなく、まずは手洗い・不織布マスク着用を徹底したうえで、バランスの良い食事を摂り、適度に運動し、よく眠るという基本的な体調管理に立ち返ることが大切です。
とはいえ、冬はやはり乾燥しやすく、寒さで窓を閉めて換気が不十分になるなど感染症が流行りやすい要素も多いため、その部分は夏より気を付けなければいけません。
--不織布マスク着用や手指消毒など、衛生面での意識は高まっていると思うのですが、それだけでは防ぎきれない部分もあるということですね。
1つ気を付けていただきたいのは、アルコールの手指消毒についてです。ロタウイルスやノロウイルスといった胃腸系のウイルスや、手足口病の原因ウイルス、アデノウイルスなどは「ノンエンベロープウイルス」と呼ばれ、ウイルスの構造上、アルコール消毒が効きません。対策としてはやはり基本の手洗い。胃腸炎はウイルスが口の中に入ることによって起こりますから、帰宅時、食前後(学校で配膳がある場合はその前後)、トイレ後など、適切なタイミングで石けんで手洗いをし、手に付着したウイルスを物理的に洗い流すことが大事です。もちろん、アルコール消毒の効くウイルスにも石けん手洗いは有効です。
「防げる病気は防ぎたい」予防接種の大切さ
--諏訪内先生が小児科医として現場で感じていらっしゃる「受験生が気を付けたい感染症」について教えてください。
感染症の中には「学校感染症」といって発症すると学校保健安全法により「出席停止」になるものがあります。感染症が広まらないように、症状が治まっても一定期間は出席停止期間が設けられています。感染症になれば受験機会が失われる可能性があり、直前期の場合も思うように勉強に取り組めません。人混みに遊びに行く、普段は会わない人と会うなど、いつもと違う行動はしないことをお勧めします。受験生は年末年始やお正月など大勢での会食も避けた方が良いですね。
まず、ワクチンで防ぐことが可能なものをいくつかご紹介します。
水痘(みずぼうそう)やおたふくは、潜伏期間が2〜3週間あり、年齢が高くなってから発症すると症状が重くなることがあります。水痘の場合、すべてのブツブツがかさぶたになるまで出席停止です。学校感染症の場合は別室受験も認められないケースがほとんどだと思います。幼稚園や保育園のお子さんが感染し、そこから兄や姉がうつって小学校で流行ることもありますので、予防接種は受験生本人だけでなく兄弟の接種歴も含めてチェックしてください。予防接種の効果や副反応については、日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報 」(no.16、17が該当の感染症について)を参照してください。水痘が定期接種になったのは2014年ですので、今年中学受験を迎える、現在の小学校高学年以上のお子さんは、定期接種化前の世代です。任意接種は有料(地域によっては自治体補助がある)ということもあり、接種していない人がいる可能性もあるので改めて確認してほしいですね。おたふくは現在も任意接種で自費になりますが、小児科では接種をお勧めしています。
次に、百日咳です。百日咳は、小さなお子さんでは重篤な症状を引き起こすものの、中学受験生以上では、適切な治療があれば「こじれた風邪」程度で済むかもしれません。とは言え、そもそも普通の風邪ですら引きたくない受験生が「こじれた風邪」にはかかりたくないですよね。速やかに診断され、適切な抗生剤を飲めば治りますが、そうでないと咳が続き、苦しい期間が続きます。予防接種は乳幼児期に定期接種の3種混合(ジフテリア・百日咳・破傷風、現在はポリオを含む4種混合)として打っているはずですが、小学生ぐらいになると百日咳の抗体は減ってしまいます。日本小児科学会では、任意ではありますが5歳から11歳での追加接種を推奨しています。年長さんの麻疹風疹や9歳の日本脳炎の追加接種時に同時接種をする、11歳の2種混合(ジフテリア・破傷風)を3種混合に変更するのがお勧めです。
また、髄膜炎菌感染症は学校保健安全法で定められた感染症の1つで、飛沫感染で髄膜炎菌が鼻や喉の粘膜から入ることで起こります。髄膜炎菌による髄膜炎は初期症状が風邪と似ており、早期診断が難しい病気です。他の菌による髄膜炎よりも進行が急激なのが特徴で、発症後2日以内に、5〜10%が死亡します。適切な治療が受けられても、神経障害や手足の切断などの後遺症を残すことがあります。集団生活で感染リスクが上がるといわれていますので、特に寮のある学校への進学や運動部などの集団生活、海外留学での入寮の予定がある場合※1は、入学前の接種※2を推奨しています。
※1 米国では入学に際して接種証明が必要
※2 乳児期に行う、肺炎球菌やHibの髄膜炎予防のワクチンとは異なる
さらに、ワクチンがないけれど気を付けたい感染症として、伝染性単核球症があります。初めて耳にする方も多いかもしれません。思春期以降の若い人がEpstein‐Barr ウイルス(EBウイルス:EBV)に初めて感染することで起こります。乳幼児期の感染では「不顕性感染」といって症状が出にくく、思春期以降で初めて感染すると症状が出やすいのが特徴です。潜伏期間は1〜2か月で、極度の疲労感、高熱、喉の痛み、リンパ節の腫れが起こります。症状は2週間ほどが多いですが、何か月も続くこともあります。特別な治療薬もなく、安静と対症療法で軽快するのを待つしかありません。「キッシングディジーズ(Kissing disease)」とも呼ばれ、飲み物や食べ物のシェアなどでも感染します。コロナ禍で機会は減っていると思いますが、部活動でのスポーツドリンクの回し飲みなどは感染リスクが高いので避ける必要があります。
こういった病気について、受験前は受験生本人だけでなく、年下の弟妹も含めて家族一丸となって対策していただきたいですね。乳幼児期に適切な予防接種の機会を逃してしまったがゆえに受験期に感染症に罹ってしまうお子さんも少なくありません。
兄弟の接種歴も総チェックして家庭内感染を防ぐ
--生後2か月から始まる予防接種ですね。日々子育てや家事に忙殺される保護者の方にとって、スケジュール管理が難しい部分もあると思います。
おっしゃる通り、子供の予防接種をされていないご家庭で多い理由は「忙しくて忘れていた」「接種時期を逃してその後受診しにくかった」というものです。たしかに、複雑な接種スケジュールを読み解くのは大変かもしれません。NPO法人の「 VPDを知って、子どもを守ろうの会(以後VPDの会)」の予防接種スケジュール表は最新で見やすいですし、日本小児科学会のサイトの「知っておきたいわくちん情報」というページには、1つずつの病気の説明、ワクチンの効果や副反応について分かりやすく解説されているのでお勧めです。
百日咳や水痘、おたふくかぜや百日咳などは、ワクチン接種をしていれば予防できる、もしくは軽症で済む感染症です。接種せずに感染し、受験機会を逃してしまったら悔やんでも悔やみきれませんので、1月の受験時期を見越して、インフルエンザや新型コロナのワクチンと併せて、抜けていた予防接種があれば年内の接種をお勧めします。おたふく・水痘などの複数の異なる種類の生ワクチンと三種混合・インフルエンザなどの複数の異なる種類の不活化ワクチンは同日に同時期接種することが可能です。接種間隔は分かりづらいので、かかりつけの小児科に相談し、必要なワクチンを見極めてもらうのが良いですね。
なお、新型コロナワクチンは、12歳の誕生日が来たら接種できます。日本はコロナワクチンと他のワクチンの同時接種はできず、前後2週間、間をあけないといけません。コロナのワクチン接種は日程を動かしづらいと思いますので、優先して打つと良いと思います。なお、接種券がお誕生日前に来る自治体ではお誕生日が来てからすぐに摂取できるように、事前に予約を取ることも可能です。
--インフルエンザの予防接種を検討する場合、受験時期から逆算していつまでに接種するのが望ましいでしょうか。
例年であれば10月中に1回目を、11月に2回目を接種するパターンが一般的です。12歳以下は2回接種で、1回目と2回目の間は2〜4週間空ける必要があります。13歳以上の高校受験生や大学受験生は1回のみの接種です。
ワクチンの効果が出るまで接種から2週間かかりますから、流行りだしてから打つのでは間に合いません。ワクチンの枠が埋まらないよう、まず予約をしてワクチンの確保をすると安心ですね。
冒頭でお伝えしたように、新型コロナの影響で感染症の流行時期を予測しづらくなっています。インフルエンザも2020年は感染者数が激減したものの、2021年秋から2022年春にかけての流行予測に関しては、専門家も2つの立場に分かれています。いずれにしても日本感染症学会では、インフルエンザワクチンの接種可能な時期がくれば速やかに接種するのが望ましいと示しています。
ただ2021年はワクチンの供給量自体が少なく、小児科でのワクチン接種は予約がすでに埋まっているところも多いと聞きます。内科や耳鼻科、皮膚科などの診療科でもワクチンを取り扱っているところがありますので、小学生以上は近くのクリニックに問い合わせてみても良いでしょう。乳幼児の場合は小児科での接種をお勧めします。
頻繁に更新されるワクチン情報、最新のものを入手して
--予防接種の接種状況を振り返ることは、現在受験生のご家庭はもちろん、将来受験を予定されているご家庭にとっても大切ですね。「接種し忘れ」を防ぐためにも、保護者の方が心がけておくと良いことはありますか。
予防接種は、以前は任意接種だったものが定期接種になったり、推奨される接種回数が変わったりすることがあります。まずは、最新の接種スケジュールとお子さんの接種歴を見比べ、接種漏れがないかどうか受験生のみならず兄弟の分も含めて確認してほしいですね。接種記録を母子手帳でされているご家庭が多いと思いますが、母子手帳は自治体によって仕様が異なり、おたふくなど任意接種の欄がしっかり確保されていないものもありますし、最新のワクチン情報も載っていません。先ほどご紹介した日本小児科学会や「VPDの会」など、わかりやすく情報を発信しているWebページを参考にすると良いとます。抜けていたものがあれば、かかりつけの小児科に接種スケジュールを相談するのがお勧めです。また高校1年生の11月までに接種しないと無料で接種できないHPVワクチンのようなものもありますのでご注意ください。小さいころ打つべきワクチン接種をしばらく忘れてしまっていても、「ワクチン接種しよう」と来てくださる親子を小児科医はいつでも歓迎しています。
--実は諏訪内先生ご自身も受験生のお子さまを子育て中でいらっしゃいますね。同じ受験生をお持ちのリセマム読者のみなさんにメッセージをお願いします。
受験には何年も前から準備が必要ですし、家族をはじめ周囲のさまざまな協力があって当日を迎えます。体調管理はもちろん、本人の力を発揮できるベストな状態で臨みたいと願っています。
予防接種に関しては、子供本人ではどうにもできませんので、保護者の方に接種記録を確認していただくことが大切です。予防可能な感染症について正しい知識をもって対策していきたいですね。頑張ってきた受験生みんなが、病気に足を引っ張られることなく、力を発揮してほしいと思います。
また、大学受験を終えて新生活を始めるお子さんには、母子手帳の中の「かかった病気・受けたワクチン」の欄をスマートフォンの写真などで共有しておくことをお勧めいたします。これからも予防接種の大切さをはじめ、医学情報をわかりやすくお伝えしていこうと思っています。また、子供たち自身も小学生から高校生の間に正しい「医療リテラシー」を身につける機会が増えると良いですね。
--ありがとうございました。
諏訪内先生のお話を聞き、思わず我が子の母子手帳と「VPDを知って、子どもを守ろうの会」のWebサイトを見比べた。任意接種が定期接種になったり、接種回数が増えていたりと、いつの間にか子供向けの医療情報がアップデートされていたことに驚いた。受験において「やるべきことをすべてやる」という言葉は、勉強だけにとどまらない。家族の日々の体調管理に気を配りつつ、その前提として予防接種を最大限活用することが、受験生の親としての大きな務めなのではないだろうか。
諏訪内 亜由子(すわない あゆこ)先生
慶應義塾大学医学部・大学院 Johns Hopkins 大学 COVID-19 Contact Tracing修了。小児科専門医・指導医、医学博士、日本医師会認定産業医。複数企業にて産業医として感染対策等の産業保健に従事している。自身も子育て中。