JR美浜駅の目の前。地域の人々の日常的な利用に重きを置いた新しい道の駅『若狭美浜はまびより』

2023年11月19日(日)16時0分 ソトコト


TOP写真右/今回話をお聞きした各テナントのみなさんに、オススメの商品を手にしてもらい撮影。和気藹々とした雰囲気。左上/2階の『idea spot Quick』では地域の人を対象にさまざまなイベントを行う予定。すべり台の作品は鷲尾友公さんによるもの。左下/農水産品直売所『みはまの市場』は、洗練された食品雑貨店のような雰囲気。特産品のほか、洗剤などの日用品も並ぶ。


道の駅は観光で行くところ、その地域の産品だけがあるところ──。そんな風に思っている人はいないでしょうか。常識を“いい意味で”覆す、ユニークな道の駅がオープンしました!


地域の人が日常で楽しめる、『道の駅若狭美浜はまびより』。


東京の「ご当地酒場」から道の駅へのチャレンジ。


福井県・美浜町は、若狭湾に面し、その名のとおり美しい浜がいくつもあるまちだ。湖や川もあり、水の景観やその恵みは魅力の一つになっている。


2023年6月、美浜町に新しく『道の駅若狭美浜はまびより』が誕生した。オープンしたてで「新しい」だけではない。これからの道の駅のあり方を提示しているような新しさに満ちているのだ。


それは、「地域の人々の日常的な利用」に重きを置かれた道の駅であること。まず、テナントからそれは見て取れる。発信型スポット『idea spot Quick』、一時預かり託児所『せら』、農水産品直売所『みはまの市場』、カジュアルカフェ『pasta & pancake はまカフェ』、オーセンティックバー『51bar Uragawa』、魚などの飲食店『メシヤ ハマビ』だ。



さらに、『道の駅若狭美浜はまびより』はJR美浜駅の目の前、まちの中心部にある。マイカーのほかに電車や予約制の乗合バスで訪れることもでき、徒歩圏内には町役場、郵便局、生涯学習センター『なびあす』などもある。この立地にも、地域の人々の利用が意識されている。



ちなみに、美浜町は関西からのアクセスがいいが、北陸新幹線の延伸により関東からのアクセス時間も短縮される。金沢駅から敦賀駅までのラインが建設中で、2023年度末に開業予定だ。敦賀駅から美浜駅まではJR小浜線で20分ほどとなっている。


事務局として運営を担っているのは、『美浜暮らしブランド』だ。同社で現場の責任者を務める木澤瑞季さんは、日々『道の駅若狭美浜はまびより』の受付に立つ。「2022年末までの約5年間、私は都内にある居酒屋『熟成魚場 福井県美浜町 日本橋本店』の店員をしていました」と笑顔で話してくれた。それが、ここができた経緯と関係があるという。


木澤さん。2023年4月から着任し、美浜町での暮らしも仕事も楽しんでいる。

『美浜暮らしブランド』は「公募型プロポーザル」により推進連合として指定管理業を担っているが、推進連合の代表企業は『fun function』。『美浜暮らしブランド』のグループ会社で、代表取締役社長は共に合掌智宏さんだ。『fun function』は、都内で「アンテナショップ飲食店」などを17店舗も経営している。多くが店名に自治体名を入れた「ご当地酒場」だ。木澤さんは「そのうちの一店が、私が働いていた『熟成魚場 福井県美浜町 日本橋本店』です。合掌は福井県出身で、美浜町の食材に魅せられ、美浜町にまつわるお店を3店舗開店しました。私も研修に来て生産者の方からお話を聞き、美浜町に親しみがありました」と話す。


店舗が好調のなか、道の駅のプロポーザルの話を耳にし、同社は手を挙げた。そのときすでに、美浜町が定めた道の駅の基本計画で、コンセプトとして「地域の人が集える場」「美浜の食の発信」「未来を見据えたコンパクトシティ化」などの要素は決まっていたという。


オープンまでの道のりは平坦ではなかった。地元の一部から、建設反対の声が上がったのだ。合掌さんがそれに悩んでいた頃、強力な助っ人が現れた。美浜町出身で、のちに『idea spot Quick』の代表になる国川晃さん。合掌さんとはある勉強会で知り合い、意気投合していた。町内でクレーン施工業などを営む国川さんは、地元で顔が広く、特に若者の間のキーパーソンだ。


日常でちょっと一息。地域住民の待望の空間。


国川さんは地域の人が参加できる道の駅建設のための会議で、反対意見が出たとき、こう意見したという。「今、まちには閉塞感があり、現状維持を目指したら衰退してしまうと思います。僕ら若手は応援していますし、みんなでやっていきましょう」。


国川さんは基本計画で決まっていたテナントの方向性をもとに、出店内容を合掌さんと共に考え、「美浜町を盛り上げたい」と考えているプレイヤーを巻き込んでいった。『せら』の本間貴也さんや『みはまの市場』の武田元之さん、『idea spot Quick』内の『STUDIO PIT』の藤本佳祐さんなどだ。


木澤さんはもともと地域を元気にする活動に興味があって入社したことから、道の駅を担当することになり、2023年4月に着任。こうして、飲食業の経験が豊かな木澤さんたちと地域のプレイヤーの力で『道の駅若狭美浜はまびより』はオープンした。


すると地域の人が食材や日用品の買い物に来たり、ママ友同士でお茶をしたり、子どもを『せら』に預けてゆっくり買い物をしたりする姿が日々見受けられた。こういう空間が望まれていたのだ。「『今日暇だから遊びに行こうかな』と地域の方に選んでいただけるような身近な施設にしたいですね」と、木澤さん。『みはまの市場』では、武田さんらスタッフが「これおいしいですよ」などと客に気さくに声をかけ、地域の食材の話などをして談笑する。まるで昔の八百屋さんのように。武田さんは「日本一ようしゃべる直売所を目指している」と笑う。美浜町の思いは形になったのだ。


また、客との距離が近いだけではなく、スタッフ同士の仲もいい。朝、別のテナントのスタッフでも「おはよう」と声を掛け合うという。「オープンしたてですけど、みんな仲がいいんです」「家族みたい」と、みなさんは話す。


今秋、『道の駅若狭美浜はまびより』と『なびあす』を結んだ道沿いに出店をし、イベントを行う予定だ。「地域の拠点とつながって、まち全体を楽しく盛り上げていきたいです」と、木澤さん。彼らは、新しい道の駅を通じて、新しいまちづくりを始めている。


『道の駅若狭美浜はまびより』のテナントから5つを紹介!


idea spot Quick


レッスンや教室、撮影、小規模な講演会などに利用できる『Quick Studio』。プロジェクターなどの各種設備も常設。高校生割引きあり。

アイデアを形にするクリエイティブ空間。


ギャラリースペース(P53上の写真)には、さまざまな要素がある。コワーキングスペースは無料で利用可能。ボックス単位でレンタルできる陳列棚「Quick BOX」もあり、商品などを置いて販売できる。クリエイターの表現の場にぴったりだ。これからイベントや交流会を多数行う予定。隣にレンタルスペース『Quick Studio』もあり、1時間単位で利用できる。


代表・国川 晃さん

一時預かり専門託児所 せら


基本料金は、平日は700円/時〜、土・日曜、祝日は800円〜。初年度会員登録料(保険料含む)は2000円。非会員での利用も可。

親が心に余裕をもつための託児所。


福井県敦賀市で保育士として8年間働いた後、本間さんが独立・開業した一時預かり専門託児所。名称は「セルフ・ラブ」の省略で、「子どもはもちろん、親が自分を愛せるように」という願いが込められている。子どもの対象月齢は幅広く、生後3か月の赤ちゃんから小学6年生の子どもを預けることができる。現在、地域の人が多く利用している。


代表・本間貴也さん

みはまの市場



おいしいものが集う、町民の台所。


武田さんが青果卸業を営んでいたことから得られる目利きの経験やネットワークを生かし、オープンした農水産品直売所。地域の人に日常的に利用してもらいたいという思いから、一般的な道の駅のようにそのまちの特産品だけを置くことはせず、あえて全国の本当においしいものを提供している。商品の知識をもつスタッフが多く、相談もできる。


代表・武田元之さん

pasta & pancake はまカフェ



パンケーキが人気のカジュアルカフェ。


美浜町産の米粉をブレンドした自家製生パスタと、『道の駅若狭美浜はまびより』の向かいにある農園『若狭美浜HAMABERRY』の甘いイチゴなどを盛り込んだパンケーキが楽しめる。パスタには「へしこ」や鯖が使われているメニューもある。客やスタッフの年齢層は幅広く、客とスタッフが会話を楽しむことも多い、フレンドリーなカフェでもある。


主任・倉田裕子さん

STUDIO PIT(idea spot Quick内)


映像編集のコントロールーム(写真)とオフィスルームがある。地域のイベント演出からテレビ番組まで、幅広い映像を取り扱っている。

映像で地域を盛り上げるスタジオ。


中学生のときから美浜町で育ち、東京のキー局や福井県小浜市のケーブルテレビ勤務を経て独立した藤本佳祐さんが営む。県内外で取材・撮影をし編集を行う藤本さんだが、美浜町への思いは強く、映像で地域を盛り上げることや、町民が『道の駅若狭美浜はまびより』と関わりをもてるよう情報を発信する拠点にすることを目指している。


代表・藤本佳祐さん

『道の駅若狭美浜はまびより』・木澤瑞季さんの、道の駅を楽しむコンテンツ。


YouTube:道の駅兄弟


『道の駅旅案内全国地図』元・編集長のモリヤユキカツさんと、『拝啓、道の駅から』がタッグを組み、道の駅を語る専門チャンネル。全国の道の駅トップ100などの企画やゲストとのトークなど、いろいろな切り口で深い話を聞けます。


YouTube:拝啓、道の駅から


全国に約1200か所ある道の駅を訪問し、その土地ならではの食材やグルメ、土産などさまざまな観点から道の駅の楽しみ方を提案するバラエティチャンネル。楽しそうに道の駅を巡ったり、おいしそうに食べたりしている様子がおもしろいです。


X(旧・Twitter):道の駅AroundJapan


これまでに訪れた道の駅は1100以上という管理者が、現地に赴いて得た全国の道の駅情報を発信。道の駅ごとの名物などもアップされていて、気軽に道の駅情報を得られるので、ときどきチェックし「ここに行きたいな」などと思っています。


photographs by Katsu Nagai text by Yoshino Kokubo


記事は雑誌ソトコト2023年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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