もっと“会社”を使い倒せ――元ピクサーエンジニアが語る仕事を面白くする方法
2025年5月31日(土)6時15分 ダイヤモンドオンライン
会社員は会社を“悪用”すべきである――。2025年2月に刊行され、発売当初から大きな話題を呼んでいる『ファイナンス学者の思考法 どこまで理屈で仕事ができるか?』の著者で、大阪公立大学大学院経営学研究科・商学部教授、昭和女子大学グローバルビジネス学部客員教授の宮川壽夫氏が、プログラマーとして日本人で初めてのピクサー・アニメーション・スタジオ(アメリカ)での勤務経験を持つ株式会社ポリフォニー・デジタルのシニアマネージャーの手島孝人さんと対談しました。お二人は、筑波大学社会人大学院時代の同級生。ファイナンスとクリエイティブ、それぞれの分野で活躍してきたからこそ見えてきた、仕事の進め方や組織のあり方について語り合います。第3回では、会社員の働きがいと仕事を楽しくするマインドセットに言及します。(第3回/全4回)(進行/ダイヤモンド社・横田大樹、森遥香 構成/水沢環)
Photo: Adobe Stock
会社は無茶をするための社会的な仕組み
手島孝人(てじま・たかひと)京都大学工学部卒・筑波大学ビジネス科学研究科修了。1996年より(株)ナムコCG開発部、(株)ポリフォニー・デジタル、ピクサー・アニメーションスタジオ(カリフォルニア)にてゲームや映画のCG制作パイプライン、ツール開発などに従事する、コンピュータグラフィックス専門のソフトウェアエンジニア。
――なにかタスクに取り組む際、「どのあたりまで行けたらこれは合格ラインなんだろうか」と事前に着地点を探す風潮が、学生だけでなく社会人にも強くある気がします。
手島孝人(以下、手島):そうですよね。僕は会社って無茶をするための社会的な仕組みだと思うんですよ。個人では取りきれないリスクをとったり、個人ではまかないきれない資金を使って無茶をするためのシステム。
宮川壽夫(以下、宮川):おもしろいですね。コーポレートファイナンス理論でも会社はリスクを取ることがそもそも前提となっています。
手島:だから、無茶をするためにみんなもっと会社を使えばいいのに、と思うんです。「会社を持続させよう」なんて、従業員がそればっかり考えてもしょうがない。「株式会社」の歴史をひもといてみると、始まりは、大航海時代の東インド会社です。東インド会社は遠距離海上貿易の莫大なリスクに挑戦するために組織されて、失敗時の責任を限定するための仕組みを作りましたね。ただそのあと様々な事情から軍隊を持って戦争を行ったり、インドを植民地化して税金の徴収を始めたりエスカレートもしてしまいます。その行為を肯定したいわけではないんですが、とにかく、そんなリスクをとって挑戦するために会社というシステムが生まれた。そして、人類はそうした無茶を通して発展してきたわけです。
つまり、会社は「無茶」、言い換えたら「突拍子もないジャンプ」をやってみて、ダメだったら解散すりゃいいか、みたいな仕組みだと思うんですよ。
宮川壽夫(みやがわ・ひさお)大阪公立大学大学院経営学研究科・商学部教授 昭和女子大学グローバルビジネス学部客員教授
宮川:いかにも手島くんらしい発想だけど(笑)、共感できますよ。
手島:もちろんこれは極端な話ではありますけれど、会社にはそういう仕組みの側面もある、ということを、会社で働く人たち、少なくともマネジメントの役割の人達には知っていて欲しいと思います。
リスクはただ単に回避すべきものではない理由
宮川:手島くんが言うように、会社で「無茶」ができるのは、少し言い換えると企業でリスクが取れるのは、資本という存在があるからです。資本はその企業が行っている事業が生み出すリターンを期待した株主が出資します。同時に株主はそのリターンに見合うだけのリスクを覚悟しています。だから株主から出資を受けた経営者は宿命的にリスクを取ることが仕事です。
ただし、取るべきリスクは闇雲ではなくて事業によって異なります。リスクの高い事業には高いリスクが取れるお金が投下され、そのかわり株主は高いリターンを企業に求めます。逆にリスクが低い事業にはそれなりのお金が投下され、株主はそれなりのリターンに甘んじる。とても合理的です。株主は自分が取ったリスクに応じたリターンを期待しているわけです。となると、必ずしも「無茶」をしていいわけではないですが(笑)、企業はリスクを取らない限りリターンを得られない。ところが、「リスク管理」などと言って、リスクを低下させるとか無くすことが善だと考えられがちです。
手島:そこが幻想ですよね。
宮川:「リスク管理」はあってもいいんですが、ファイナンス理論から言えば、リスク管理はしらみつぶしにリスクを無くすことではありません。企業がリスクを把握する目的は、チャンスが到来した時にリターンを生むチャレンジをできるようにしておくことにあります。どこまでのリスクを取ってどこまでのリスクを避けなきゃならないのか、経営者はそういう判断をするわけです。どこまでを理屈で考え、どこからを意気と度胸と勘で乗り切るか、というようにね(笑)。
手島:なるほど(笑)。それに対して、日本企業では経営者の解像度も低い気がします。欧米企業は資本に対する意識が成熟しているんでしょうか?
宮川:そこはなんとも言えませんが、昔からよく言われたのは、たとえばアメリカって、投資の段階でリスクを取れるお金とリスクを取れないお金が金融市場で明確になっている。先行きどうなるかわからないような企業にも投資されるリスクマネーが常に存在する。だから新しい成長企業が生まれやすいのかもしれない。リスクは管理するものじゃなくてチャンスをつかむためのものとも言えますね。
――なるほど。そんな日本的なリスク管理の考え方が、今の会社員の「落とし所を探す」保守的な態度につながっているのかもしれませんね。
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