多発する大規模山火事 発生リスクを高めている2つの要因
2025年4月7日(月)11時0分 女性自身
「3月23日に愛媛県今治市で山火事が発生、27日時点でも延焼が続いています。同時期に起きた岡山県岡山市の山火事は、県内では過去最大規模の被害に。また、2月に発生した岩手県大船渡市の山火事では市の面積の9%が焼失し、200棟以上の住居が被害に遭いました。隣国・韓国でも3月26日に山火事が発生し“史上最悪”の災害規模となっています」(全国紙記者)
大規模な山林火災がなぜ相次いでいるのか。森林火災のメカニズムに詳しい千葉大学園芸学部准教授の加藤顕さんが解説する。
「山火事は地形・気象条件・燃えるものの量、の3つの要素がそろったときに起き、被害が広がりやすくなります。空気が乾燥し、燃えるものがあれば火災は起きてしまうもの。日本のどこでも十分に起こることと言えます」
消防庁の統計によると、山火事の発生は’70年代にピークを迎え、徐々に減少傾向にあるものの、’19年から’23年までの5年間の平均件数は1千279件。1日あたり3.5件の火災が発生している計算になる。
そして、山火事の約7割が1月から5月に集中して発生しており、件数のピークは4月だ。林野庁では、冬は森林内に落ち葉が堆積して、風が強く、乾燥しやすいこと、春先は山に入る人が増加し、農作業に由来する枯草焼きなどをするためと説明している。
出火の原因に関しては、全体の32.6%がたき火、19%が火入れ、7.6%が放火(疑いを含む)、4.5%がたばことなっており、火の不始末が主要因だが、自然発火も起こりうる。
「日本での報告は少ないですが、乾燥した状態で気温が上がると葉がこすれ合った摩擦で発火することや、雷が落ちて発火につながることもあります。またアメリカでは電力会社の鉄塔に木が触れて発火するケースも報告されているため、電線を地中に埋めている地域もあります」(加藤さん、以下同)
こうして発火した小さな火種が、大規模火災につながっていくのだ。
「山林火災は『地表火』といって、主に地表面の火事からはじまります。地面はある程度湿っているし、幹の部分は水分を含んでいるので、迅速に対応すれば消火できます」
だが、山の中に燃えやすいものがあれば危険は増大する。
「手入れの行き届かない山にはやぶが覆い、森林内に燃焼物が堆積しています。火は上のほうへ上がっていくので、連続して燃えるやぶなどがあれば、木の上の葉に火が広がる可能性が高くなる。すると『樹冠火』となり、木の葉へ瞬く間に燃え移り、大きな山火事に発展します」
大船渡や今治の山火事が大規模になったのも、この樹冠火が起こったためとみられている。燃え広がるスピードも、大船渡の被災者が「津波のように火が広がった」と語っていたほど速いという。
「紙に火をつけると一気に燃え広がりますが、そのイメージのまま。強風などが吹けば人が逃げられないくらいのスピードで瞬く間に燃え広がってしまいます」
これまで日本は湿潤な気候だったため、極端に乾燥することはなく、大規模な山火事は少なかったが、現在は今治や大船渡のような規模の山火事が発生するリスクが高まっているという。その要因の一つが地球温暖化だと分析するのは、三重大学生物資源学部教授の立花義裕さんだ。
「山火事が大規模化しやすいのは、乾燥と強風の影響を受けるためです。地球温暖化によって偏西風が激しく蛇行することにより、太平洋側と瀬戸内に雨や雪が降りにくくなり、3月から4月にかけては、これまで以上に空気が乾燥しやすくなっています。
またこの時期は、北極の寒気と赤道の暖気のせめぎ合いにより強風になりやすい時期でもありますが、温暖化によってその傾向はより顕著になっています。
さらに海水温の上昇で低気圧が強まることも強風の原因となります。乾燥すれば火がつきやすくなり、強風が吹けば火が広がります」
そしてもう一つ、日本が抱える問題が放置された森林だ。前出の加藤さんが語る。
「国内ではかつて林業が盛んでしたが、安価な輸入木材が主流になり、国産の木を切れば赤字が出てしまうため、大部分が放置されています。そのため林業に携わる人材の減少や高齢化が深刻な問題となっています」
人材不足に陥り、森林の手入れが行き届かなくなれば、枯れ葉ややぶなど“山火事の燃料”を作ってしまうことになる。
「地球温暖化や森林の放置の条件が重なっているため、今後も同様の大規模な山火事は起こりうるものだと考えなければなりません」(立花さん)
3月26日には、全国的に季節外れの暑さとなり、宮城県では観測史上最大の強風が吹き荒れ、東北新幹線が運休を余儀なくされている。このようななか、人里に近い山あいで樹冠火が発生すれば、住宅地まで火の海が押し寄せる危険もあるのだ。
「火の不始末の防止ばかりでなく、実際に火事が起きてしまった場合の避難方法なども、想定する必要があるでしょう」(加藤さん)
さらに、放置されている山林の手入れも必要不可欠だ。
「国としては、安い輸入木材に頼るだけでなく、国内資源を活用して産業として成り立たせ、森林を維持管理していくことが求められます。かつての植林地のように、自然に人間が手を加えた場所は、そのまま放置せず、永続的に管理し続けなければならないのです」(加藤さん)
甚大な被害をもたらす山林火災が続くなか、これらが“対岸の火事”であるという認識は今すぐ改める必要がある。