なぜクルド人は「叩かれる」のか。日本の難民制度を「悪用」していると見られてしまうワケ

2025年4月19日(土)20時55分 All About

4月5日に放送されたNHKの番組『フェイクとリアル~川口 クルド人 真相』が「偏向報道」であるとして物議を醸した。難民制度の“乱用”や治安悪化などへの懸念から批判が強まる中、日本の移民政策の課題が浮き彫りになっている。

最近、少数民族クルド人の難民を取り上げたNHKの番組が物議になっている。
4月5日に報道された埼玉県川口市に暮らすクルド人の状況を取材したドキュメンタリー番組『フェイクとリアル〜川口 クルド人 真相』の内容が偏っていると指摘され予定していた再放送が延期、NHK公式Webサイトの見逃し配信も非公開とされた。NHKの定例記者会見で幹部が「偏向報道」などの批判があることを認めている。
またクルド人を巡っては、さいたま市でクルド人の新年を祝う伝統の祭り「NEWROZ(ネウロズ)」が3月23日に開催された際、クルド人を批判する地元の市議会議員らが抗議したことがニュースになっている。
クルド難民問題はSNSなどでも大きな話題になっており、クルド人側はSNSなどでデマが拡散されていると指摘する。ただ不思議なのは、なぜクルド人がここまで目の敵にされているのか、だ。

クルド人はなぜ「叩かれる」のか

というのも、出入国在留管理庁による統計を見ると、2024年、日本には376万8977人(前年末比35万7985人で10.5%増)の在留外国人が暮らしており、過去最高を更新している。その国籍別の内訳を見ると、トップは中国で、2位はベトナム、そして韓国、フィリピン、ネパールと続く。
クルド人の出身地であるトルコは「その他」に含まれるほど数が少ない。事実、日本に暮らすクルド人の数は2000人ほどと言われている。にもかかわらず、その存在に脅威を感じている人は少なくないようだ。
クルド人とほかの在留外国人の最大の違いは、クルド人の多くが難民申請を行って日本に来ていることだ。しかも難民申請が却下されても日本に残り、繰り返し難民申請を行う。その間、難民申請中という立場で日本で働いている。
クルド人が叩かれる理由はここにある。まず日本の難民制度を「悪用」しているとも見られていることだ。トルコ国籍のクルド人はこれまでに、ほとんど日本で難民認定されていない(例外的に、過去に1人だけ認めている)。にもかかわらず、産経新聞によれば、「令和6年に難民認定申請した外国人約1万2千人のうち、2回以上の複数回にわたって難民申請を繰り返した人は1355人で、このうちトルコ国籍者が半数近くを占めた」という。
つまり、難民申請を“乱用”していると言えるのだ。そして審査には何年もかかるため、その間は日本に滞在し続けることができる。

難民ではなく“出稼ぎ”が目的?

2024年6月には、出入国管理及び難民認定法が一部改正され、難民申請が3回目以降の人を強制送還の対象とすることになった。当時すでに、難民申請後などで不法滞在者とし強制送還の手続きを受けているトルコ人は1098人に上っていた。ところが2024年末までに3回目以降の難民申請者のうち17人しか強制送還になっていない。
またクルド人がこの難民制度を使って、身の安全のためではなく、日本に「出稼ぎ」に来ているという話も出てきている。2004年に、出入国在留管理庁(当時は法務省入国管理局)がクルド人について現地で実態調査を行い、クルド人の難民申請が「出稼ぎ目的だった」との報告書をまとめていたことが判明している。
さらにそうした状況にあるのに、一部がかなり派手な暮らしをしているともSNSで取り上げられており、加えて、日本人に対する事件なども発生し、クルド人が暮らす埼玉県川口市などでは現地の治安が悪化しているとの声もある。2023年にはクルド人同士の揉め事から、「川口市立医療センター」周辺にクルド人約100人が駆けつける騒ぎとなり、機動隊員らが出動する事態になっている。
2025年2月には、石破首相がクルド人の問題について「ルールを守らない外国人と共生はできない。そのような方々に日本にいていただかないようにするのは日本国の責務だ」「わが国で在留が認められないものについて迅速な送還を実施する」とも述べている。

日本以外のクルド人への対応は?

クルド人移民はほかの国にも多く存在する。100万人以上のクルド難民を抱えるドイツをはじめ、イギリス、オランダ、カナダ、 スウェーデンなどに数多くのクルド人難民が暮らしている。アメリカにはテネシー州に元クルド難民らが暮らす「リトル・クルディスタン」が存在するくらいだ。
ただ日本にいるクルド人らは、彼らと違って、不法または微妙な立場で日本にとどまっている場合が多い。だからこそ、多くの人たちが違和感を覚えている。欧州やアメリカでは難民として受け入れており、クルド人もそれぞれの国のルールになじんで生活をしている。
ところが日本は、過去にほぼクルド人を難民として受け入れたこともないのに、事実上、難民申請で日本滞在することは許し、クルド人側も、不安定な立場ゆえに日本に腰を据えてなじむことができないまま、日本の文化やルールを軽視していると言える。

日本政府の「中途半端な対応」がもたらしたもの

日本はトルコのパスポート所持者に対しては3カ月以内なら「ビザなし」で入国できるように定めている。だがトルコ籍のクルド人は観光目的で入国し3カ月が過ぎたところで、難民申請を繰り返す人が多いので、まずは難民申請を悪用しようとする人たちを水際で食い止めるルールをきちんと整備したほうがいい。
日本政府の中途半端な対応が続けば、今も数多くいるクルド人らへの批判が日本の外国人全体に対する意識の悪化を生むような事態にもなりかねない。移民全体が迷惑をかぶることになる。
そもそも日本人は、外国人や移民に対して決して排他的な人ばかりではない。多くは、正当に日本に来て、日本社会になじんでいる外国人を寛容に受け入れてきたと言える。
先に述べた通り、在日外国人の国籍を見ても、トップは中国で、2位はベトナム、そして、韓国、フィリピン、ネパールと続くが、基本的に正当に日本に来ている彼らとは、クルド人とのような軋轢(あつれき)はない。
日本は日系ブラジル人との共存のように日本の文化を尊重する人たちとは問題なく共存できている。ベトナム人も、偽装留学や窃盗団を組織しているとの指摘がネットなどで見られるが、クルド人に対する非難のような動きはない。中国人やインド人は、各地に中華街があったり、東京にはリトル・インディアと呼ばれるインド人コミュニティーが存在している。

超少子高齢化の日本、移民の“受け入れ方”が問われている

今後、少子高齢化が深刻な日本では、将来的にはこれまで以上に移民を受け入れていかなければならないだろう。もちろん、政府による少子化対策や女性の活躍促進、AIなどテクノロジーの進化などでカバーできる部分も出てくるだろうが、それでも移民を受け入れていくことになると見ていい。
もっとも、日本政府は1990年代から少子化対策して失敗してきたので、そんな政府に任せても状況は変わらないという声もあるだろうし、女性の活躍促進でも税収を守りたい勢力が「年収の壁」緩和に抵抗している事実などから、少子化は今後、劇的には改善されないと感じる。そうなると、移民に頼るしかなくなる。
問題は、どう移民を受け入れるかだ。クルド人との軋轢で感じるのは、少なくとも、難民申請を繰り返して日本滞在を続けられる現状を変えるべきだ。さもないと、移民への批判が、日本に必要な外国人ら全体に波及しかねないのである。
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチン習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」
(文:山田 敏弘)

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