埼スタでのクルド人騒動からJクラブが学ぶべきこととは
2025年3月7日(金)18時0分 FOOTBALL TRIBE

明治安田J1リーグ第4節の浦和レッズ対柏レイソル(3月2日/埼玉スタジアム2002)。試合は柏が2-0で制し2022年の第2節以来1099日ぶりに首位に浮上した一方、浦和は未だ勝利がなく2分け2敗となり19位に転落したこの一戦。スタンドではある騒動が起きていた。
埼玉県川口市に住むクルド人難民のサッカーチーム「FCクルド」のメンバー20人が、チームカラーのシャツを着用し、浦和サポーターエリアの北ゴール裏自由席で「クルド」と書かれた旗を掲げようとした。旗などの掲示については、事前にクラブ側に申請して許可を取るというのがJリーグの統一ルールだが、このグループはこれを無視。浦和の運営担当が使用できない旨を再三にわたって伝えたものの聞き入れず、逆ギレした果てに「クルド人を差別するのか」「差別、差別」などと騒いだという。
ゴール裏が騒然となる中、浦和の運営担当は、本来は自由席券では入れないメインスタンドの指定席を20席用意した上で移動を頼んだが、グループはこの提案も拒否。アウェイ側自由席への移動も拒み、観戦せずに「ありがとう浦和レッズ」「人種差別チーム」などといった暴言を吐きながら退場したという。
その後、グループの子息と思われる子ども9人が、前半30分頃に再入場を希望したため、浦和の運営担当はメインアッパー指定席に案内し、子どもたちは試合終了まで観戦した。

多くの来日クルド人の状況
元々はトルコの少数民族であるクルド人。「祖国を持たない世界最大の民族」とも呼ばれている。トルコ東部のジズレを中心に生活していたが、2015年からトルコ軍が非合法武装組織「クルド労働者党(PKK)」の掃討作戦を行い、市民も犠牲になったことで避難を余儀なくされた。
この一部は日本に流れ着き、いつしか埼玉県川口市や蕨市周辺に集まるようになった。特に蕨市には「ワラビスタン」と呼ばれるクルド人街を築き、埼玉県南部だけで、難民認定申請中の仮放免者と不法滞在者含め2,000人以上が暮らしていると言われている。
来日したクルド人の多くは、難民認定申請をすることで一時的に日本での居住が認められているのだが、日本政府は難民を受け入れる法整備が整っていないため、その身分は“宙ぶらりん”の状態を強いられている。
本来であれば、政府が彼らに寄り添い市民権を与え、納税義務を課した上で住民サービスを提供すべきなのだが、国にも自治体にもそうした動きは見られない。“棄民”扱いされた彼らは一部が不良化し、日本の法律やモラルを無視し、ゴミの不法投棄や騒音、迷惑駐車などで苦情が自治体に相次いでいるほか、無免許でのひき逃げや性的暴行などの事件も起こしている。

不遇な状況にある民族同士エールも
現在、ジズレにおけるトルコ軍によるクルド人迫害は小康状態にあり、街も平穏を取り戻しつつあるという。しかしながら、トルコに強制送還されれば迫害を受ける可能性がある中で、平和な日本での生活を選び、根を降ろしたクルド人が仲間を来日させ、ネズミ算式にその数を増やしているようだ。恐らく彼らはどれだけ説得されても日本での生活を捨て、死の恐怖を抱えながらトルコに戻ろうとはしないだろう。
埼玉県草加市に本社を置く株式会社小川不動産のホームページを覗くと、川口市について「埼玉県内で住みたくない街ランキング」で2位となった株式会社コレクの調査結果と、「埼玉県内で最も刑法犯認知件数が多い」という綜合警備保障株式会社(ALSOK)の調査結果を引用した上で、川口市一部地域の地価下落の原因をクルド人流入による治安の悪化にあると結論付けている。
そんなクルド人だが、不良ばかりではなかった。あえて過去形にしたのは、今回問題を起こした「FCクルド」は先月、群馬県に多いミャンマーのイスラム教徒少数民族のロヒンギャとの交流サッカー大会を開催し、不遇な状況にある民族同士エールを送り合い、心温まるニュースとして広く報じられた。これが2月9日の出来事であり、たった1か月の間で“変節”したとはとても考えられない。

FCクルドの謝罪
そんな中、6日になって「FCクルド」側が要請する形で浦和と協議の場を持ち、FCクルド側はスタジアム規程を知らなかったと説明した上で謝罪した。
筆者はゴール裏サポーター席から“卒業”して久しいが、大旗を持ち込む際に事前の許可が要ることや、「政治的、思想的、宗教的主義、主張または観念を表示しまたは連想させるもの」「選手やチームを応援または鼓舞する目的が認められないもの」(Jリーグ試合運営管理規程第3条から引用)の持ち込みが禁止されていることを、この事件によって初めて知った。
反論の際に差別を持ち込んだことについては、自らの立場を利用した“ズルさ”を感じさせるものの、彼らが本当にこれらの規定を知らなかったという主張に嘘はないだろう。
FCクルドのメティン監督は「子どもたちにプロサッカーの試合を見せたかった。日本語が分からず誤解があったが、協議でお互いに理解できた」と述べ、非を認めた。また「私たちへのヘイトスピーチが増え、このことで浦和と関係が悪化するのは避けたかった」とも述べ、この一件は“手打ち”となった…はずだった。
クルド人支援団体の主張
しかしこの事件はこれで終わらなかった。クルド人支援団体「一般社団法人日本クルド文化協会」が6日、公式Xで浦和側の対応に感謝し謝罪した一方、この事件を報じた産経新聞や一部の地方議員に対し、「子ども達にヘイトスピーチが向かう様に扇動する発信を行い、世論を誤った方向へ誘導した」と批判し、「一方的にSNSで憎悪を煽り続けている」と責任転嫁を図り始め、思わぬ“場外戦”が勃発している。
確かにSNS上ではクルド人差別を含む、様々な意見が投稿されている。しかしこの問題は「FCクルド」のルール違反が事の発端であるということは動かしようがない事実で、これに対しては謝罪もあった。鎮火しようとしている事案に今になってガソリンを掛けるような行為は、巡り巡って、クルド人に対する白眼視に拍車を掛けることを、同協会は知っておくべきでないだろうか。
そう遠くない未来、日本が移民を受け入れる時代がやってくるだろう。来日した多くの移民たちが「日本のサッカーってどんなものなのか」と興味を持ち、観戦に訪れることも予想される。これが世界中で楽しまれているサッカーの強みでもある。
現在のJリーグ会場において、外国人観客にとって取っ付きやすいオペレーションがなされているかと聞かれれば、そうとは言えないだろう。日本国内がグローバル化する中、J各クラブも外国人観客の来場に備えておくべきだろう。今回の浦和の運営担当の対応は機転を利かせ、パーフェクトと呼べるものだったが、他クラブはこれを見本に、準備をしておく必要があるのではないだろうか。