「感度悪い」「テイラー・スウィフトは俗物の典型」 なぜ世界中でマスコミやエリートへの怒りが燃え上がっているのか

2025年4月21日(月)12時0分 文春オンライン

〈 石丸伸二(42)、玉木雄一郎(55)、斎藤元彦(47)はなぜ“選挙に強い”のか…? 3人の共通点は「脱オールドメディア」にあった 〉から続く


 都知事選では小池百合子氏に次ぐ得票数を記録した石丸伸二氏、パワハラ告発を受けたあとの出直し選挙で勝利した兵庫県知事の斎藤元彦氏。選挙に強い2人の共通点とは? ニュース解説メディア『The HEADLINE』編集長、初の著書『 カウンターエリート 』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 最初 から読む)



2人の共通点とは? ©getty


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盛り上がるエリート批判


 こうした政治的な変化やメディア環境の変化は、より大きな社会的変化を示唆している。それは、カウンターエリートの台頭と呼ばれる現象だ。


 結論を先取りするならば、カウンターエリートは単なるアンチエリート(反エリート)を意味するわけではない。しかし、その現象はエリート批判として表出している。


 たとえば石丸伸二は、次のように語ることで、エリートとしての報道機関を批判する。


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〈「感度悪い」って思いましたね。どういう意味かというと、国民が求めている情報を出していない点だ。「わかっていないな」と思った。(略)これだけ時代が変わり、ネットメディア、インターネットの普及で、ものが変わっているにも関わらず「これまで通りのスタイル、スタンスを続けたい」とは。単に自分の立場に甘んじてるだけじゃないか。(略)一番の大企業病は、今はメディアに、はびこっている気がする。その病は死に至る病だ。まだ気づいていないとすれば、余計やばい。〉



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 マスメディアを既得権益と位置づける姿勢は、斎藤元彦の支持者にも共通する。その中には、斎藤を県議会や県庁などの既得権益と戦う「正義のヒーロー」と位置付け、マスメディアは、“真実”を報じない共犯者であると考える者もいる。


 社会学者の伊藤昌亮も、既得権益への批判が、石丸と斎藤支持者に共通する要素だと考える。


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〈 石丸氏は、老害批判、既得権批判で若い世代の支持を得ました。兵庫県知事選でも、県議会や県庁は既得権益のかたまりで、斎藤氏はそれを壊そうとしているという『物語』が、現役世代を中心に受け入れられた。やはり世代間対立の構図がつくられ、既得権を批判する側が支持されたといえます。〉



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 既得権益としてのマスコミ批判には、一定の妥当性もある。


 たとえば西田亮介が指摘するように、テレビや新聞による選挙期間中の報道のあり方については、時代遅れ感も否めない。選挙期間中の報道は、放送法や公職選挙法によって明示的・具体的に制限されているわけではないものの、各社の忖度や自主規制によって、横並びの当たり障りない候補者や公約の紹介にとどまっている。


 結果、読者や視聴者のニーズに応えられない状況が生まれている。こうした構造が、マスメディアは“真実”を報じないという不信感を再生産し、疑念を強化していると言える。


「マスコミは既得権益、腐敗したエリート」か?


 マスコミが既得権益であり、腐敗したエリートだという批判は、マスメディアの関係者の声にも見られる。たとえば元朝日新聞記者の鮫島浩は、次のように述べる。


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〈 しょせんはエリートの社員たちが、安全地帯にいながら「権力批判をしているフリ」をしているだけ。いざとなったら腰砕けになって保身に走る。そういう醜い姿をたくさん見てきました。SNSやインターネットメディアの台頭が、マスコミの「やってるフリ」を完全にバラしたと言えます。インターネットを通じて誰もが情報を発信できるようになり、茶番が可視化されてしまった。政治家も官僚もマスコミも、完全に“あちら側”の人たちで、自分たちのことしか考えずに、既得権益を守っている。それが、明るみに出てしまった。〉



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 選挙とともに現れたエリート批判は、国を超えて広まっている。


 アメリカのコメンテーターとして知られるメーガン・ケリーは、2024年の大統領選でカマラ・ハリス候補を支持した歌手テイラー・スウィフトについて「テイラーとボーイフレンドのトラヴィス・ケルシーの二人は、エリートの俗物ぶりの典型だ」と痛烈に批判する。


 ケリーは反トランスジェンダーの立場から、民主党の副大統領候補のティム・ウォルズによる性的マイノリティ政策を批判し、その流れでスウィフトらに矛先を向けた。


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〈 彼らはどちらも莫大な富を持っている。彼女はこれらの子どもたちがどうなろうと気にしないし、彼もまた、自分が推奨しているファイザーのブースターを接種した若い男性たちがどうなろうと全く気にしていない。〉



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 ハリスに対する左派からの懸念も、エリート批判と結びついていた。ジャコバン誌は、大統領選の勝利のために、民主党が経済エリートを攻撃して、労働者階級の有権者を獲得する必要があったものの、ハリス陣営は「反エリートの対抗策を提示してこなかった」と指摘する。そしてアメリカにおける反エリートの機運を以下のように表現する。


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〈 しかし、国が誤った方向に向かっていると感じていたのは、労働者階級の有権者だけではない。格差が広がる中、政治体制への信頼はかつてないほど低下しており、いずれかの政党に共感する人は、これまで以上に少なくなっている。アメリカ人の70%が、強力な利害関係者が経済システムを不正に操作していると信じており、低所得層のアメリカ人のうち、「アメリカン・ドリーム」が今でも実現可能だと考える人は、わずか40%にとどまっている。そして、国が「正しい方向に進んでいる」と信じている人は、ほとんどいない。〉



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(石田 健/Webオリジナル(外部転載))

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