足立区の女性教師(29)が夏休みに失踪…26年間手がかりゼロだった「元・未解決事件」が動き出した“驚きの展開”――2024年読まれた記事
2025年5月1日(木)8時0分 文春オンライン
2024年、文春オンラインで反響の大きかった記事を発表します。事件部門の第5位は、こちら!(初公開日 2024/08/23)。
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世の中には、解決に至っていない犯罪が存在する。俗に言う「未解決事件」である。
何の手がかりもないまま何年も経過したり、公訴時効を迎えて迷宮入りになったりしたケースも少なくない。しかし、ふとした出来事が、未解決だった難事件を一気に解明に向かわせることも時として起こり得る。捜査関係者の執念なのか、あるいは天の配剤か。
意外なきっかけで真相が明らかになった“元・未解決事件”を追う。
1978(昭和53)年8月15日、東京都足立区立中川小学校で図工教諭だった石川千佳子さん(当時29歳)は、当直だったにもかかわらず、学校に姿を現すことはなかった。
小学校は夏休み中とはいえ、公立学校の教員は地方公務員なので、実際に休みが取れるのは、「夏季特別休暇」の5日間だけ。出勤してこない石川さんを心配した同校の校長は、彼女が一人暮らしするアパートに電話したものの応答がない。ちょうどお盆なので帰省した可能性もある。校長は北海道小樽市の石川さんの実家に連絡を取ったが、やはりそちらにも連絡は入っていないという。
この夏休み期間、石川さんは7月末から8月12日にかけて、東京都の教職員生協が主催する東西ヨーロッパ研修旅行に参加していた。帰国したばかりだったが、無断欠勤する前日の14日にも出勤し、学校内で仕事をしていたことが確認されている。
校内を巡回していた警備員は、14日の夕方に石川さんを目にしているが、それが最後の目撃証言となった。石川さんは突如として行方をくらましてしまったのである。
最初に疑われたのは「北朝鮮による拉致」
学校関係者は自宅アパートを訪問するなどしたものの、消息を知る手立てはなく、石川さんの両親は警察に家出人失踪届を提出した。直前まで日常生活を送っており、トラブルも抱えていない。彼女には失踪する理由がないのだ。

何らかの事件に巻き込まれた可能性が浮上した。
危惧されたのが、北朝鮮による拉致であった。
1987年11月29日、北朝鮮の工作員によって大韓航空所属の旅客機が飛行中に爆破されるテロ事件が発生した。いわゆる大韓航空機爆破事件である。容疑者のひとりは日本国の旅券を持つ「蜂谷真由美」を名乗ったが、彼女こそ北朝鮮の工作員であり、本名は金賢姫(キム・ヒョンヒ)といった。
背乗りで日本人になりすましていたのである。この金賢姫に日本人化教育を施したのが、日本から拉致された李恩恵(リ・ウネ)という女性であった。
金賢姫が日本人化教育を受けたのは1981年7月から1983年3月の期間とされる。石川さんが失踪した時期とも近く、李恩恵と石川さんが同一人物ではないかとの疑念も生じた。
のちの1991年5月16日、埼玉県警は李恩恵の正体が、北朝鮮による拉致被害者の田口八重子さんであることを確認した。李恩恵と石川さんは同一人物ではなかったものの、田口さんが東京で失踪したのは1978年6月。石川さんとは、わずか2カ月と差がない。
北朝鮮が明らかにした拉致被害者の中に石川さんの名前はなく…
また、石川さんが失踪直前に東ヨーロッパに旅行していたことも、北朝鮮による拉致の可能性を感じさせた。当時はまだ東西冷戦のさなかであり、東側を体験した希少な日本人として狙われてしまったのではないか。そのような憶測が生まれるのもおかしくない時代だった。彼女は北朝鮮に連れ去られ、田口さんと同じような境遇にあるのかもしれない。
やがて石川さんの家族は、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない行方不明者、いわゆる「特定失踪者」を調査する特定失踪者問題調査会に届け出た。
そして、2002年9月17日、小泉純一郎首相が歴代首相として初めて訪朝し、金正日総書記と首脳会談を行った。このとき金総書記は国家の関与を公式に認めて謝罪し、拉致被害者の数名が日本に帰国することになった。
このとき日本側が把握していない拉致被害者の存在も明らかになったものの、そこに石川さんの名はなかった。石川さんの行方は一向にわからず、ただ時間だけが過ぎていく。
石川さん失踪は、まったく手がかりのない未解決事件だった。
しかし、事件発生から26年後、思わぬ展開を迎えることになる。
(加山 竜司)
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