「傘50円」「眼鏡800円」引き取り手ない電車の忘れ物販売、一輪車やスキーブーツも…主婦「宝探しのよう」
2025年5月2日(金)7時35分 読売新聞
販売会では電車内で忘れられた傘や一輪車などが所狭しと並ぶ(東京都中野区で)
引き取り手のない忘れ物や落とし物を商品として販売する動きが広がっている。物価高が進む中、割安に商品を購入できることが人気を集める一方、廃棄物を減らそうとする事業者の意識の高まりも背景にあるようだ。(石沢達洋)
「傘—50円」「眼鏡—800円」
東京都中野区の「中野マルイ」の特設コーナーには、約2万点の日用品や雑貨が所狭しと並ぶ。全て電車内で忘れられた遺失物で、今月6日まで販売会が行われている。一輪車やスキーのブーツといった落とし物とは思えない品もあり、見ているだけでも飽きない。
杉並区の主婦(70)は、山積みの傘の中から折りたたみ傘とカバーを選び、計1250円で購入した。他店では同種の新品が4000円超で売っていたといい、「宝探しのように夢中になった。今はどこでも値段が高いので、安く買えてラッキーです」と満足げに話した。
遺失物法では、落とし物は原則3か月の保管期間を過ぎると拾得者に所有権が移るとされる。販売会を催すリサイクル品販売業「ラ・ボーテ」(神奈川県)は約20年前から、保管期間を過ぎた電車内などの遺失物を仕入れ、販売してきた。上田哲也社長(61)は「この物価高で安価で買えることもあって、販売を始めた頃と比べて売り上げはほぼ倍増した」と明かす。
警視庁によると、同庁が昨年に処理した拾得物約460万点のうち持ち主に返還されたのは3割で、残りは鉄道会社などを含む拾得者に引き渡されたり、廃棄されたりした。廃棄を減らそうと、リユースやリサイクルなどで資源循環に取り組む企業も増えている。
東急電鉄(渋谷区)や東急バス(目黒区)などは中古品販売店「ブックオフ」で、保管期間が過ぎた電車やバスの遺失物を販売する実証実験を実施。1年2か月間で約5300キロの遺失物をリユース品として売るなどし、廃棄量が1か月あたり15%減り、二酸化炭素排出量も削減した。23年4月から本格販売しており、東急の担当者は「これまで遺失物は全て廃棄していたが、こうした取り組みで誰もが負担感なく、環境に良い行動を取れるまちづくりを進めたい」と話す。
インターネットを通じ、遺失物を売買する取り組みも始まっている。
中央区のIT会社「
それでも保管期限が過ぎて廃棄に回る遺失物も多いため、同社は今年2月からフリーマーケットサイト「メルカリ」で引き取り手がない遺失物を販売する実証実験を始めた。フォロワーは8000人を超え、サイトに出品されたうち7割が売れるほどの好評ぶりだ。
ファインドの和田龍取締役(36)は「落とし物が戻ってくる社会を目指しつつ、廃棄品も減らす取り組みを進めたい」と話している。