「加害者は70名」夫は10年間、夫婦の寝室で眠る妻を男たちに襲わせ続けた…60代女性が受けた“21世紀最悪の性犯罪”

2025年5月5日(月)18時0分 文春オンライン

「21世紀最悪の性犯罪」。そう呼ばれるまで欧米を震え上がらせたのが「マザンの怪物」事件。犯行の被害は比べられるものではないが、この事件がおそろしいのは、家族すら信頼できなくなることだ。


妻を薬で眠らせ10年におよぶ集団暴行


 事件の舞台は、フランス南部のマザン。2020年、60代のジゼル・ペリコ夫人は、終の棲家として美しい田舎町に居住していた。夫のドミニクとは、10代のころ一目惚れして結婚して以来、50年連れ添った仲。電力会社管理職の妻と事業主の夫として、ダブル不倫の危機も経験したが、3人の子どもを立派に育て上げた「完璧な一家」と評判だった。


 幸福な余生を送るなか、ジゼルは不可解な健康問題に苦しんでいた。記憶喪失や失神、さらに婦人科系の病気に苛まれたため、アルツハイマーや脳腫瘍を疑ったものの、医者にかかってもわからずじまい。結局、原因を暴いたのは、警察であった。


 夫のドミニクが、スーパーマーケットで女性を盗撮して捕まったというのだ。そこで、警察が彼のパソコンを調べると「虐待」というファイルから、2万件もの映像や写真が発見された。



※ここから先、性的暴力についての具体的な描写があります。読者によっては、フラッシュバックを引き起こすことやショックを受けることが予想されます。読み進める前にご検討ください。



 映っていたのは、夫婦の寝室。過激な下着を着せられ下品な言葉を身体に書かれて眠っているジゼルが、無数の男たちから何度も襲われたり暴力をふるわれたりしていた。約10年分の膨大な証拠に映っていた加害者は70名におよび、犯行現場は夫婦で短期滞在した娘の邸宅や別荘にも及んでいた。


 このおそるべき集団暴行を主導していたのは、夫のドミニクだった。約10年間ものあいだ、妻の食べものに薬を混ぜて眠らせ、インターネットで勧誘した男たちを家に招き「やること」を指導しながら避妊もなしに暴行させていたのだ。


集団強姦の加害者たちの言い分


「相手に内緒で」と名づけられたドミニクのチャットルームで勧誘された加害者のうち、起訴された50人の肩書きはバラバラだった。年齢は20代から70代にわたり、多くが子持ち。職種にしても、政治家やジャーナリスト、刑務所長、軍人、トラック運転手などさまざまで、ジゼルと知り合いだった近隣住人まで参加していた。同性愛者を自称する男も複数おり「ドミニクと性交渉したかったから渋々その妻に危害を加えた」とする供述まで出てきたのだから衝撃というほかない。現場でおかしさに気づいた参加者もいたものの、通報した者は誰もいなかった。



©mapo/イメージマート


 多くが夫婦の同意にもとづく「プレイ」と思っていたと主張したが、なかには性交渉における同意の概念そのものを知らなかったり「夫が許可していれば大丈夫」だと考えていた者もいた。しかし、当のドミニクは「全員レイプとわかっていた」と供述している。主犯はフランスの加重強姦罪で最高となる20年の懲役、参加者はおおむね3年から15年の懲役が科された。


「マザンの怪物」と呼ばれるようになったドミニク・ペリコは、凄惨な虐待家庭に育ち、14歳のとき建設業見習いとして働いていた際に集団強姦に強制参加させられて「特殊性癖」に目覚めたと語っている。結婚後は良き夫として通っていたものの、1990年代には若い女性への殺人未遂も犯していた。2010年代、ジゼルに対する暴行をはじめると夢中になり、依存状態となった。逮捕後にも反省の色を見せなかったというが、妻を愛していると訴えつづけた。「逮捕さえされなければ妻も幸せなままだった」。


被害者である妻が名前を明かし裁判を公開した理由


「私の人生は崩壊した」。ジゼル本人いわく「自分がゴミ袋のようになぶられている」証拠の数々を見せられた彼女は、打ちのめされ、離婚し、家を出た。しかし、2024年、決意を固める。被害者としての匿名の権利を放棄し、公開裁判を行ったのだ。すべては、ほかの性暴力被害者女性のため、社会を変えるためだと証言台で主張した。「性被害による羞恥心は、被害者が抱えるものではありません。恥を負うべきは加害者なのです」。


 こうして、事件の実態が世界中に報道されていった。裁判には多くの女性たちが駆けつけ、イギリスのカミラ王妃や仏独の首脳も支援を表明していった。2025年、70代になったジゼルは、米タイム誌の「今年の女性」に選出されている。彼女に付き添った次女のキャロラインは、性加害に使われる薬物検査キットの開発と普及につとめる団体も設立した。


 それでも、ペリコ家は崩壊してしまった。邸宅に隠しカメラを仕込んでいたドミニクは、娘や息子の妻たちの盗撮写真もインターネットで共有していたのだ。これにより次男夫婦は離婚している。自分のものではない下着で眠っている写真を撮られていたキャロラインは性器裂傷も負っていたが、証拠がなかったため別件で提訴している。彼女への虐待疑惑をジゼルが認めなかったことで、母子関係にも亀裂が入ってしまったという。ドミニクが幼い孫たちに加害した疑念も残った。


「家庭とは、安全地帯のはずです。性犯罪の現場になるなんてあってはいけない」。キャロラインの言葉にもあるように「マザンの怪物」事件のおそろしさとは、知らず知らずのうちに家族の男性に襲われるリスクの可能性を女性たちに気づかせてしまったことだ。類似事件も浮かび上がっている。


「マザンの怪物」は世界中に潜んでいる


 ドミニク・ペリコの犯行のきっかけとなったのは、定年間際にのめりこんだインターネットだった。人生ではじめて同じ過激性癖の者と話し合っていくなかで、ある看護師から誘われてやる気になったのだという。やがて自身もチャット仲間に犯罪を勧めるようになり、自身の「クローン」と呼ぶ弟子をつくっていった。ジゼルに集団暴行を加えるなか「ほかに襲いたい女性はいるか」と聞かれた若者が自身の母親を挙げて薬を貰い受けたケースもあった。


 ある暗号化アプリを調査したドイツ公共放送局ARDによると、妻や母親への危害について語る英語コミュニティには、7万人もの参加者がいた。そのなかでは、欧米での犯行も中継されていた。


 日本においても、インターネットを介した集団暴行計画や、仲間うちでの承認欲求を満たすために娘の盗撮写真を共有したケースが報告されている。「21世紀最悪の性犯罪」と呼ばれた怪物は、世界中に潜んでいるのかもしれない。


(辰巳JUNK)

文春オンライン

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