市街地にクマ 発砲は住民の安全確保優先に
2025年5月7日(水)5時0分 読売新聞
クマが街中に出没し、人に危害を加えるケースが後を絶たない。やむを得ずハンターの発砲を認める場合は、住民に被害が及ばないよう安全確保に十分な留意が必要だ。
市街地に出没したクマやイノシシを「危険鳥獣」とみなし、猟銃での駆除を認める改正鳥獣保護法が成立した。民家に現れ、人に危害を与える恐れがある場合などに、市町村長の判断でハンターが発砲できるようにする内容だ。
クマによる人への被害は2023年度、過去最多の219人に上った。このうち6人は死亡している。人とクマの生活圏を隔てていた里山が人口減少で荒廃し、クマが人の生活圏に近づきやすくなっていることが原因だ。
これまで市街地では、警察官が命じた場合などを除き、猟銃の発砲が原則禁止されていた。そのため、人家が近い場所で、ハンターが発砲できずにクマに襲われてケガをした例もあり、発砲要件の緩和を求める声が出ていた。
住民やハンターの命を守るには、市街地での発砲もやむを得まい。ただし、住民らの安全確保が大前提であることは言うまでもない。できる限り、抑制的に運用することが望ましい。
クマが市街地に出没した時は、一般に市町村の職員や警察官がハンターとともに現場に駆けつける。その際、発砲の許可と責任は市町村長が負うことになる。
万一、民家などに流れ弾が当たった場合は、市町村が補償することになる。どういう状況になれば発砲を認めるのかが重要なポイントになるだろう。
国は、発砲の判断や安全対策について指針をまとめる。明確かつ具体的な基準を示すべきだ。
市町村長の判断を助けられるような、クマ対策の知識を持つ職員がいない市町村も多い。研修などによる人材育成には国の支援が欠かせない。都道府県による緊急時の応援体制も求められる。
北海道では18年、自治体の要請を受けたハンターが、警察官もいる中、民家近くでクマを駆除した。しかし、弾が民家に届く危険があったとして、道公安委員会がハンターの猟銃所持許可を取り消し、訴訟に発展する事態になった。
こうした混乱が起きないようにしなければならない。
駆除に抵抗感を抱く人が「クマがかわいそうだ」と、自治体やハンターを批判する動きがある。発砲は、人の命を守るため、やむを得ず行うものだという理解を社会全体で深めたい。