「僕たちはふたり一緒に生きていて、幸せだった」“節約の鬼”だったサニージャーニーこうへいが妻の誕生日に送った「最高のプレゼント」の正体――2024年読まれた記事
2025年5月6日(火)12時0分 文春オンライン
2024年、文春オンラインで反響の大きかった記事を発表します。インフルエンサー部門の第2位は、こちら!(初公開日 2024/04/14)。
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妻・みずきさんの32回目となる誕生日に、こうへいさんが送った最高のプレゼントとは……? サニージャーニーによる初の著書『 日本一周中に彼女が余命宣告されました。〜すい臓がんステージ4 カップルYouTuber 愛の闘病記〜 』(双葉社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/ 前編 を読む)

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最初は「逆流性食道炎」だと思ったけど…
それからひと月くらいが経ち、僕たちは熊本にいた。大分でもらった薬を飲み切ってしまったのと、まだ体調がスッキリしないので、再び受診することにした。
だが、前回「大きな病気の可能性はない」と言われ、検査も当時の状況で考えられるものはやり尽くしていたこともあり、「薬だけもらえれば大丈夫」というみずきの判断で、小さな個人医院で受診した。
こちらの病院では、逆流性食道炎かもしれないとの話だった。
「車中泊のストレスや、姿勢が同じ状態でい続けることなどが原因で、逆流性食道炎になることは考えられる。よく歩くように意識してください」と言われた。
ネットで調べてみると確かにみずきの症状に当てはまる。また、長引く病気でもあるようだ。
いろいろ合点がいき、じゃあゆっくり治していくしかないねと妙に納得してしまった。
このとき、病院で緑色のドロドロの液体の薬を処方される。胃の粘膜を保護するために食前に飲む薬だ。
おいしくはなく、ねばねばした感触が喉に残るらしいのだが、みずきはそれを北海道弁で「ねっぱる薬」と表現して毎日飲んでいた。
この薬を食前に飲むようになってからみずきの調子は良くなった。後にがんが発覚するまで、このねっぱる薬に頼り続けた。ご飯前には「今日ねっぱった?」と確認し合い、飲み忘れないようにするほど、ふたりともこの薬が効いていると信じきっていた。
すい臓がんとわかってからは「この薬は全然意味ないよ」と言われるのだが……。
みずきの体調は、熊本での受診以降少しずつ良くなっていった。日によって体調が優れない日があったり、食べる量が以前より減ったりという変化はあったが「逆流性食道炎だからゆっくり治していこう」とゆったりした生活を心がけるようになっていった。
それまで、ほぼ毎日のように夜遅くまで編集等の作業をふたりでしていたが、体調不良になったことで「無理させてしまった」と深く反省し、みずきの稼働時間は日中のみとした。
日中撮影したり編集したりして過ごし、夕ご飯を食べた後はみずきは好きなことをして過ごしていい時間にした。週に2日は編集日としてゆっくり作業ができる日も作った。
体調の悪い日は撮影もせず、ともかく無理させないようにと意識するようになった。みずきができないぶんは、僕がやればいいのだ。
南阿蘇の思い出
僕たちは熊本の南阿蘇がとても気に入った。
与論でお世話になったSさんという方からの繋がりで、南阿蘇の地域おこし協力隊の市村さんを紹介してもらった。
市村さんは熊本地震を機に、それまで勤めていた大手食品加工メーカーを退社。自分が大学時代を過ごした思い出の地・南阿蘇の復興を手伝いたいと、地域おこし協力隊に参加した異色の人物だ。
この経歴を聞くと心優しい青年がイメージされるかもしれないが見た目はかなりイカつい。背も高く、スキンヘッドで眼光鋭く一瞬「反社の人では?」と疑ってしまうほどの迫力がある。
そんな市村さんを通して南阿蘇のさまざまな人と出会った。
アスパラガスの収穫をお手伝いしたり、草千里の美しい風景の中で乗馬体験をしたり、熊本地震の復興の軌跡を学んだりもした。
有機栽培の田んぼの草取りをした朝は忘れられない。
人々が起き出す前のしんとした空気、ひんやりと心地よく素足を包む田んぼの泥の感触、朝日に照らされて輝く阿蘇山。
すっかり南阿蘇のファンになった僕たちは、みずきの療養も兼ねて10日間ほど滞在した。
その間にみずきは32歳の誕生日を迎えた。
「今年の誕生日は何が欲しい?」と尋ねると、「道の駅で好きなだけ買い物できる権(利)」だった。
みずきは道の駅が大好きだ。地域のお土産や特産品を見るのが本当に好きで、各地の特色が活かされている商品を見て、「これはおいしそう」「こんなのよく思いつくね」「これめっちゃかわいい」などひとつひとつ感想を言っては楽しそうにする。
ただ、日本一周旅では節約が必須だ。特にこの頃、僕は節約の鬼になっていた。
旅の目的のひとつ、ご当地飯にはもちろんお金を使う。動画のコンテンツにもなり得る観光アクティビティなども仕方ない。しかし「道の駅でお土産を買う」は節約のしどころだ。
そんな背景もあって、道の駅で好きなだけ買い物できるのはみずきにとっては夢の権利だ。
「僕たちはふたり一緒に生きていて、幸せだった」
権利が行使されたのは大好きな南阿蘇の道の駅「あそ望の郷くぎの」でだった。
牛乳瓶に入った牛の形のクッキー、ハーブティー、チーズ、リンゴジャム、搾りたての牛乳、阿蘇名産のあか牛のハムなど、みずきはものすごく嬉しそうに道の駅の中を見て回った。
その後ふたりでお祝いのランチを食べた。
あか牛のステーキはとてもやわらかくておいしかった。申しわけなさそうにしつつも嬉しそうに微笑むみずきの顔を見て、僕の心は温かくなった。
貧乏旅だったが、僕たちはふたり一緒に生きていて、幸せだった。
(サニージャーニー/Webオリジナル(外部転載))