海保の自己都合離職389人、若手中心に転勤を敬遠…初の実員減で尖閣対応への影響懸念

2025年5月6日(火)5時0分 読売新聞

海上保安庁

 海上保安庁の自己都合退職者数が2024年度の1年間で389人に上り、実際の人員(実員)が減少に転じたことが、海保への取材でわかった。中国公船による沖縄県・尖閣諸島周辺海域への接近や領海侵入の急増を受け、政府が海保の定員を毎年100〜400人前後増やしてきた13年度以降、前年比で実員が減少するのは初めて。

 政府は尖閣周辺の領海警備など6分野を重点に定めた「海上保安能力強化に関する方針」を掲げる。自己都合退職者は21年度から4年連続で300人を超えており、方針への影響が生じかねない。

 海保によると、24年度の海保の自己都合退職者389人のうち、20歳代が243人、30歳代が93人で計336人(86%)を占めた。今年3月末の実員は、前年比6人減の1万4123人だった。

 海保は離職増の一因に、社会情勢の急速な変化があると分析する。国内では共働き世帯が増え、転居を伴う異動を敬遠する意識が強まってきた。

 大半の海保職員は2〜3年ごとに転勤を繰り返し、単身赴任も少なくない。大型船の乗組員は10日以上に及ぶこともある航海の間、インターネットに接続できず、家族とも満足に連絡が取れない状態が続いてきた。

 一方、法令で定める海保の定員は、09年度の1万2593人から15年間で2割近く増え、24年度には1万4788人となった。特に、中国海警船が尖閣周辺の接続水域で年200日を超えて確認された13年以降、政府は海保の定員を年度平均170人のペースで拡充し、大型巡視船の保有も54隻から78隻に増えた。29年度には超大型の多目的巡視船を含め91隻となる。

 その結果、定員と実員の差(欠員)は徐々に広がっている。13年度末には259人だった欠員は、24年度末には665人と初めて600人台に達した。中でも大型巡視船に乗る「船員」では355人(欠員率12%、1月現在)に上る。

 海保は領海警備に加え、海上での人命救助や犯罪捜査、航行の安全、海洋調査などを広く担う。実員と定員の隔たりが広がれば、船艇の運用や安全運航にも影響が出かねない。読売新聞の取材に対し、海保の古川大輔人事課長は「現状を重く受け止めている。職員の再採用強化を始めとして、前例にとらわれず、やれることを全てやるつもりで対策を考えていく」と話した。

船と人 バランスある強化を

2016年に海上保安庁の体制強化方針を掲げた政府は、22年に能力強化方針へ引き継ぎ、ハード・ソフト両面の強靱(きょうじん)化を進めてきた。だが、その一線を担う海上保安官の離職と採用難に歯止めをかけなければ、強化の土台は崩れてしまう。

 海保は決して無為無策ではない。業務を見直し、働きやすい職場環境を作る「カイゼン委員会」を23年に設置。昨年秋に推進本部へ格上げして地方の管区本部にも置き、現場の声を集めている。大型巡視船では居室の個室化や衛星通信網「スターリンク」などによる常時ネット接続の導入が進む。大型ドローンや人工知能(AI)など新技術の活用も積極化させている。

 今後、給与アップなど処遇改善の検討も必要になる。ただ、社会的価値観の変化や18歳人口の減少という現実を前に、今後も人材確保は苦戦が続くだろう。

 強引な海洋進出を続ける中国に対峙(たいじ)する上で、海保の強化は欠かせない。一方、人材確保を考慮せずに「強化ありき」で大型巡視船の建造を続ければ、現場の疲弊も深刻化する。いっそう地に足を着け、バランスの取れた強化策の検討が求められる。(森田啓文)

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