2025年春ドラマ、オススメ5作発表&23作の傾向分析「絶妙なリアリティー」「若手・中堅俳優に刺激」
2025年5月3日(土)8時0分 マイナビニュース
ゴールデンウィークに突入し、ようやく各局の春ドラマがそろった。日曜劇場と金曜ドラマが好調のTBS、危機的状況が続くフジテレビ、ドラマ枠を移動させた日本テレビ……置かれた状況はそれぞれだが、ここまでは年度初めらしい力作ぞろいのムードが漂っている。
主要作がそろったこのタイミングで「本当に質が高くて、今後期待できる作品」を唯一のドラマ解説者・木村隆志がピックアップ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、今回の前編では2025年春ドラマ主要23作の傾向とおすすめ5作、次回の後編では目安の採点付き全作レビューを挙げていく。
2025年春ドラマの主な傾向は、【[1]月9と日曜劇場に積み上げられたスタッフの力】 【[2]“アラ還”の大ベテラン主演がそろい踏み】の2つ。
傾向[1]月9と日曜劇場に積み上げられたスタッフの力
今春は、フジ月9(月曜21時〜)とTBS日曜劇場(日曜21時〜)と両局の看板枠にスタッフの確かな力を感じさせられる。
まずフジの看板枠・月9の『続・続・最後から二番目の恋』は前作から11年ぶりで、演出陣が入れ替わりながらも世界観は不変。ほぼすべてのキャストが続投し、実年齢と同じように年月を積み重ねることで、絶妙なリアリティーを醸し出している。
コメディのさじ加減、現代社会やエンタメの批評、鎌倉の情緒ある風景なども含め、この作品にしかない世界観を継承。2012年の第1弾と2014年の第2弾は木曜劇場(木曜22時〜)で作り上げたものをあえて月9に移動させた適材適所の編成も含め、制作サイドの底力を感じさせられる。
一方、TBSの看板枠・日曜劇場の『キャスター』は、阿部寛という同枠の看板役者を立てただけに、現時点における集大成というムードを感じさせられる。報道番組を舞台にした自己批評……というより自己否定からはじまる物語は「報道のTBS」を自負する同局だからこそ意気込みは強く、各話のエピソードにそれが表れていた。
視聴者の予想を上回るように二転三転していく物語は、近年の日曜劇場が最もこだわっているところであり、エンタメ性に直結。それを計6人の脚本家が携わるライターズルーム形式で仕上げていくプロデュースが成熟してきた感がある。
1年4クールで作品を変えていく連ドラの現場は忙しく、目先の数字を追いたいこともあって、このようなスタッフの積み上げを前提にした編成戦略は「やりたいけどできない」のが実情。編成担当やプロデューサーの個人技や勘に頼りがちなだけに、今春の2作は際立って見える。
傾向[2]“アラ還”の大ベテラン主演がそろい踏み
2020年春以降スポンサー受けのいいコア層(13〜49)の個人視聴率獲得に向けたドラマ制作が進められ、主演俳優も若返っていた。しかし、昨秋の改編期あたりから全体の年齢層に向けた制作も強化していく動きが復活。バラエティでも東野幸治(57)、ヒロミ(60)、生瀬勝久(64)ら“アラ還”をメインに据えた番組がゴールデン・プライム帯でスタートした。
一方ドラマでは今春、『続・続・最後から二番目の恋』の小泉今日子(59)と中井貴一(63)、『PJ 〜航空救難団〜』(テレビ朝日系)の内野聖陽(56)、『キャスター』の阿部寛(60)と4人もの“アラ還”主演がそろい踏み。いずれも各局を代表するドラマ枠の主演であり、若者を上回るようなエネルギッシュな役柄を演じている。
しかもこの3作は視聴率で上位を占めているほか配信再生数も好調。特に『続・続・最後から二番目の恋』の初回見逃し配信は320万再生、TVerのお気に入り登録数は110万を突破している。このまま「“アラ還”主演のドラマでも配信再生数を稼げる」という実績を残せたら今後のドラマシーンに影響を与えるだろう。
大ベテランの健在ぶりは年齢不問で元気や勇気をもらえるが、若手・中堅の俳優にとってもいい刺激になるはず。特に今春は、松本若菜(41)、北川景子(38)、桜井ユキ(38)、多部未華子(36)、岸井ゆきの(33)、広瀬アリス(30)、川栄李奈(30)と中堅層の主演女優がそろっているだけに、1995年の『まだ恋は始まらない』以来30年ぶりに月9主演を務める小泉今日子の姿は道しるべになるのかもしれない。
これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『続・続・最後から二番目の恋』『しあわせは食べて寝て待て』『PJ 〜航空救難団〜』の3作。
『続・続・最後から二番目の恋』は11年ぶりの続々編でダブル主演はアラ還だが、むしろ進化を感じさせる仕上がり。主人公2人の距離感と会話は心地よさを増し、さんざん笑わせながら人生を考えさせられる、唯一無二の作品となった。「右肩下がり」と言われがちな他のシリーズ作とは一線を画すクオリティだけに、未見の人にもおすすめしたい。
『しあわせは食べて寝て待て』は膠原病の主人公を通して描くさわやかな再生物語。シビアな日常の中でかすかな光を見つけ、身近な人々とふれ合うことでゆっくり歩き出す姿に癒される。
『PJ 〜航空救難団〜』はどこまでも熱い師弟関係と航空機のスケールは『海猿』を彷彿。ハラスメントが世間をにぎわせる中、今や希少な“昭和の根性モノ”は爽快感すら感じさせられる。
さらに『波うららかに、めおと日和』は昭和初期のピュアな夫婦関係を令和の若者が見やすくさせる脚本・演出が光る。『キャスター』は日曜劇場らしい二転三転の物語でエンタメ性が高く、複数脚本家の体制が機能。
「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局の動画配信サービスなどでチェックしてみてはいかがだろうか。
2025年春ドラマ オススメ5作
No.1 続・続・最後から二番目の恋 (フジ系 月曜21時)
No.2 しあわせは食べて寝て待て (NHK総合 火曜22時)
No.3 PJ 〜航空救難団〜 (テレ朝系 木曜21時)
No.4 波うららかに、めおと日和 (フジ系 木曜22時)
No.5 キャスター (TBS系 日曜21時)
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら