亡くなった夫が作り置きしたハンバーグ、家族で泣きながら食べた「あんなにつらい時間ない」…首都高6人死傷事故

2025年5月20日(火)22時13分 読売新聞

初公判を終えて記者会見する遺族ら。置かれた写真は船本宏史さん(左)と杉平裕紀さん(20日、東京・霞が関で)=帖地洸平撮影

 埼玉県戸田市の首都高速で昨年5月、大型トラックが渋滞の車列に突っ込んで6人が死傷した事故で、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)に問われた元運転手・降籏紗京(ふりはたさきょう)被告(29)の初公判が20日、東京地裁(大川隆男裁判長)であり、被告は起訴事実を認めた。検察側は冒頭陳述で、被告が体調不良を自覚していたのに睡眠不足のまま安易に運転し、事故を招いたと指摘した。

 「不倫相手との連絡を優先し、睡眠を取らずに事故を起こした。できる限り重罰にしてほしい」。事故で亡くなった杉平さんの妻・智里さんは閉廷後、他の遺族らとともに記者会見し、被告への憤りを口にした。

 家族で過ごす時間を何よりも大切にしていたという杉平さん。高校生だった息子と中学生だった娘の弁当を毎朝作り、仕事から帰宅後は翌日の夕飯の仕込みをしてくれた。

 杉平さんが事故に遭ったとの一報を受けた1年前のあの日。「どうか無事でいて」。そう願ったが、夫からの「帰るね」の連絡はいつまでも届かなかった。その日の夜、夫が前日に作り置きしてくれたハンバーグを家族みんなで泣きながら食べた。「あんなにつらい時間はなかった」

 遺体の損傷が激しく、身元の判明には時間がかかった。そんな時、遺体の左手にある、結婚記念日と夫婦のイニシャルが刻印された結婚指輪が見つかった。警察から「ありました」と連絡を受け、涙がこぼれた。20日の法廷では「私も子どもも、悲しみを一生引きずって生きていかないといけない」という智里さんの調書が読み上げられた。

 遺族は、同じ自動車運転死傷行為処罰法違反でも、訴因を過失運転致死傷罪から、より法定刑の重い危険運転致死傷罪に変更するよう求めてきた。被告は事故後の鑑定で重度の「睡眠時無呼吸症候群」と診断されており、事故前のずさんな体調管理と合わせ、危険運転の要件である「睡眠障害」にあたるはずだと訴えてきた。

 だが被告は事故前には診断を受けておらず、検察から最近、「故意の立証が難しい」と訴因変更を見送る方針を伝えられたという。今回のように病気が問題となった事故での法定刑の上限は、危険運転致死傷罪なら「懲役15年」だが、過失運転致死傷罪では「懲役7年」。智里さんは会見で「納得できないが、今の法律でできる限りの重罰を求めたい」と声を振り絞った。

 危険運転を巡っては現在、法制審議会(法相の諮問機関)で適用要件を明確化するなどの改正議論が進んでいる。高速度運転や飲酒運転について、速度や飲酒量の数値基準の新設に向けた検討が行われているが、病気の影響による事故については議論の対象とはなっていない。

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