「使い道はギャンブルやキャバクラ」「最初はバレにくい1000円程度から」飲食店の“強欲従業員”たちが手を染める“大胆すぎる横領” 犯人を「即刻クビ」にできない悲しすぎる事情

2025年5月22日(木)12時0分 文春オンライン

〈 「ワンオペを悪用」「壁によじ登り、お札を1枚ずつ抜き取る」飲食店で頻発する“大胆過ぎる横領” ギャンブル・キャバクラに狂った「強欲従業員」たちの衝撃手口 〉から続く


「勤務態度はいたって真面目。そんなことをする人だと思わなかった」——。


 筆者は外食ジャーナリストとして多くの飲食店経営者と関わるが、従業員による横領の話は後を絶たない。多くは1000円程度とバレにくい金額から始まり、どんどんエスカレートしてしまい、中には被害総額が1000万円近くにのぼるものもあるという。そのうち、前回の記事では監視カメラから発覚した呆れた手口などを紹介した。


 今回は「要注意人物」の特徴や横領が起こりがちな店舗の特徴、防ぐための手法を紹介していく。(全2回の2回目/ 前回を読む )



横領した金額の多くはギャンブルやキャバクラに使い込まれているという ©hiroyuki_nakai/イメージマート


一見「真面目な人」ほど要注意


 被害に遭った人たちの話を聞いていると、横領を働いた多くの従業員は「真面目な勤務態度」だったことが多いという。「まさかあの人が」という衝撃とともに、経営者はその後の対応にも頭を悩ませる。


 というのも多くの場合、横領が発覚した時点で犯人は盗んだ金を使い果たしており、すぐに返ってくる例が少ないのだ。先述のように最初は少額からスタートし、長期間にわたりくすねていくことも多いため、発覚した時点で相応の時間が経過してしまっている。


 その間、犯人は盗んだ金を使いこんでしまっており、特にギャンブルやキャバクラなど娯楽性の高いものに散財しているケースが多いのも特徴だ。


「横領犯」を雇い続ける店も


 従業員による横領は、被害総額が数百万円単位にのぼるケースも珍しくはない。本来は店の利益だったと思うとやりきれないだろう。もちろん、経営者としてはそんな従業員は「即刻クビ」にして警察に突き出したいが、さりとて盗んだ金は犯人の手元には残っておらず、返ってくる可能性は残念ながら低い。


 そのため、失った金を取り戻すために罪を犯した従業員を雇用し続け、給料から天引きしながら返済させる経営者もいる。700万円を横領された、都内の飲食店を経営する40代の人物は、既に金を使い果たし返済能力のない30代の犯人を3年にわたり雇い続け、毎月の給料から天引きし返済させた。


 発覚した当初、この経営者は「お金に困っているなら、相談してほしかった」と悲しげに話していた。その後、犯人が横領した金をギャンブルや風俗に使い込んだことを知り、落胆したという。


 先日、ついにその返済が終了。経営者は「来月から給料を天引きせず、働いてくれた分の給料を渡せる」と晴れやかな顔をしていた。犯人も改心し、今では真面目に働いており、今後もその店で働き続けるという。


 とはいえ、葛藤もあったという。一度は横領に手を染めた従業員が働いているのは、あまり気持ちのよい状況ではない。「また横領されるのではないか」と不安は付きまとうし、他の従業員のモチベーションにも影響しかねず、救いようがない。


「横領しやすい店」の特徴


 そもそも、なぜ横領が起こるのか。


 当然ながら横領を行う当人の倫理観の欠如によるものが大きいが「横領をしやすい環境」「しにくい環境」というものも存在する。多くは、複数店舗を経営するようになり、経営者が現場にいない場合に起きがちだ。規模が拡大し目の届かない範囲が増える分、管理体制を整える必要がある。


 経営者が派手な生活ぶりを見せている場合も気を付けたい。


 ハイブランドの服に身を包み、住居はタワマン高層階。高級車を乗り回す——といった、誰が見ても「お金を持っている」という姿は横領を誘発する。


 実際、資金を持ち逃げされたある経営者はSNSでたびたび高級レストランでの食事や(飲食業なので同業の店を食べ歩くことは仕事でもあるのだが)、海外旅行の様子をアップしていた。これらも無関係ではないのだろう。


横領対策に有効な手法とは


 どうすれば従業員の横領を防げるのか。監視カメラの設置も有効だが、不正防止対策として注目されているのが「キャッシュレス」の導入だ。


 近年、多くの飲食店でキャッシュレス化が進んでいる。飲食店側から見て、キャッシュレス決済にはメリット・デメリットがある。最大のデメリットは売り上げから決済手数料が引かれてしまうこと。もともと利益率の低い飲食店で、さらに手数料として売り上げの数%が引かれてしまうのはインパクトが大きい。これを理由に現金払いにこだわる店も多い。


 しかし、それ以上のメリットがある。現金を扱う必要がなくなる。現金にまつわる業務は想像以上に煩雑なもので、その分の人件費などを考えれば手数料を負担してでも十分なメリットになる。キャッシュレスならわざわざ銀行に足を運んで入金する必要もないし、データで管理されるため売り上げの数字とレジに入っている金額が合わないという事態も起こりにくい。最近では現金支払いを受け付けず、完全キャッシュレスの店も増えている。


 現金を扱わないことは、横領の“チャンス”を大幅に減らすことにつながる。横領とは基本的にデータに残らない場所で行われるもので、キャッシュレスにより金の流れがデータ化されると、そこに付け入る隙がなくなるのだ。現金管理の煩雑さから解放されたいという以上に「従業員による横領を防ぎたい」という動機でキャッシュレスを導入する飲食店も多い。


 当然、横領は行う人間が悪い。が、横領ができる環境をつくり出していることは、経営者の責任とも言えるだろう。ともに働いていた仲間が窃盗犯になってしまうというのは、金を失うこと以上に精神的にも辛いもの。こうした側面からも、飲食店のキャッシュレス化は進んでいる。


(大関 まなみ)

文春オンライン

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