大阪市の特区民泊やホテル・旅館、300超が重複計上…市は実態把握せず

2025年5月27日(火)7時9分 読売新聞

廃業した簡易宿所の跡地。大阪市の一覧に掲載されたままだ(大阪市西成区で)

 大阪市が認定・許可している特区民泊やホテル、旅館など計7819施設(3月末時点)のうち、300超の施設で、複数の業者を重複して認定・許可していることが市への取材でわかった。以前の業者が廃業したのに届けていないためで、施設数が重複計上されていた。施設数は国の統計などにも使われている。市が宿泊施設の実態を正確に把握できていないことになり、専門家から疑問の声が上がる。(南部さやか)

 市は、特区民泊と、ホテル・旅館・簡易宿所について、それぞれ施設名や住所、営業者名をホームページで公表している。特区民泊は3月末時点で6038施設、ホテルなどは計1781施設が掲載されている。

 読売新聞が一覧を確認したところ、同じ住所や建物内の同じ部屋で、複数の施設が掲載されているケースがあった。読売新聞の指摘を受け、市が確認したところ、今月初め時点で、特区民泊519施設、ホテルなど171施設の計690施設が、同じ住所や部屋で複数の業者が重複して認定・許可されたものだった。

 例えば、一覧上では、同じ建物の同じ部屋で、二つの業者が特区民泊の認定を受け、2施設として計上されているが、実際に営業しているのは1業者1施設だった。以前の業者が廃業届を出さないまま、別の業者が申請し、市が認定・許可したためだ。市は、重複分計690施設の実数は、その半分程度の300台とみられるとしている。

 市によると、重複とは別に、廃業して更地になったのに廃業届が提出されず、一覧に掲載されているケースもあるという。

 特区民泊やホテルなどは、それぞれの法律の施行規則に基づき、廃業から10日以内に届け出ないといけない。しかし、いずれも罰則はない。住宅宿泊事業法(民泊法)に基づく民泊では、施行要領で同じ住宅での届け出ができないと定められており、市によると、重複はなかったという。

 ホテルなどの施設数は都道府県や政令市から国に報告され、厚生労働省の「衛生行政報告例」で全国の集計に使われている。特区民泊も、内閣府が施設数や部屋数を公表している。それぞれ、行政の会議で引用され、研究機関などの報告書や報道でも使われている。

 大阪府ではコロナ禍後、訪日外国人客が急増し、観光庁の調査では、府内の宿泊施設の今年2月の稼働率は76・4%で全国1位。大阪・関西万博の影響で、宿泊需要はさらに増している。

 大阪市は、2月末時点のホテルなどの客室数が約10万4000室、特区民泊の居室数が約1万6000室としているが、重複分を除くと実態はより少ないと考えられる。

 市生活衛生課の担当者は「廃業届を提出するよう指導しているが、出さない業者もいる。重複自体は違法ではない」と説明。「公衆衛生の観点から施設を認定・許可している。その時々の営業状況を把握することはできない」と話した。その上で、今後廃業届の未提出が確認されれば、指導していくとした。

松村嘉久・阪南大教授(観光地理学)の話「大阪市は申請があった際に前の営業者に確認し、重複を防ぐべきだ。万博で宿泊需要が増加する中、大阪市は本当に宿泊できる施設がどれぐらいあるかわかっていないことになる。国際観光都市として成長していくためには、実態を正確に把握し、適切な政策を打ち出していく必要がある」

「民泊96室」実際は半分

 大阪市浪速区の9階建てビル。部屋数は全48室だが、市の資料によると、96室の特区民泊が存在していることになっている。

 2020年に民泊運営会社が48室での営業の認定を受けていたが、22年に別の旅行会社が同じ48室で認定を受けていた。20年に認定を受けた民泊運営会社の担当者は取材に「コロナ禍で客が集まらず、半年ほどでやめた。廃業届を出す必要があると知らなかった」と話し、旅行会社の代表は「以前の営業者とはやりとりをしていないのでわからない」と話した。

 浪速区の別のビルでも、3〜13階が特区民泊として重複認定されている。現在の営業者となっている建設会社の担当者は「民泊を始める際に運営を別の法人に委託し、それぞれで認定を受けていた。委託契約は解除し、今は賃貸マンションにしている。空室が出れば、また民泊を始めるかもしれないので、廃業届は出していない」と話し、「委託先が届け出をしていない理由はわからない」とした。

 大阪市西成区で簡易宿所として許可を受けている施設は、記者が現地を確認すると更地になっていた。不動産登記簿によると、運営法人は18年に土地を売却しており、法人の担当者は「廃業届を出していないが、市から指導を受けたことはないと思う」と話した。

 大阪市住之江区の大阪府咲洲さきしま庁舎(旧WTC)に入り、賃料滞納で昨年10月に退去した「さきしまコスモタワーホテル」も廃業届が出ておらず、一覧に掲載されたままだ。

◆特区民泊=国家戦略特別区域法に基づき、2014年に始まった。特区に認められた大阪市や東京都大田区などで営業できる。住宅宿泊事業法(民泊法)に基づく民泊は年間の営業日数が180日に制限されるが、特区民泊は制限がない。全国の9割超が大阪市に集中している。

ヨミドクター 中学受験サポート 読売新聞購読ボタン 読売新聞

「民泊」をもっと詳しく

「民泊」のニュース

「民泊」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ