「ゾンビ・タバコ」にむしばまれる日本の若者 沖縄に上陸、自分の体をコントロールできなくなる危険ドラッグ
2025年5月30日(金)18時0分 J-CASTニュース
麻酔薬・エトミデートを混入させたリキッドを、電子タバコで吸入する危険ドラッグ。「ゾンビ・タバコ」と呼ばれ、日本でも2025年2月ごろから沖縄で若年層による乱用が確認され、5月26日より指定薬物指定の省令が施行されるに至った。
厚生労働省の迅速な対応の背景には、世界的に問題が拡大していることがあるようだ。
麻酔薬「エトミデート」を電子タバコに混入
エトミデートは海外で短時間作用型の静脈麻酔薬として、歯科や産婦人科などの医療現場で使用されている。身体に取り入れると数十秒で効き目があり、5〜10分程度効果が持続するとされている。しかし、日本では承認されていない薬剤である。
このエトミデートを加工し、電子タバコのリキッドやカートリッジに混入することで広範囲に流通していることが、世界的な問題となっている。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)によれば、エトミデートを使ったリキッドは、特に東アジア・東南アジアの非正規薬物市場で広がりを見せているという。
このリキッドは香港で「space oil」と呼ばれ、錠剤や結晶状のエトミデートの検出が増加。台湾でも2024年8月に初検出されて以降、検挙件数が増加したことで取り締まりが強化された。
中国でもこの問題が表面化しており、当局が捜査に乗り出した。その過程でタイでの製造疑惑が浮上し、2024年10月末からタイ麻薬取締局との共同捜査を開始。12月には、その製造源となる物質の倉庫をバンコクで発見し、中国人容疑者の行方を追っている。
沖縄で救急搬送事例が相次いだ
国際的な問題となっている危険ドラッグ「ゾンビ・タバコ」がこれほど急速に流通した背景には、電子タバコで容易に吸入できるという手軽さがある。
さらに、このエトミデートを吸入すると多幸感を覚えてハイになる傾向があるため、「笑気麻酔(本来の笑気麻酔とは異なる)」として流通させることで、犯罪に対する意識を薄れさせているのも大きな要因だろう。
日本でも2025年2月以降、沖縄でエトミデートなどを使用したとみられる救急搬送事例が相次いだ。また、県警が押収した危険ドラッグを鑑定したところ、その中からエトミデートが検出された。
捜査の結果、このゾンビ・タバコはSNSを中心に販売されており、10代〜20代の若年層に広がっている可能性があるという。
製造・輸入・販売・所持・使用が法的に禁止
そもそも、これらが「ゾンビ・タバコ」と呼ばれるのは、多幸感を得られる一方で筋弛緩によって自分の身体をコントロールできない「ゾンビ」のような状態になることからである。呼吸が困難になったり、転倒しやすくなったりするため、大きな事故につながる可能性が高い。
このような事態を受けて、5月1日には沖縄県と沖縄県警がゾンビ・タバコへの注意喚起を行った。
さらに、厚生労働省は5月16日にエトミデートを医薬品医療機器等法の「指定薬物」に指定し、製造・輸入・販売・所持・使用が法的に禁止されることとなった。
冒頭に述べたとおり、5月26日からは省令が施行。違反者には最大で3年以下の懲役または300万円以下の罰金、営利目的の場合は5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科される。
しかし、海外ではエトミデートの構造をわずかに変えた化合物も検出されており、今後も新たな「ゾンビ・タバコ」の出現に注意する必要があるだろう。