「手取りが増えてしまう」切り取りで炎上、自民幹部は仰天…偏った情報による投票に懸念
2025年5月30日(金)5時0分 読売新聞
[SNSと選挙]政治の今<中>
昨年末、自民党の小野寺政調会長の発言「手取りが増えてしまう」がX(旧ツイッター)で拡散し、炎上した。「手取りが増えると悪いのか?」「ふざけんな小野寺!」「自民党消えてしまえ」——。SNSは
小野寺氏は確かに、2024年12月のNHK番組でそう発言している。しかし、国民全体の手取りが増えることを問題視したわけではない。「103万円の壁」対策として国民民主党の主張を実行すると、年収2000万円以上の世帯への恩恵がより大きくなると説明する中での発言だ。小野寺氏は今回の件を教訓に炎上への対応策を弁護士に相談したが、訴訟や開示請求などいずれも即効性はなく、「現状は泣き寝入りするしかない」という。
これが選挙期間中に起きれば、有権者の投票行動にも影響を与えかねない。与野党は今、選挙中のSNS上の真偽不明情報への対応を強化しようと協議を重ねている。アカウントの本人確認などが想定され、いずれも早急な検討が求められるが、小野寺氏のような炎上を防ぐのは難しい。そもそも選挙は候補者が有権者の関心を奪い合う側面があり、SNSと相性が良い。
「冷静な判断を確保するため、選挙中は信頼できる情報を簡単に見られる仕組みが必要だ」。慶大の山本龍彦教授(憲法・情報法)はこう指摘し、アルゴリズムのあり方を検討するべきだと訴える。
アルゴリズムはコンピューターが情報を処理する手順のことで、ネットで利用者の閲覧履歴を分析し、個人の好みにあった情報を表示する。閲覧数を稼いでプラットフォーム事業者が広告収入を得るアテンション(関心)・エコノミーと言われる構造だ。
アルゴリズムが知りたい情報を表示してくれ、利用者は情報選択で自己決定する必要がない。選挙の投票先を選ぶための情報をネットにのみ頼った場合、偏った情報に囲まれた有権者は自律的に意思決定しているかとの疑問にぶち当たる。
24年の米大統領選ではXの所有者イーロン・マスク氏がアルゴリズムを変更し、トランプ大統領の主張が拡散されやすいよう誘導し、投票行動に影響を与えた疑いが出た。山本教授は「選挙中はアテンション・エコノミーなどとは別の仕組みで情報を提供していくことが事業者に求められるのではないか」と提案する。
国民民主の玉木代表は27日の記者会見で、SNSにあがった書き込みを「重視している。一つ一つが大切な意見だ」と率直に語った。少数与党下の国会では各党の歩み寄りがないと政策は実現しないが、SNSで主張を増幅し、強く結束した集団に立脚した政党であれば、合意は遠のく。SNSが拍車をかけた米国政治の分断も対岸の火事ではない。
立憲民主党の大串博志代表代行は「アルゴリズムがどういった情報を選別しているか誰も分からない。分断が強まり、民主主義がうまく機能しなくなるのではないか」と懸念する。プラットフォーム事業者に対応を求めるため、法整備も検討するべきだと訴えている。