「本当に頭のいい人」はここが違う…10代の藤井聡太の将棋を見て、永世七冠・羽生善治が語った「印象的な言葉」

2024年2月13日(火)14時15分 プレジデント社

受験勉強のようにコツコツと繰り返す必要がある(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Milatas

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「本当に頭のいい人」はどこがすごいのだろうか。教育学者の齋藤孝さんは「10代の藤井聡太氏の将棋を見たとき、史上初の永世七冠にして棋界のレジェンドと呼ばれる羽生善治氏は『学びたい』と言った。この柔軟性こそ、頭がいい人の特徴だろう」という——。

※本稿は、齋藤孝『本当に頭のいい人がやっている思考習慣100』(宝島社)の一部を再編集したものです。


■頭がいい人は「情報のキャッチボール」がうまい


頭がいい人というのは、情報を効率よく取り入れて、正しく伝えることができる人。


つまり、インプットとアウトプットが上手な人です。


相手から得た情報を整理し、それを要約しながら相手に返す。いわば「情報のキャッチボール」です。


来た球を捕れますし、それをまた相手の胸元へコントロールよく投げられる。それを繰り返すことができるので、相手も気持ちよくキャッチボールが続けられます。


これは、現代社会では大変重要な力です。


個性と理解力のどちらが仕事仲間として必要かと聞かれたら、たいていは「まずは、こちらが話したことを理解できる人」という答えが、多くのビジネスシーンにおける本音ではないかと思います。


■「コツコツ努力する人」が強い


最近は大学入試の形態が変わってきました。同じ問題を一斉に解く一般入試以外に、自己推薦やAO入試という方法で選抜されるようになりました。


いわゆる入試の多様化です。


そこで感じるのは、受験日に向けて何年もコツコツと準備してきた学生というのは、やはりすばらしいということです。


個性やクリエイティブというより前に、合格するためにやらなければならないことを理解し、受け止め、それを長期にわたり持続することができる人は、当然ながら粘りもあります。


サッカーであれば、まずはボールを蹴るという基本技術がしっかりしていなければ困ります。それには、受験勉強のようにコツコツと繰り返して練習をする必要があります。


そのうえでクリエイティブ性が加わると、その選手は非常に強いということになります。


写真=iStock.com/Milatas
受験勉強のようにコツコツと繰り返す必要がある(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Milatas

■「付加価値を見つける力」が求められている


近年、教育の現場では「表現力」というものが問われるようになりました。


これは思考判断といわれるものです。新しい価値を見出す知性であり、頭がいいといわれる人が共通してもっている力です。


これを日常的に活用できているのが、数学者や、科学者といった人々。将棋の棋士などもそうですし、もちろん、スポーツ選手だってそうでしょう。


今までの方法を学習して知っていて、そのうえに新しい価値を加える。


そうした付加価値を見つける力が求められています。


「付加」するためには、今までのことをわかっている必要があります。


それには先述した受験勉強のように、コツコツと積み上げる地道な学習の蓄積が必要であることはいうまでもありません。


■求められていることを正確にくみ取る


新たな付加価値を生み出せる人は、受験生型の努力を決して怠らなかった人という言い方もできるでしょう。


スポーツの世界でも、監督の立場からすれば「頭がいい選手」は大変にありがたい存在です。


たとえ身長が低くて体格には恵まれていなくても、頭がいい選手を監督は使いたいと考えます。


それは、監督が求めることをスピーディーに理解し、それを実行できるからです。


監督が自分に何を求めているかを正確にくみ取る。すなわち戦術理解力に長けているのです。


「この試合、相手がこう来るだろうから、今日はこういう戦術でいく。君はこういう役割だ。しかし、相手に大きな変化があれば、それに応じて変更する」と監督が伝えると、それをすぐに理解します。


写真=iStock.com/Dziurek
「頭がいい選手」はありがたい存在(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Dziurek

■お笑い芸人は15秒後から逆算している


実際、それができない選手もけっこういるのです。


これがもう少し上のレベルの選手になると、用意したシステムが通用しないときに、それを自分でアレンジすることができる。


こうした融通のきく対応力。それこそが、頭がいい人の特徴といえるでしょう。


お笑い芸人のみなさんはしゃべりのプロですから、たとえばプライベートな時間でお酒を一緒に飲んでいても、場を盛り上げることが得意です。


しかし、競争が激しい世界ですから、業界で生き残れる人たちはごくわずか。


その成功者たちの共通点は、制作スタッフが自分に何を求めているかが理解できているということです。


たとえば、トークを時間軸で捉えながら、10秒や15秒という枠の中で、言いたいことをズバリと言い尽くす。


話をスタートする前に、15秒後の着地点を意識し、そこから逆算して要点をまとめ、最後にクスッと笑えるオチまでつけて話ができる人をスタッフは求めているのです。


写真=iStock.com/GoodLifeStudio
お笑い芸人は15秒後から逆算している(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/GoodLifeStudio

■話がすべてカットされてしまった


その点で、私は、実は過去にテレビで大失敗をしたことがあります。


まだテレビという世界に慣れていない頃、ある番組で司会者から話をふられ、それに対し知っていることを私なりに答えたのです。


自分としては、そつなく話せたかなと思っていたのですが、あとで知ったところでは、それがすべて編集でカットされていました。


理由は、私の話が長すぎたため、間延びして番組の構成に組み込みづらかったというものでした。


これはつまり、私が制作サイドの意図を正しく把握できていなかったということになるわけです。


言い換えれば、相手の気持ちがわからなかった、求められているものを正しく理解できていなかったということになり、大いに反省したことを今も覚えています。


■短距離走者とマラソンランナーでは異なる


今紹介した例は「テレビ的な頭のよさ」ということになりますが、これがラジオであれば、時間枠は15秒より長くなるでしょう。



齋藤孝『本当に頭のいい人がやっている思考習慣100』(宝島社)

さらに、大学の授業や講演会で、学生や聴衆の前で話すとなると、時間の捉え方はまた大きく変わってきます。


中身のある話を100分間話し続けるのは、15秒の世界とは異なる力が必要です。


その場その場で求められることが違うということ、それを私たちは理解しなければなりません。


陸上競技であれば、短距離走者とマラソンランナーに求められるものは同じではありません。


ここで今、自分に求められているものが何なのか、それがズレずに判断できる。


もし自分ができそうもないということであれば、「これは私の担当ではないな」と気づくこと。


自分がすばらしいと思っているものでも、別の場で通用するわけではないということがわかる人。


こういう人は頭がいいといわれる人の中に多いのです。


■羽生善治はAIに関心を持つ


私たちは新たなものにチャレンジして、自分を向上させていくことが必要です。


マンネリ化せずに、いろいろなことを実践しながら、己の知を新鮮に保つこと。時代の要求に応えていくということです。それは一時代を築いた人も同様です。


棋界のレジェンド・羽生善治さんは、2018年に「竜王」の座を追われて以来、タイトル戦の舞台から遠ざかっていました。


その期間に羽生さんが語った言葉はあまりに印象的です。


当時10代の藤井聡太さんの将棋を「学びたい」と言ったのです。


写真=時事通信フォト
柔軟性こそが、頭がいい人の特徴[名人就位式で、推戴状を手にする藤井聡太七冠(当時、右)。左は日本将棋連盟の羽生善治会長。2023年8月7日] - 写真=時事通信フォト

AIの進化で戦術が大きく様変わりした今の棋界で、羽生さんはAIに強い関心をもち、「過去にこのやり方で勝てたという経験にあまり意味はない。最先端の感覚を取り入れなければ生き残れない」と説いています。


史上初の永世七冠にして棋界のレジェンドと呼ばれる羽生さんでも、今の時代に適応しようとしている。


この柔軟性こそが、頭がいい人の特徴です。


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齋藤 孝(さいとう・たかし)
明治大学文学部教授
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『孤独を生きる』(PHP新書)、『50歳からの孤独入門』(朝日新書)、『孤独のチカラ』(新潮文庫)、『友だちってひつようなの?』(PHP研究所)、『友だちって何だろう?』(誠文堂新光社)、『リア王症候群にならない 脱!不機嫌オヤジ』(徳間書店)等がある。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。
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(明治大学文学部教授 齋藤 孝)

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