「ちょっとした雑談」すら避けられる…「部下のお悩みシュパッと解決」系上司が職場を腐らせるこれだけの理由

2025年2月17日(月)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/OJO Images

何事も「スピード解決」を図る会社に問題はないのか。400以上の企業や官公庁に組織変革支援を行ってきた沢渡あまねさんは「部下との1on1で、悩みをすぐに上層部に報告する上司は、頼りがいがあるどころか、相談しづらいと思われているおそれがある」という——。

※本稿は、沢渡あまね『「すぐに」をやめる ネガティブ・ケイパビリティの思考習慣』(技術評論社)の一部を再編集したものです。


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■1on1で上司から「何か気になることは?」と切り出され…


黒部みゆき。彼女は1カ月前に中堅スタートアップであるシューパロシステムズに中途採用で入社した。シューパロシステムズの文化は前職の大企業と異なり、黒部はお作法の違いに戸惑いながらも、なんとかまわりのメンバーとコミュニケーションをとり、良い関係も築いてきた。


今日はマネージャーである薗原との1on1ミーティング。シューパロシステムズでは、マネージャーと担当者との間で、週1回最低30分の1on1をおこなうことになっている。毎度、日々の業務の進捗確認がメインだが、今日はとりたてて話すこともない。たびたび流れる沈黙の時間に、黒部も薗原も明らかにぎこちなさを感じていた。


「ほかに、黒部さんが気になっていることとかありますか?」


残り5分で、薗原がこう切り出した。


とりたてて何も思いつかない黒部。そうはいっても、せっかくマネージャーが会話のボールを投げてくれたのだ。何も返さないのも無粋である。どうせなら、日々の業務進捗以外の気づきでも話をしてみよう。


そういえば黒部は、同じプロジェクトのメンバーの鶴田の行動や言動が気になり始めていた。鶴田は他部署に所属する新卒入社3年目の若手で、優秀ではあるものの自信家なところが鼻につく。ほかのメンバーに対する攻撃的な言動やふるまいが気がかりだった。とはいえ、尖った若手にありがちな行動だと思うし、騒ぐほどのことでもないとは思う。


「そうですね。あえて言うならば……」


そう前置きし、黒部は鶴田のことを話した。次の瞬間、薗原は表情をこわばらせた。


「なに、鶴田さんそんな態度なの? 優秀で爽やかな若手だと思っていたのだけれども。それは問題だな、すぐ解決しよう!」


そういうが早いか、薗原は出て行ってしまった。


これはまずい。いきなり大ごとになってしまった。焦る黒部。


■雑談程度のつもりの相談が大ごとに


翌日、黒部はプロジェクトメンバーの数名から聞かれた。


「ねえ、いったい何があったの。薗原さんから、鶴田さんのことについてあれこれ聞かれたんだけれども……」


どうやら、薗原がプロジェクトメンバーに事情を聴きまわったようだ。鶴田の上のマネージャーにも話がいっているらしい。大ごとにするつもりはなかったのに、「何かありませんか」と聞かれたから、なおかつ黒部は入社が浅いこともあり社交辞令のコミュニケーションのつもりで、雑談程度に気になったことを話しただけなのに……。これでは、黒部はまるで「お騒がせさん」である。


聞けば、シューパロシステムズのマネージャーは、会議や1on1で知った内容は即上層部にあげ、かつ即解決するよう言われているらしい。


「この会社の1on1ミーティングでは、迂闊なことは言えないな……」


黒部は心にそっと蓋をした。


■「課題はすぐ解決」な企業の弱点


1on1ミーティング。いまやさまざまな企業が取り入れているコミュニケーション手段ですが、そのやり方や文化も色とりどり。淡々と進捗確認だけをおこなう組織もあれば、雑談や相談メインで業務とは関係ない話を中心におこなう組織もあります。


出所=『「すぐに」をやめる ネガティブ・ケイパビリティの思考習慣』

1on1ミーティングの雰囲気やお作法ひとつとってみても、ポジティブ・ケイパビリティ優位な組織と、ネガティブ・ケイパビリティを持ち合わせている組織の文化の差が現れます。


△ポジティブ・ケイパビリティ優位な組織あるある 1on1ミーティングの特徴

ポジティブ・ケイパビリティ優位な組織の1on1ミーティングの特徴は次のとおりです。


・目先の業務の進捗確認だけに終始する
・沈黙を時間の無駄だととらえる
・問題・課題があがったらマネージャーがすぐ解決しようとする(あるいは本人にすぐ解決させようとする)
・(マネージャーが一方的に)組織の正義だけを押しつけようとする
・相手の背景や事情に関心を示さない


△この状況を放置する弊害

目先の話しかしようとしない、なおかつ、その場で挙がった問題や課題をとにかく即解決しようと躍起になる


1on1ミーティング。一見、効率が良く生産性が高そうではあるものの、諸刃の剣。ともすれば、組織文化の基盤や信頼関係をじわりじわりとボロボロにしかねません。その様は、シロアリに喰われた住居の如し。その被害例を見てみましょう。


■会社が「見た目が明るい独裁国家」になってしまう


①心理的安全性の低下

目先の成果につながる実利的な話しかとりあってもらえない。


問題や課題を提起したが最後、大ごとにされる。


あるいは、その場の脊髄反射でもって解決しようとする(させられようとする)。


表層的な問題だけその場で解決しようとしても、うまくいかないことのほうが多いでしょう。


これでは、メンバーはちょっとした相談、およびヒヤリ・ハットなどの気づきも共有できません。なにより、無力感しか残らない。


冒頭のエピソードでの黒部の最後のひと言を思い出してください。彼女はこうつぶやいています。


「この会社の1on1ミーティングでは、迂闊なことは言えない」


マネージャーは良かれと思って迅速に解決をしようと試みていても、それが逆効果に。結果、気軽にものごとを相談できず、ヒヤリ・ハットの共有すら憚れる「見た目が明るい独裁国家」さながらの、心理的安全性の低い組織風土が醸成されます。


■アクションが浅く、根本から解決しない


②メンタルヘルスの悪化

そうなると、メンバーは困りごとや気づきを抱え込むようになります。


「組織やマネージャーに相談してもどうにもならない」
「面倒なことになるだけ」
「すぐさま気合・根性での解決を強いられ、余計な仕事が増える」


このようなマインド(心持ち)が強化され、だれにも相談できなくなるからです(せいぜい、メンバー同士でお酒でも呑みながらストレスを発散する程度)。


なおかつ、毎度迅速かつ浅い(薄い)アクションがおこなわれるだけで、ものごとの根本の問題が解決しない。この状況もなかなか厄介です。蚊が飛んできては潰し、蚊が飛んできては潰しのような負のループから抜け出すことができず、メンバーは無駄なストレスを抱え続けます。


③チームワーキング不全

このような組織風土の職場では、助け合いもおこなわれにくくなります。取り合ってもらえないし、ともすれば面倒な騒ぎになるから、自分で抱え込んで黙々と対処するしかない(あるいは耐えるしかない)。チームで助け合って、時間をかけて解決していく——その行動が日の目を見ることはないでしょう。


■「常に脊髄反射」は思考能力の向上を阻害する


④問題解決能力の低下

目先のテーマにしか興味を示さない。および、脊髄反射でもってすぐ解決しようとする。


その文化や風土は、その組織全体の思考能力や問題解決能力を向上させる機会を奪います。常に脊髄反射。じっくりと問題や課題に向き合い、俯瞰し、優先度を決めつつ、熟考しながら解決していく(あるいは場合によっては解決しようとしない)体験が、組織全体に生まれないからです。


⑤マネジメント不全


沢渡あまね『「すぐに」をやめる ネガティブ・ケイパビリティの思考習慣』(技術評論社)

目先の成果や進捗重視、スピード優先で中長期のテーマに腰を据えて向き合うことができない。


熟考できない。


問題や課題の根本原因を特定して解決することができない。


メンバーやその家族を無駄に傷つけ疲弊させる。


いずれも、その組織のマネジメントが機能していないことによりもたらされる症状と言ってもいいでしょう。


そのようなマネジメント不全の組織に、顧客や取引先は大きな仕事を安心して任せることができるでしょうか。社員は長く働き続けたいと思うでしょうか。


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沢渡 あまね(さわたり・あまね)
作家/ワークスタイル&組織開発専門家
1975年生まれ。あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/浜松ワークスタイルLab所長/国内大手企業人事部門顧問ほか。「組織変革Lab」主宰、DX白書2023有識者委員など。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『問題地図』シリーズ(技術評論社)をはじめ、『新時代を生き抜く越境思考』(同社)、『職場の科学』(文藝春秋)、『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『仕事は職場が9割 働くことがラクになる20のヒント』(扶桑社)など著書多数。
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(作家/ワークスタイル&組織開発専門家 沢渡 あまね)

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