指名料55万円・月4日しか店に出ないカリスマ美容師が開発した商品がファン以外の顧客にバカ売れする理由

2025年2月22日(土)16時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FlamingoImages

継続して売れる商品やサービスは何が違うか。有名ヘアアーティストでヘアケアブランド『Kyogoku Professional』を展開する京極琉さんは「知名度のある人が最初のフェーズである程度の売上を作っても、そこから一般の人に良いと思ってもらうようなマーケティングやブランディングをしないと、1〜2年で終わってしまうことが多い」という。北の達人コーポレーションの木下勝寿さんが聞いた——。

※本稿は、木下勝寿『なぜあの商品、サービスは売れたのか? トップマーケッターたちの思考』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/FlamingoImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FlamingoImages

■18歳で美容師になると決めて6年で世界一へ


【木下勝寿(北の達人コーポレーション社長)】指名料が今日本一高い美容師なんですよね。


【京極琉(ヘアアーティスト)】今指名料は55万円いただいています。


【木下】すごいですね。それでもかなりの予約が入るものですか?


【京極】1年半先の2026年の1月まで埋まりました。


【木下】えー‼ まじですか。すごいな。


【京極】1日にできるお客さんも2〜3名ですし、今は1カ月に4回しかサロンに出ないんですよ。


【木下】もう働く必要ないじゃないですか。


【京極】好きなんですよね。施術のあとにお客様の表情を見ると、すごい達成感を感じますね。


【木下】そもそもなぜ美容師になられたんですか?


【京極】出身が中国で、12歳の時に親の仕事の関係で日本に来たんですが、当時は自分の中で気持ちの整理もあまりできていなくて。それで18歳まで家に引きこもって現実逃避していたんですが、このままではダメだと。次の進学ではもう逃げないと心に決めて、色々と考えた結果、手に職をということで美容師を選択しました。


【木下】18歳で美容師になると決めて世界一の称号をとるまで結構すぐですよね?


【京極】世界一は24歳の時なんで、美容師になるって決めてから6年ですね。


【木下】すごいですね。それで今は美容師以外にも様々な事業を展開されて、メディア出演もされていますよね。


【京極】美容師の社会的価値を上げるのが僕の使命だと思っているんですが、業界内だけで頑張っても美容師という職業の社会的価値は上がらないので、外部のメディアに出ることで社会的な評価を上げていきたいですね。


■マーケティングは全て実践しながら勉強


【木下】その他にも自社ブランドを作ったり、美容師のスクールをやられたり、色々と展開していますが、どんな事業をやっているんですか。


【京極】メインがKYOGOKUブランドのD2C事業で、ほかには美容室と美容師をマッチングさせる求人アプリや美容師の技術向上のためのスクール事業などを無料で展開しています。


【木下】無料でというのは、収益はどうしているんですか?


【京極】収益は全てKYOGOKUの商品です。それ以外は美容室や美容師のサポートで、KYOGOKUの商品を使っていただいている方々との絆を深めるということでやっています。


最近は美容室や美容師が商品やブランドを展開するという新しい流れもあって、ここのプロデュースやサポートといった、いわゆるサプライチェーンの仕事もしています。


【木下】京極さんのすごいところは、いわゆるP2C(Person to Consumer/影響力のある個人が消費者に向けて販売するビジネスモデル)というモデルで名前を貸してビジネスをするんじゃなくて、マーケティングを全部自分でやっていらっしゃるところですよね。


【京極】髪のことしかわからなかったので、マーケティングは自分で実践して勉強しながらという感じです。


広告は代理店に外注もしてみたんですが、やっぱり商品やブランドに対する思い入れがROAS(Return On Advertising Spend=広告費用対効果。かけた広告費に対してどれだけの売上を得られたかを測る指標)に反映されるんだなと思ったというのもありましたし、自分の無知による損失も避けたいと考えたところもあって。


【木下】ROASを語る美容師ってなかなかいないですよ(笑)。


■知名度で初速は売れてもそれが継続しづらい


【木下】メインの商品はなんですか?


【京極】メインはカラーシャンプーです。


【木下】カラーシャンプーって他にも存在してますよね。後発でなぜ勝てているんですか?


【京極】色素残留しないことや、カラーシャンプーですけどしっかり保湿もできること、あとカラーシャンプーって爪が汚れたりすることがあるんですが、何回もテストを繰り返して汚れないようにしたり、現場の声を聞きながらこだわって作っているからですかね。


やっぱり他のカラーシャンプーってブランドや研究員がコンセプトありきで生み出しているものが多いのに対して、うちのは美容室の現場から生み出されている商品なので、美容師が使って、それをお客さんも使って、良い髪の状態でまた美容室に行って……という良い循環ができていることが大きいです。


【木下】なるほど。今、KYOGOKUグループ全体の売上ってどれくらいなんですか?


Kyogoku Professional(キョウゴクプロフェッショナル)のカラーシャンプー(写真提供=Kyogoku)

【京極】全体で25億円ですね。


【木下】お〜すごいな。先ほども言ったようにP2Cの場合、名前を貸して商品を作ったり売ったりとかされる人も多いと思うんですが、京極さんは開発から売るところまでご自身でやっていらっしゃるんですよね。


【京極】そうですね。P2Cって最初のフェーズで自分の知名度を活かしてある程度の売上を作ったら、そこからは一般の人に良いと思ってもらうようなマーケティングやブランディングをしないと、1〜2年で終わってしまうことが多いんです。


だから一般的なP2Cだとインフルエンサー個人の力で初速は高いんですが、そこから新規の方に届けるまでいかなかったり、インフルエンサー本人の色が強すぎてしまって「本当に他の人が良いと思って使っているの?」という不安の声が出て売れなくなってきたりするので、そういったことを避けるためにやっています。


■ファン以外の購入者が9割


【木下】たしかにそうですね。今の25億円の売上の中で、琉さんのファンだから買っている人と、琉さんのことはよく知らないけど商品を買っている人の比率ってどれくらいなんですか?


【京極】僕のファンは多くても10%ですね。


【木下】ということは90%は商品やブランドについている?


【京極】そうですね。KYOGOKUって商品、ブランドとしての認知の方が多いです。


【木下】そういえばセナくん(本書登場するTELESAの車谷セナ社長)も商品を見て「この商品、僕普通に自宅で使ってるけど琉さんの商品だったんだ。知らなかった」と言っていましたね。


【京極】めちゃくちゃうれしいですね。


【木下】商品やブランドのコンセプトというのはラグジュアリーヘアケアブランド?


【京極】それもそうですし、どの環境どの雰囲気どの時間どこにいても、KYOGOKUを使うことによって幸せを感じてもらうことが一番のコンセプトなので、ヘアケアだけでなくビューティーとか、あとはペット関係とか……。


【木下】ペットも?(笑)


【京極】はい、ペットもやっています。どの商品でもその分野のプロフェッショナルと組んで、あらゆる悩みに対してピンポイントで解決する商品を共同開発しているのも強みかなと思っています。


写真=iStock.com/Mukhina1
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mukhina1

■年間100アイテムから50アイテムに減らしたワケ


【木下】商品数ってどのくらいあるんですか?


【京極】250種類です。


【木下】すごいな。商品開発は普段どういう感じでやっているんですか?


【京極】例えばペットの商品であればまず専門家にサンプルを送って、僕も同時に試して、そのフィードバックを工場に伝えて開発するという流れで、日々それをずっとやっている感じです。


【木下】年間でどれくらいの商品数出すんですか?


【京極】2023年は結構多くて、100アイテムくらい出しました。出さないと機会損失になったり、お客さんが買いたくても買えなかったりなどの理由で出していたんですが、多すぎてだんだん認知されづらくなってしまったので、2024年は50アイテムに減らしました。


【木下】それでも50もあるんですね(笑)。プロモーションが追いつかなくないですか?


【京極】それはあります。ただ普通は新商品をリリースする前に広告を出したりプロモーションしたりすると思うんですが、KYOGOKUの場合はリリースしてから自社のECに出して売っていく形で、もちろん事前にサンプリングとかはするんですが、外部への広告費などはかけていないんです。


【木下】それでいくと既存のお客さん向けに出していく感じですか?


【京極】新商品に関してはそうです。新しいお客さんは既存の売れている商品でKYOGOKUユーザーになってもらって、既存のお客さんに対して新商品を出していくという形が一番費用対効果も良いですね。


逆にいうと、新商品にお金をかけてプロモーションして新規を獲得しにいくというのをやったことがないんです。


【木下】ということは、集客商品はカラーシャンプー?


【京極】あとはブリーチとヘアアイロンですね。


■1000人超のインフルエンサーに依頼して確信したこと


【木下】この辺はどうやって集客しているんですか?


【京極】まずは繋がりのある美容室や美容師経由、それとインフルエンサーマーケティングです。ギフティングもしますし、広告費をお支払いしてPR案件として真実のレビューをしてもらっています。その生の声をTikTokとかインスタグラムを通して発信するのが大事ですね。


【木下】どういうインフルエンサーの方にお願いするんですか?


【京極】美容師などの専門的な分野のインフルエンサーと、一般的なフォロワー数の多いインフルエンサーの両方にお願いすることが大事だと思っています。前者は数字は取れないかもしれないですが、ファンとの絆が強いことが多くてCVR(購入率)が非常に良いんです。


【木下】今まで何人くらいのインフルエンサーさんに依頼しているんですか?


【京極】今までで1000人は超えていますね。


【木下】ええええ〜、1000人! では、どういうインフルエンサーさんが成果が出やすくて、反対にどういうインフルエンサーさんは成果が出づらいとかってありますか?


【京極】これは本当にほぼ運かなと思います。というのも、あるタイミングで数字が取れているインフルエンサーでも、商品を送って撮影して投稿するまでの間に数字が取れなくなってしまう場合もあるし、またその逆もある。


あとは動画の中身、例えば最初の3秒でどれだけファンの心を掴めるかなどの要素もあります。難しいのは、いつもの動画はめちゃくちゃ面白いのに案件になると急に動画の内容がつまらなくなる人がいることです(笑)。それはやってみないとわからない。


■新規をできる限りローコストで獲得


【木下】バナー広告はやっていないんですか?


【京極】やってないんですよ。ただ、GoogleのSEOなどは自社にライターさんを入れて結構力を入れていて、オーガニックで上位にくるようにしています。


【木下】インフルエンサーさんに紹介してもらって、そこからの受け皿として自社ECに飛んでもらうんですか?


【京極】いえ、そこはインプレッションだけ(表示させるだけ)です。


【木下】検索とか自社サイトにきてくれた人には、LINEに誘導とかはされていますよね?


【京極】それはしています。


【木下】ではLINEに誘導して、そこで購入してもらって送る感じですか?


【京極】自社ECは手数料がかからないのでそれが理想ですが、新規をできる限りローコストで獲得していくなら、絶対にモールの力を借りた方がいいですね。


【木下】ということは、インフルエンサーが紹介してくれた商品はモールで購入に繋げるようなイメージを想定されていますか?



木下勝寿『なぜあの商品、サービスは売れたのか? トップマーケッターたちの思考』(実業之日本社)

【京極】まさにその通りです。実際にインフルエンサーの投稿を見て「KYOGOKU」で検索して、モールで買ってくれています。ただ、トラッキングしていないので追跡はできないんですが、現状で自社ECよりモールの方が売上は高いですね。


【木下】25億円だとモールの比率ってどれくらいなんですか?


【京極】モール7割です。


【木下】定期購入とかはあまりない?


【京極】そうなんですよ。ぜひその辺は木下社長から勉強させていただきたいなと思っています。


----------
木下 勝寿(きのした・かつひさ)
北の達人コーポレーション社長
1968年、神戸生まれ。株式会社エフエム・ノースウェーブ取締役会長。リクルート勤務後、2000年に北海道特産品販売サイト「北海道・しーおー・じぇいぴー」を立ち上げる。2002年、北海道・シー・オー・ジェイピーを設立(2009年に北の達人コーポレーションに商号変更)。史上初の4年連続上場。株価上昇率日本一(2017年、1164%)、社長在任期間中の株価上昇率ランキング日本一(2020年、113.7倍、在任期間8.4年)。著書に『売上最小化、利益最大化の法則 利益率29%経営の秘密』(ダイヤモンド社)など。
----------


----------
京極 琉(きょうごく・りゅう)
Kyogoku代表取締役
上海出身。12歳で母親と共に来日し、日本の美容専門学校を卒業。その後美容師となり2016年に渡英。約半年の留学の間にVidal Sassoon Academy、TONI&GUY Academy、SANRIZZ Academyの3校を卒業。現地アーティストと作品撮影に取り組み、「Vogue Italia」をはじめ多数のファッション雑誌に掲載される。2017年7月、21歳で東京の赤坂に「SalonRyu」をオープン。2018年にはロンドンで行われたInternational Visionary AwardのCut&Color部門でグランプリを受賞し、世界一の美容師の称号を獲得。
----------


(北の達人コーポレーション社長 木下 勝寿、Kyogoku代表取締役 京極 琉)

プレジデント社

「月」をもっと詳しく

「月」のニュース

「月」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ