中高年の7割がこの"現代の病"に陥っている…精神科医・和田秀樹が説く「幸せに老いていく人の特徴」

2025年2月27日(木)10時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

幸せな老後を送るにはどうしたらいいのか。医師の和田秀樹さんは「熟年夫婦はホルモンバランスの変化で、夫婦の溝が深まりやすい。夫へのストレスが原因で発症する『夫源病』やセックスレスを放置していると、幸せな老後を送れなくなる」という——。

※本稿は、和田秀樹『女80歳の壁』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/kazuma seki
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■夫婦仲とホルモンとの関係


夫源病 予防は簡単 外出だ

幸齢期に夫婦の溝が深まるのは、生理学的に見れば仕方ないかもしれません。


理由のひとつは、夫の男性ホルモンが減ってくるからです。


男性ホルモンの減少によって、意欲が低下したり、人づきあいが億劫になったりします。幸齢期はただでさえ思考や意欲を司(つかさど)る脳の前頭葉が縮んでくるのに、意欲低下があると、さらに脳の働きが悪くなります。


いっぽう、妻は、更年期が終わりを迎えるころから、男性ホルモンが増えてきます。意欲も増進し、アクティブになります。すると脳も活発に働くので、幸齢期に見られる前頭葉の縮みもカバーできるのです。


つまり、男性は気持ちが内向きになり、女性は外向きになる傾向がある。これを放っておくと、夫婦の溝は大きくなってしまうのです。


■原因は夫かもしれない


「夫源病(ふげんびょう)」という言葉をご存じでしょうか?


夫の言葉や行動が大きなストレスになり、妻が病気になってしまうことです。


主な症状は、めまいや不眠、動悸、耳鳴り、食欲不振などの心身の不調で、うつ病になる方もいます。更年期外来を開設する故石蔵文信医師が命名しました。


夫へのストレスが原因で病気になるの? なんて思うかもしれませんが、本当になる人がいるのです。実際に、夫が定年退職し、家に居るようになって症状が出始める妻は多くいます。


ちなみに、タレントの上沼恵美子さんも、ご主人の退職をきっかけに、この病気になったことは有名な話です。あの活発な方でさえなるのです。ストレスを溜める怖さを、改めて教えてくれた例です。


男性ホルモンが減り、前頭葉が縮んできた夫のなかには、不安が募り、妻を束縛する人も多くいます。「ママ、ママ」と妻に依存する夫の例を話しましたが、それが強まるのですね。


夫に縛られ、家から出られなくなる妻は、ストレスを溜め込む一方です。こうなれば、心も体も悲鳴を上げるのは当然です。そうならないためにも、夫婦がおたがいに自立したほうがいいのです。


■「3つ以上で要注意」チェックリスト10項目


夫源病 気づかぬうちに 重症化

夫源病は、小さなストレスが積もり積もって現れる心身の不調です。つまり、誰もがなり得る病気です。「私は大丈夫よ」と言う人も「ちょっと心配」と言う人も、念のため次の10項目の「チェックリスト」に答えてみてください。


出所=『女80歳の壁

いかがでしょう?


当てはまる項目が、3つ以上の人は「夫源病」になりやすい人と言えます。


とてもまじめで、周りからも「しっかりしている」と思われているでしょう。もちろん、それはよいことです。でも反面、「かくあるべし思考」が強い女性とも言えます。そして、「かくあるべし思考」が強い人ほど、思い通りにならないと、精神的に不安定になったり、落ち込んだりします。


年をとればとるほど、体力が落ち、思い通りにならないことも増えてきます。また、夫がずっと家に居る、というストレスに見舞われたりもします。こうした“過去になかったストレス”が積もり、心身にダメージを追ってしまうのです。


■原因は「とらわれ」にある


近すぎる 距離が夫婦を ダメにする

夫も本書を読んでくださっている場合、前項の「チェックリスト」を妻の心境を想像しながらやってみることをお勧めします。仮に「うちの女房は3つ当てはまる」と思うなら、妻を束縛し過ぎないよう注意しましょう。


夫婦の距離が近すぎることは、幸齢期の場合、デメリットに働くことが多いと私は考えています。精神科医として私は「森田療法」を長く学んでいますが、その考えでは、次のようなことを言っています。


家族関係や親子関係に問題が生じる大きな原因は“とらわれ”にある——と。


相手に気をつかいすぎると、相手もこちらに余計に気をつかいます。おたがいに気をつかいすぎれば、息苦しくなります。


他人であれば、適度な距離を置いたり、離れたりできますが、家族や親子はそうはいきません。近しい関係にあるからこそ、離れられず、息苦しさがマックスになり、精神的な問題が起こってしまうのです。


■では、どうすればいいのか


関係が近すぎると、おたがいの存在が大きくなり、逃れられなくなります。束縛し合ってしまうのです。相手の嫌なところも、必要以上に大きく見えます。すると、相手の良い部分までもが悪く思えたり、小さな欠点までもが気になったりしてしまいます。そうやって、どんどん嫌いになってしまうのです。


夫が会社に行っていたときは“物理的な距離”を保っていられました。このため、悪い部分にも目をつぶることができたのですが、家に居るようになると、距離が近すぎるため、気になって仕方がなくなるのです。


あなたが相手の悪い部分が目につくなら、「距離が近すぎるのかも」ということを、まずは疑ってかかるべきです。“近すぎる”と自覚することが、関係改善の第一歩。そのうえで、意識的に離れてみるとよいでしょう。


“離れる”と言っても、難しく考えることはありません。友だちと食事に行ったり、ひとりでお出かけしたりして、物理的に距離を置くだけです。自分から夫と離れてみることが大事なのです。


■「つかず離れず婚」のススメ


結婚は 「つかず離れず」が ちょうどいい

近すぎるのもうっとうしいし、熟年離婚で完全に離れるのも寂しい……。


そこで私が提案しているのが「つかず離れず婚」です。夫と妻という関係を続けながら、おたがいを「同居人」と考えるという、心理的な距離の取り方です。


「つかず離れず婚」のカタチは、夫婦それぞれで決めて構いません。一定のルールを事前に決め、それ以外は自由に過ごすのがポイントです。


例えば、私の患者さんのご夫婦は、次のようなルールを決めています。


・朝食と昼食は各自で用意して食べる。夕食は、基本、当番制。
・夕食時に、必要な情報は共有する。
・洗濯は当番制。
・家の共有部分の掃除は当番制。各自の部屋は自分で掃除する。
・泊まり以外の外出は自由。宿泊する場合は事前に言う。
・外出時に「誰と会う」などの余計な詮索(せんさく)はしない。


もちろん、食事だけは妻が作ってあげる、というのもOKです。ただし、義務ではなく、「夫ができないので仕方なく」とか「夫のまずい料理を食べたくないから」というプラスの理由が必要です。


■一方的なスタートは本末転倒


このようなルールの下で「物理的な距離感」をつくると、自然に「心理的な距離感」ができて、ストレスが軽減していきます。ふたりが自立した関係になることで、それぞれを尊重できるようになるのです。


大事なのは、おたがいが納得してやることです。妻が一方的に「今日からつかず離れず婚だからね」と宣言して、夫と距離を置き始めたら、夫は大きなストレスを抱えてしまいます。それこそ、病気になってしまうかもしれません。


離れる時間を少しずつ増やしながら、ひとりの時間が欲しいことを理解してもらい、「つかず離れず婚」を提案してみたらよいと思います。


もしも「そんなの嫌だ。俺はお前なしでは生きていけない」と夫が言うなら、「じゃあ、これだけは認めて」と譲歩を引き出す。大事なのは、物理的、心理的な距離を取ることで、おたがいの心に余裕を生むことなのです。


写真=iStock.com/baona
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

■中高年の7割がセックスレス


セックスレス 本音でぶつかり 歩み寄る

①婚姻関係を惰性で続けて、我慢しながら生きるか?
②新たな恋愛の可能性も含め、自分らしく生きるか?


どちらがいいと思いますか? 精神医学的には②がいいと思います。


ただし、婚姻関係をやめるのは簡単ではありません。精神的な負担があるのに加え、今後の生活費、住宅ローンの残債処理、財産分与など、山積みの問題が待っています。このため、多くの人は我慢しながら婚姻関係を続けています。


こんな調査結果があります。「日本の中高年の7割がセックスレス」——。


これって異常だと思いませんか。その多くは「したくてもできない」という我慢を強いられた状態です。健康的な生き方とは言えません。事実、性行為の回数が少ないと「前立腺がんになりやすい」とか「脳卒中になりやすい」というデータもあるほどです。


■レス状態から抜け出す唯一の方法


夫婦生活を幸せなものにするためには、性的なことは避けて通れません。しかし、日本人の多くはタブーにしがちです。セックスについて話し合うこともせずに、ただ「したくない」とか「したい」と、一方的に自分の考えを押しつける。もはやこれは、健全な夫婦関係とは言えないでしょう。



和田秀樹『女80歳の壁』(幻冬舎)

夫婦において、妻と夫の双方が100%納得する関係をつくるのは、容易ではありません。でも、逃げずに話し合うことは必要だと思います。だって、セックスレスは、つらいですからね。


拒まれる側は毎晩「私は嫌われているのでは?」と悩みます。拒む側も「嫌がっているのになんで?」と相手を責めたり、受け入れられない自分を責めたりします。つまり、傷つけ合っているわけです。


これは本当に不幸ですよね。だからこそ、それ以上、おたがいを傷つけないためにも、話し合う必要があるのだと思います。


性について本音で話せば、おたがいの望みや苦しさもわかるはずです。歩み寄れるなら、新たな夫婦関係が見えてくるかもしれません。


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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)

プレジデント社

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