「大ぼら吹きになってください」ユニクロで柳井正氏が創業当初から意識する変革の原動力「3倍の法則」とは?

2025年3月5日(水)4時0分 JBpress

 時価総額約15兆円、企業価値創出力No.1と、名実ともに国内企業のトップランナーに成長したユニクロ。その強力な経営スタイルは、創業者・柳井正氏のカリスマ性によるところが大きいと思われがちだが、実際にはそうしたトップダウンとは真逆のところにこそ、ユニクロが持つ最大の強みがある。本連載では『ユニクロの仕組み化』(宇佐美潤祐著/SBクリエイティブ)から、内容の一部を抜粋・再編集。ユニクロを展開するファーストリテイリングの元執行役員である著者が、「仕組み化が9割」という同社の経営戦略をひもといていく。

 今回は、ユニクロが創業当時から意識している「3倍の法則」について紹介。既存の延長では到達できない目標を掲げることが、組織にもたらす変革とは。

 

■「常識では考えられない高さ」を設定する

 ユニクロには「3倍の法則」といわれているものがあります。これは、ユニクロでイノベーションを起こす原動力になっている考え方です。「経営者になるためのノート」には、経営者には4つの力が必要であると書いてありました。「変革する力」「儲ける力」「チームを作る力」「理想を追求する力」の4つです。

 それぞれ7項目に因数分解できることはお伝えしましたが、「変革する力」の最初の項目が「目標を高く持つ」です。

「目標を高く持つなんて当たり前ですよね」と指摘されそうですが、みなさんの「高い」とユニクロの「高い」は基準が違います。少し背伸びすれば届くくらいの目標ではないからです。「非常識と思えるほどの高い目標」を掲げなければいけません。

 柳井さんはよく「大ぼら吹きになってください」と言っていました。常識で考えたらまともとは思えないくらいの高さが、イノベーションをもたらすために必要なレベルになるからです。

 では、常識で考えたらまともとは思えないくらいの高さとは、どのくらいの高さでしょうか。

「それはちょっと大ぼら吹きでは」と思われる目標は、どんな目標でしょうか。それは現在の3倍の高さです。

 今、定めている目標の達成が見えてきたら、次はその3倍という、あり得ないほどの高い目標を掲げます。おそらく、3倍なんてどう頑張っても無理だ…と感じるはずです。それでも、達成しなければいけないとしたらどうしますか。現状の延長線上の発想ではどう頑張っても到底達成できないので、新しい発想を必死に考えるはずです。生み出さざるを得なければ、人間は何かを生み出します。

 これは心構えではありません。
 本気で目指すことが重要です。

 実際、柳井正さんはユニクロの売上高が100億円のときには300億円を目指し、300億円のときには1000億円を目指し、1000億円のときには3000億円を目指し、3000億円のときには1兆円を目指してきました。

 周囲からは「そんなことできるはずがない」と言われながらも、そのたびにイノベーションを次々と起こすことで達成してきました。大ぼらを吹いて、それを有言実行してきたのです。

 余談ですが、私がユニクロに入社した当時は売上高が約1兆円で、次は2020年までに5兆円を目標に掲げていましたが、しばらくして3兆円に修正されました。やはり「3倍の法則」が正しいのかもしれません。

 今もユニクロは「3倍の法則」を実践しています。柳井さんが「CHANGEOR DIE」と発言したのが2011年でしたが、20年で売上高は約9倍に成長しています。10年で3倍くらいの成長速度で進化しています。今の売上高は約2.7兆円ですが、第4創業と位置づけて、売上高10兆円を目指しています。

 壮大な計画に映るかもしれませんが、柳井さんは「途方もない目標だとは考えていない」と言い切っています。これまでと同じように、常識で考えたらまともとは思えないくらいの高い目標でイノベーションをドライブさせようとしています。

 特筆すべきなのは、ユニクロは創業間もないころからこの「3倍の法則」を強く意識していたところです。

 ユニクロの会社の基本理念に「経営理念23カ条」があることはお伝えしました。ユニクロの前身の小郡商事時代からの柳井さんの商売の考え方をまとめたものです。17条までは小郡商事時代につくられたもので、小郡商事の経営理念となっていました。

 手書きのメモが残っていてアニュアルレポートでも見られるのですが、そのメモに17条とは別に会社の目標として「年率30%以上の売上高、利益の成長率を維持し、10年後に日本を代表するファッション企業になる」と書いてあります。「3倍」とは言っていませんが、年率30%で成長すれば10年も経たずに3倍になります。このころは自社の売上高が20億円規模にもかかわらず、すでに「日本を代表するファッション企業になる」と、当時の状況からすれば「大ぼら」を吹いているわけです。

 当時からかなり目線が高かったことがわかります。周りから「そんな大ぼら吹いて、大丈夫か?」と言われても、その大ぼらを大ぼらではなく、現実に実現し続けてきたのがユニクロの歴史です。

「大ぼらを吹くなんて怖くてできない」と思われるかもしれませんが、これはビジネスの世界では非常に効果的です。

 たとえば、日本の企業では「今年度は対前年度比で売上高3%増を目指しましょう」というような目標を掲げがちです。

 でも、これでやる気が起きるでしょうか。何か本気で考えて業務変革に取り組むでしょうか。みなさんがその企業の営業職で「3%増」が目標でしたら、前年度の延長で期末だけ頑張れば達成できるイメージが浮かぶはずです。

 日々の仕事への取り組みに大きな変化も起きないし、起こす必要もありません。

「今までのやり方で頑張ればいいや」となりますし、むしろ、方法を変えない方が効率的かもしれません。

 ただ、「3倍を目指す」「年率30%増」と言われたらどうでしょうか。明らかに今までのやり方では到達できません。営業職でしたら、新しい売り方を考えて、新しい顧客を開拓しなければ実現できないはずです。

 一営業職だけでなく、組織全体が新しい方法を考えることに力を注ぐようになるでしょう。イノベーションを起こさざるを得ないのです。

<連載ラインアップ>
■第1回経営理念を神棚に祀らない ユニクロの理念を実践につなげ生産性を高める「全員経営」の原理原則とは?
■第2回 柳井正氏の後継者をどう育てる?ユニクロが取り組む「FGLイニシアティブ」「MIRAIプロジェクト」の相当ハードな内容とは
■第3回「大ぼら吹きになってください」ユニクロで柳井正氏が創業当初から意識する変革の原動力「3倍の法則」とは?(本稿)
■第4回ユニクロで上司に差し戻される目標に決定的に欠けている要素とは? MBO×コンピテンシー評価でつくる独自制度
■第5回 ユニクロの塚越大介氏は44歳で社長に 柳井正氏の「人間25歳ピーク説」と修羅場を積ませる抜擢人事の仕組みとは?(3月19日公開)
■第6回 柳井正氏のゴルフ帰りの気付きも共有 ユニクロ役員が勢ぞろい、月曜朝8時に始まる「週次PDCA」は何がすごいのか?(3月26日公開)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから

筆者:宇佐美 潤祐

JBpress

「企業」をもっと詳しく

「企業」のニュース

「企業」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ