電話対応件数を100分の1に、kintone活用で「脱属人化」を徹底する老舗企業の挑戦
2025年5月22日(木)7時0分 マイナビニュース
業務用食材卸売のリーディングカンパニーであり、90年以上の歴史をもつ久世は、サイボウズが提供するノーコード開発ツール「kintone(キントーン)」をはじめとする業務システムを積極的に活用し“脱属人化”を徹底している。
例えば、顧客関係管理(CRM)システムや販売システム、運行管理システム、AI搭載の問い合わせシステムなど、多種多様なデジタル化を進めることで、営業や物流、カスタマーサポートの生産性を高めている。
「人が人としてすべき事に専念し、デジタルで効率化を図る。各部門の情報を可視化・数値化し、それぞれの部門の専門性を最大化することで生産性を上げ利益にこだわる」こう語るのは、久世でさまざまなDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している澤田真氏。
長い歴史を持つ老舗企業は、どのようにしてアナログな業務にまつわる課題を解消してきたのだろうか。澤田氏に話を聞いた。
1000社以上にExcelを送付、アナログな業務を変えたkintone
久世がkintoneを導入したのは2018年のこと。約1100社に及ぶ仕入取引先とのやり取りに課題を抱えていたという。
「GWやお盆、年末年始など、繁忙期前になると仕入先の食品メーカー各社に、『発注ができない』休業日を事前に確認する必要があります。ですが、各社で休業日はバラバラで、その管理に手間取っていました」(澤田氏)
kintone導入前は、営業日と休業日を記入してもらうExcelファイルを各社にそれぞれメールで送信していた。そして、返ってきたExcelファイルの情報を一つのデータとしてまとめ、発注システムに読み込んでいた。Excelファイルではなく、電話やファクスで休業案内を送ってくる仕入先もあり、仕様や表記がバラバラで情報を管理することに多くの時間を割いていた。
「『株式会社○○』と『(株)○○』、『2018年3月1日』と『2018/3/1』といったように、各社で記入の方法がバラバラでした。データを整理する業務を人力で行っていたので、繁忙期の前になると発注手配をする部署20人の残業時間が軒並み増加していました」と、澤田氏は振り返る。
こうした状況を打破するために導入したのがkintoneだ。あらゆる情報を管理できるkintoneを軸にして、仕入先が注文日や締切日を入力するWebフォームを作成できる「FormBridge(フォームブリッジ)」と、仕入先が入力した内容を確認・編集できる「kViewer(ケイビューワー)」、そして仕入先にメールを一斉送信できる「kMailer(ケイメーラー)」を連携させたシステムを構築した。
また、仕入先が記入した情報を既存の発注システムが読み込める形式のファイルに自動変換できるようにした。このシステムにより、Excelファイルを添付してBCC設定で各社にメール送信する手間や、仕入先から返ってきた情報を整える手間がなくなった。
「仕入先は選択形式で注文日や締切日などを記入していくだけに。データが格段と正確になり、電話でのやり取りは10分の1以下になりました」と澤田氏は説明。取引先からも「久世さんは、提出したスケジュール通りに注文してくれるのでありがたい」と好評だという。
電話対応件数を100分の1に、顧客の利便性を追求
効率化を進めているのは仕入先とのやり取りだけではない。居酒屋やレストラン、カフェ、スーパーといった顧客との取引を効率化するために、2022年4月にはオンライン対応のプラットフォームを立ち上げた。
その名も「KUZEX(クゼックス)」。インサイドセールスの業務を効率化するためのプラットフォームで、同プラットフォームの軸になるのもkintoneだ。kintoneをCRMシステムとして活用し、「LINE」から商品の注文や各種問い合わせができるシステムを連携させた。
顧客はLINEのアカウントを追加することで、好きなタイミングで商品を注文したり問い合わせしたりできるようになった。注文や問い合わせ内容はすべてkintone上に反映され、営業時間内であればセールスサポートセンターの担当者が速やかに対応を行えるようになった。
「これまでは電話でのやり取りが多く、お客さまは『電話がつながらない』『欲しいものがタイムリーに手に入らない』といった悩みを抱えていました。LINEを活用したコミュニケーションの体制を整えたことで、例えば、商品の写真や見積書をすぐに送れるようになり、問い合わせから受注までのリードタイムの大幅な削減につながりました」(澤田氏)
従来の業務では1日に300件以上もの電話があったが、KUZEXの構築によって1日3件あるかないかというところまで削減できたとのこと。現在では、LINE経由の問い合わせの対応内容はkintone上で数万件、注文額は数十億円にのぼり、利便性が向上したことで売上と利益の拡大にもつながっているという。
さらに、配送管理システムを活用して配送中の商品を載せたトラックが今どこにいるのかをすぐに確認することができる仕組みも構築。そのため、もし遅延が発生した場合でも、顧客に対して瞬時に情報を共有できるようになった。
「これまでは、『まだ商品が届いてないです』とお客さまから連絡がくると、配送センター経由でドライバーに状況を電話で確認しなければならなかったため、回答するまでに1時間ほどかかっていました。人が人としてすべきことに専念できるようにデジタルで効率化を図っています」(澤田氏)
顧客だけでなく、セールスサポートセンターの担当者の働き方にもいい影響を与えているという。これまでは土日や夜間でも、顧客から連絡があれば対応する必要があったが、問い合わせ営業時間外は自動応答で対応できるような仕組みを構築。残業時間の削減や生産性の向上につながっている。
kintoneをSFAとして活用へ、データ化を徹底
次なる挑戦は、フィールドセールスのDX推進だ。
同社はkintoneをCRMとしてだけではなく、営業支援システム(SFA)としての活用も積極的に進めている。久世独自のプラットフォーム名は「Smart Connect」。kintoneとユーソナーが提供する法人企業データベースを連携し、営業日報や案件情報など、営業活動を後押しするプラットフォームを構築した。
「SFAは管理することが目的ではなく、見える化・データ化で利益を上げることが目的です。案件情報を全社で共有してナレッジマネジメントを実現し、またアドバイスや励ましを通して社員のモチベーション向上にもつながっています」と、澤田氏は説明する。
例えば、「○○の改善ができないか」「訪問件数が不足している、ではどのように時間を捻出するか」といった具体的かつ建設的な議論ができるようになり、失注した場合でも「行動回数や内容、提案方針は正しい」という評価で社員を救うこともできる。
「kintoneで登録した案件情報や営業日報に対してだれでもコメントや“いいね”ができるため、社員同士の議論が活発になっています。将来的にはCRM、SFAにたまったデータを元にAIエンジンを搭載したセールスアシストも計画しています。これこそ脱属人化であります」(澤田氏)
「限られた時間で成果を上げるために、戦う前に相手を知り、戦う武器を会社として用意しておくことが重要です。これからの久世は、お客さまを探し、会社とつなぎ、みんなでデータをため、組織で対応する仕組みを目指します」(澤田氏)