必要なのは説教でも、論破でもない…反抗期に突入した子供が"うまく育つ家庭"に共通する"父母の言動"
2025年3月13日(木)10時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KEN226
※本稿は、加藤俊徳『子どもの脳は8タイプ 最新脳科学が教える才能の伸ばし方』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
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■脳には「得意」「不得意」がある
子どもを見ていると、往々にして「問題」とされる行動のほうが目につきやすいものです。自分自身についても、やはり周囲から問題視されることに、より意識が向きやすいのは無理もありません。
子どもに理解不能なことをされると当惑し、イラつきすら感じてしまう。子どもの能力を伸ばしたいのは山々だけど、どうしたらいいかわからない。思春期を迎えた子どもが、どんどん親である自分から離れていくのが寂しい。かといって、親としてどう接したらいいかわからない。学校や社会で「できないこと」ばかり指摘されて、自己肯定感を削られている。
こうした悩みを解決する一番の鍵は、「脳科学的な理解」です。「問題」とされやすい行動とは、「○○ができない」「こういうときに、○○という困った行動が出やすい」などなど。
しかし、「減点対象」となる特性の裏側には、そういう特性があるからこその「加点対象」があるはずです。すべての人の脳は、得意と不得意の凸凹になっています。どこかが凹へこんでいたら、必ず別のどこかが凸になっている。それが脳というものであり、日ごろ凹みばかりが目につきがちだからこそ、凸の部分を意識的に見出(みい)だしていただくことが、本書の目的なのです。
■脳は“21歳くらいまで”質も量も常に変化している
8つのタイプ(図表1、2、3)にもよりますが、凸の部分は、「これぞ特別な才能!」と思えるほど際立っているとは限りません。むしろ多くの場合、凹んでいるところが気になるがゆえに、才能の芽として認知されていない。そんな凸を見出すことで、凹みの部分をも受け入れられるようになったら、親子関係はよりよくなっていくはずです。
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出所=『子どもの脳は8タイプ 最新脳科学が教える才能の伸ばし方』
出所=『子どもの脳は8タイプ 最新脳科学が教える才能の伸ばし方』
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親が子どもの脳特性を知ること、あるいは子ども自身が自分の脳特性を知ることで、今まで見えていなかった凸の部分を見つけやすくなります。すると、親としては接し方や言葉のチョイスが変わり、当事者としては意識の持ちようや行動の指針が変化し、凸の部分を伸ばすことができます。
本書でいうと、8つのタイプには、それぞれ、紐ひもづいている「脳番地」があります。たとえば、8タイプの1つ、「リーダータイプ」は、思考系、運動系、感情系の脳番地が紐づいています。つまり「リーダータイプ」は、この3つの発達度合いが比較的強く、また、この3つの脳番地を鍛えると、さらに持ち前の能力が伸びるということです。
特に21歳くらいまでの脳は質も量も常に変化しています。脳細胞同士のネットワークも増設されつつ、まだ脳の質量が増えている段階です。ですから、発達している脳番地に刺激を入れれば入れるほど、その脳番地に集まっている脳細胞同士のネットワークが密になるだけでなく、筋トレで筋肉が大きくなるように、脳番地そのものが大きくなります。これが脳特性を才能として開花させることにつながるというわけです。
■「そうなろう」と意識すると、脳が変わる
また、自分の脳特性を理解すると、実は「なりたい脳」を目指すこともできます。たとえば「バランスタイプ」には運動系、聴覚系、記憶系脳番地が紐づいています。
では、仮に「バランスタイプ」の子が「リーダータイプ」のようになりたい場合は、どうしたらいいでしょうか。リーダータイプに紐づいていて、バランスタイプには紐づいていないのは、思考系と感情系の脳番地です。でも、これらの脳番地を鍛えるよりも先に、実は、できること(すべきこと)があります。
それは、脳に「指向性」を与えることです。つまり「リーダータイプの脳特性は、こういう意識や行動なんだ」と認知し、「こうなりたいな」と指向し、そして実際に「そうなろう」と意識することが、まず重要なのです。
「リーダータイプは思考系と感情系の脳番地が発達しているから」という考えのもと、いきなり、これらの脳番地を鍛えても、望むような結果が得られるとは限りません。その努力が空回りして、まるで明後日(あさって)の方向に作用する可能性も考えられます。目的地を定め、そこに「到達しよう」と思わなければ、張り切って出かけても、どこにも到達できませんよね。気づいたら「こんなはずじゃなかった」という、とんでもない場所に行ってしまうかもしれません。
それと似たような話で、脳にも「こうなりたい」という目標設定と「そうなろう」という意志が必要です。そのうえで、なりたい脳になるための実践を重ねることで、実際に脳が変わっていく。指向性があって初めて、脳番地のトレーニングが効いてくるという順序なのです。
写真=iStock.com/pocketlight
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pocketlight
■親への反抗は“脳の発達”が原因
特に思春期を迎えた子どもは、親にとっては難しい存在となりやすいものです。この時期の子どもは親に反抗するなど、それまでとは違った態度や行動を取るケースが非常に多いのですが、それは、脳が発達したことで、幼少期に比べて劇的に「思考や行動の選択肢」が増え、「自分で選びたい」という意志も強くなるからです。
子どもとしては、親に反抗すること自体が目的というわけではなくて、ただ、広がった選択肢の中から自分なりに何かを選びとっているだけなのです。子どもの意識が家庭外に向き始め、親以外の大人の話を聞いてみたいと思うようになるのも、この時期です。
こういうことのすべてが親からすると想像外であるために、親の目には「どんどん我が子が、自分の理解の及ばないところに向かっている」、さらには「近ごろ反抗的だ」と映るというのが大半でしょう。
子どもの予想外の行動を無意識のうちに否定したり、制限を加えようとしたりすると、子どもは、より強く「自分で選択するんだ」という意志を貫こうとするため、表に出る態度や行動はいっそう反抗的になります。これが、いわゆる「反抗期」というものの仕組みと言っていいでしょう。
■子供に話をさせることが重要
というわけで、子どもの中学・高校時代は、親にとっては悩みが多く、難しい時期です。徐々に親離れを始める子どもを無理につなぎとめようとしたら、子どもは反発し、親子関係は悪化してしまうでしょう。ここで親子が断絶することは、子どもの将来に暗い影を落としかねません。
中学・高校生は、大人に近づいているとはいえ、まだまだ子どもです。健やかに未来を切り開いていくには、親など身近な大人に理解され、受け入れられているという安心感がとても大切です。ここで完全に子どもの手を離してしまったら、子どもは不安になり、自由に羽ばたけなくなってしまうのです。
したがって、子どもを無理につなぎとめようとするのも問題ですし、逆に、子どもに理解があるふりをして、本当は理解できないままで何もしない、子どもの話すら聞かないというのも、正しい親の態度ではありません。
家庭内で一番重要なのは、子どもに話をさせることです。そのために、親の言葉がけや態度によって、常に「何でも話せる雰囲気や環境」をつくっておくことが、どの脳特性のタイプであるかにかかわらず普遍的に重要なのです。
写真=iStock.com/itakayuki
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■年齢が上がると、考えながら動けるようになる
子どもの脳は、まず運動系と、それに関連する視覚系と聴覚系が発達し、さらに後追いする形で記憶系、理解系、思考系、感情系、伝達系が発達していくと本書で述べました。
もう少し具体的に言うと、中学生から高校生になるにつれて、思考系と理解系の発達度合いがもう一段、二段上がり、それに伴って、さらに運動系、視覚系、聴覚系の発達度合いも上がります。
小さな子どもは活発ですが、そこには、理解や思考はあまり関係していません。見ながら動く(視覚系+運動系)、聞きながら動く(聴覚系+運動系)ことはできても、ほとんど無計画、無思慮、無理解のまま、ただ活発に動き回っているという具合です。それが、年齢が上がるにつれて周囲の状況や知識などを理解し、考えながら動く(理解系+思考系+運動系)ということができるようになっていきます。
もちろん、理解し、考えながら動くというのは、「見たこと、聞いたことを理解したうえで考えながら動く」ということですから、中学・高校生では、思考系・理解系とともに、運動系・視覚系・聴覚系のトライアングルも、幼少期からさらに発達するというわけです。
■より多くの人と接したほうがいい
では、残る感情系と伝達系は、どんなふうに発達するのでしょう。この2つは、実は他の脳番地に比べて、発達度合いに差が現れやすい脳番地です。大人の脳でも、ある人は高い、ある人は低いといった差異が見られるのですが、もっとも差が出るのは、中学・高校生の頃と言っていいでしょう。
小学・中学校くらいまでの子どもの脳では、まず他者認知(他者の意図や行動を知覚し、反応すること)が発達します。それが高校くらいからは自己認知が高まってきて、「自分はどうしたいのか」といった思考が生まれます。これは高校生になると、自分の感情を司る左脳の感情系脳番地が発達してくることによります。
ただし、感情系は未熟であり、ここからの発達度合いは、主に、どれくらい多くの人と接するのかによります。より多くの人と接することは、それだけ多様な感情を抱く機会の創出につながり、機会が増えるほどに感情系が伸びるということです。
写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara
その意味では、8タイプのうち、もっとも社交的な傾向の強い「フレンドリータイプ」と、もっとも非社交的な傾向の強い「エキスパートタイプ」とでは、感情系の発達度合いが極端に違うというように差が出やすい脳番地と言えるのです。
■「会話の多い家庭環境」を作るといい
その感情系よりも、さらに差が現れやすいのが伝達系脳番地です。社会に出る前の子どもは、放っておくとアウトプット量よりもインプット量のほうが、格段に多くなりがちです。
たいていの子どもは日中の大半の時間を学校で過ごしますが、そこで何をしているかといえば、授業を受け、ホームルームや全校集会などで壇上の先生の話を聞き……と、インプットばかりでしょう。特に日本の学校に当てはまる話なのかもしれませんが、自分からアウトプットする機会は、残念ながら、あまり設けられていません。
言い換えれば、学校ではインプットに関係する視覚系・聴覚系脳番地は伸びても、アウトプットに関係する伝達系脳番地は伸びづらいということです。
そこで大きな分かれ目となるのが、家庭内での会話量、特に子どもの発話量です。親が一方的に話すのではなく、子どもがたくさん話すという意味で、「会話の多い家庭環境」であるほど、子どもの伝達系脳番地は伸びやすいのです。
自分の感情や思考を他者に伝える「伝達」という能力は、健全な人間関係を築くうえでも、仕事で成果を出していくうえでも——つまり、社会で自立して生きていくために欠かせません。そして、その能力の発達具合は、子ども時代に、学校では皆一様にインプットする一方、それぞれの家庭において、どれだけ会話があるか、どれだけ発話できるかで大きく差が出てくるというわけです。
■会話が少ない子供ほど鬱になりやすい
現に私が接してきた中でも、家庭内で話している子どもで鬱(うつ)状態に陥っているケースはきわめて少なく、元気でコミュニケーションも取りやすい子が大半です。もちろん、何かしらの問題を抱えているから当クリニックに来院されているわけですが、元気があればたいていは比較的早めに、脳特性を発揮しながら健やかに生きていく道筋が見つかるのです。
本書では、まず脳特性診断テスト(第1回参照)をしていただいたうえで、各タイプの脳特性と、そこから窺うかがい知れる才能の伸ばし方を解説しています。そこで子どもの脳に眠っている宝物を見つけていただければと思いますが、すべてのタイプに共通して重要なこととして、ぜひ「子どもが家庭内で話しているか」にも意識を向けてみてください。
タイプによっては、学校など家庭の外で盛んにアウトプットしている可能性もありますが、それは差し引いても、家庭内での会話は重要と心得ておいたほうがいいでしょう。
それも「大きな声」で話していることが重要です。大きな声だと発した瞬間に自分自身の耳でも聞くことになります。そのフィードバックにより自己理解や思考が刺激され、そこで形成される自己認知が自信に直結するのです。裏を返すと、発話量が少ない子どもほど鬱になりやすい。それは発話によって自己理解や思考が刺激される機会が少ないために、自己認知が上がりづらく、自信も育ちにくいからと言っていいでしょう。
■「安心してたくさん話せる仕組み」を意識的に作る
もし鬱にならなかったとしても、コミュニケーションが非常に取りづらい状態のまま大きくなる可能性が高いので、大人になってから社会生活に支障をきたしかねません。
加藤俊徳『子どもの脳は8タイプ 最新脳科学が教える才能の伸ばし方』(SBクリエイティブ)
中学・高校生の子どもは、ただでさえ親から離れていきがちです。それは自立への第一歩であり、成長過程として自然なことです。しかし、だからといって、親子間のコミュニケーションが失われていいわけではありません。いくら自立に向けて歩み始めていようとも、親の態度や対応次第で、子どもの家庭内でのアウトプット量は変わってきます。
今の子どもを見ていて、発話量があまり多くないと感じているのなら、なおのこと「子どもが安心してたくさん話せる仕組み」を、親が意識的に作る必要があるでしょう。
では、どうしたら、そんな仕組みを作ることができるか。それはタイプごとに少しずつ異なります。本書ではいずれのタイプにも「よい声がけ」と「悪い声がけ」を例示してありますが、タイプによって言葉のチョイスが違うだけで、目的は同じです。すべては、親の思いを一方的に押し付けることなく、「子どもが安心してたくさん話せるよう、水を向けるコミュニケーション」を取るためです。
このように、親が子どもの脳特性を知ることで、子どもとの接し方が変わり、すると豊かな家庭内コミュニケーションがある中で子どもの才能が伸びていく。それが本書の目指すところです。ひとりでも多くのお子さん、ひとりでも多くの親御さんが悩みから解放され、親子ともに幸せになる助けとなることを願っています。
写真=iStock.com/miya227
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227
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加藤 俊徳(かとう・としのり)
脳内科医
昭和大学客員教授。医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。MRI脳画像診断・発達脳科学の専門家で、脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや脳科学音読法の提唱者。1991年に、現在世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。著書に『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『アタマがみるみるシャープになる!! 脳の強化書』(あさ出版)、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など多数。
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(脳内科医 加藤 俊徳)