3つの免疫評価から最有力の乳酸菌を発見 Lactobacillus helveticus GCL1815株
2025年3月17日(月)12時47分 PR TIMES
江崎グリコ株式会社は、当社が保有する菌株※1約1万株の中から、免疫に関する3つの評価(1.イムノグロブリン(IgA)産生、2.樹状細胞活性化、3.インターロイキン(IL)-12産生)で優れた性能を持つ乳酸菌の探索研究を行い、Lactobacillus helveticus GCL1815株(以下、GCL1815株)を見出しました。ヒト細胞を使用した3つの評価試験で顕著な結果を示したGCL1815株は、免疫機能を向上する高い潜在力が期待されます。本研究成果は、2024年12月13日に日本農芸化学会の英文誌「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry」にオンラインで公開されました。当社は引き続き、GCL1815株を実際に摂取した際の免疫細胞への作用や、感染症予防効果の検証を進め、人々のすこやかな毎日の実現に努めてまいります。
■本研究のポイント
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/1124/530/1124-530-a2b3d26fdd326ce8ee7eab2fb31beadf-3900x1713.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
ヒト細胞を用いて乳酸菌を比較した結果、GCL1815株が、次に示す3つの評価の全てで優れた結果を示しました。
1. IgAの産生を誘導する力・・・GCL1815株は、対照群と比べてIgA濃度がほぼ2倍高くなり、IgA産生を誘導する能力が高いことを示しました。
IgAは抗体の一種です。IgAが多く産生されるほど、ウイルスや細菌などの病原体の感染を防ぐ力が高まることを示します。
2. 樹状細胞を活性化する力・・・従来型樹状細胞(cDC)様細胞の活性化の指標となるCD86※2の発現量は、GCL1815株の存在下では、対照群に比べて2倍以上高い数値となり、樹状細胞を活性化する能力が示されました。
樹状細胞のうち、cDCの役割のひとつとしてT細胞が働きだすよう指示を与えます。cDCの活性が高いほど、侵入した病原体の増殖がT細胞の働きで抑えられる可能性が高いことを示します。
3. IL-12の産生を誘導する力・・・GCL1815株は対照群よりも45倍以上高くなり、IL-12の産生を強力に誘導しました。
IL-12は、免疫機能を調節するサイトカインと呼ばれるタンパク質の一種です。NK細胞やT細胞を活性化し、感染した細胞の除去を促進する役割があります。IL-12が多く産生されるほど、侵入した病原体の増殖がより効果的に抑えられることを示します。
■論文情報
掲載誌 :Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Volume 89, Issue 3, March 2025, Pages 459-464.
タイトル:Screening of novel lactic acid bacteria with high induction of immunoglobulin A production, dendritic cell activation, and interleukin-12 production
著者 :Keigo Tsuruno, Takashi Mawatari, Yukimasa Tanaka-Azuma, Atsushi Yamatsu and Soichi Tanabe
URL :https://doi.org/10.1093/bbb/zbae196
■研究の背景
乳酸菌のなかには、人の免疫機能を調整する能力(免疫調整能)があることがこれまでの研究で報告されています。感染症の予防は、免疫機能の維持向上が重要であることから、免疫調整能を持つ乳酸菌の研究が活発に行われています。
本研究では、免疫調整能を持つ乳酸菌を選抜する条件として、1.IgA産生誘導、2.樹状細胞活性化、3.IL-12産生誘導という3つの評価項目を設定しました。これら3つの項目全てにおいて優れた結果を示した乳酸菌には、高い感染症予防効果が期待できるためです。
なお、乳酸菌の探索研究にあたり、人に対して優れた免疫調整能を得るために、本研究では、ヒト細胞を用いて研究を行いました。
■研究方法・結果
当社が保有する約1万株の菌株から、食品に使用される乳酸菌17種において、標準的な乳酸菌培地でよく育つ乳酸菌308株を選抜し、免疫に関する3つの評価試験を行いました。試験には、熱処理により殺菌した菌体を用いました。
1.IgA産生
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)に308株の乳酸菌をそれぞれ添加し、培養液中のIgAの濃度を、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)により測定しました。対照群と比較してIgA濃度が高かった、上位15株を探し当てました。
この15株について、ボランティアの血液から得たPBMCを用いて、同様にIgA濃度を測定したところ、8株はIgA濃度が有意に高い値を示しました。特に、GCL1815株は、対照群と比較してほぼ2倍高いIgA濃度となりました。
2.樹状細胞活性化
cDC様※3細胞を用いて、CD86の発現量をcDC様細胞の活性化の指標としました。抗体でcDC様細胞表面のCD86を染色し、1.のIgA産生の高い乳酸菌15株を加えた場合のCD86の発現強度を、フローサイトメーターを用いて比較しました。
乳酸菌15株中13株でCD86の発現が対照群よりも有意に高く、さらにGCL1815を含む5株については2倍以上高い発現を示しました。
3.IL-12産生
乳酸菌を添加したcDC様細胞の培養液中のIL-12濃度を、ELISAを用いて測定しました。
その結果、15株中4株は対照群よりも有意に高いIL-12濃度を示し、GCL1815株は対照群よりも45倍以上高い、強力なIL-12産生誘導を示しました(図)。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/1124/530/1124-530-2dd603c3dfc8e078068142ad473ee40c-2932x1447.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
■考察
GCL1815株は、ヒト細胞を用いた3つの免疫評価試験において、高い活性を示しました。この結果から、GCL1815株は優れた免疫調整能を有し、ヒトでの感染症予防効果に高い期待ができることを示唆しています。
■今後の展望
より優れた免疫調節能を示す乳酸菌株は、感染症予防を含めた健康維持に望ましい素材といえます。今後は、当社が見出したGCL1815株の機能を明らかにすることを目指し、GCL1815株を実際に摂取することによる、免疫細胞への作用や感染症予防効果の検証などを進めます。GCL1815株の健康価値の創出を通して、当社のパーパスである「すこやかな毎日、ゆたかな人生」の実現に努めてまいります。
<参考情報>
※1 菌株・・・細菌を最も細かく分類する、最小単位です。1つの細菌から分裂し増殖した、同じ遺伝子を持つ菌の集まりを指します。
※2 CD86・・・抗原提示細胞(B細胞、樹状細胞、マクロファージ、など)の表面に発現する、共刺激分子と呼ばれるタンパク質です。CD86は、T細胞の表面にある受容体に結合して、T細胞の働きを高めたり、抑えたりします。
※3 cDC様細胞・・・実験的に用意した、cDCのような性質の細胞のことを表します。