「ストレスはないほうがいい」は大間違い…心理学者が若い頃に経験したほうがいいと勧める「心の筋トレ」の中身

2024年3月18日(月)17時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndreyPopov

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メンタルの強い人は何をしているか。心理学者の内藤誼人さんは「ストレスから逃げ続けているだけでは、いつまで経っても耐性はつかない。ワクチン接種や筋肉を太くするのと同じで、ほどほどのストレス経験をしておくと、その後のもっと強いストレスにも耐えられるようになる。ストレスを感じずに一生ずっと生きていければいいが、現実にはそういうわけにはいかないから、むしろ自分のストレス耐性を高めたほうがいい」という——。(第1回/全8回)

※本稿は、内藤誼人『イライラ・不安・ストレスがおどろくほど軽くなる本』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/AndreyPopov
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■ほどほどのストレス生活で「耐性」を得ることが出来る


ストレスのある生活とない生活では、どちらが望ましいでしょうか。


「そんなの、ストレスがないほうに決まっているじゃないか!」と思いますよね。


ですが、ストレスを感じる状況から逃げまくるのではなく、むしろ自分から積極的にストレスを感じるようチャレンジしてみるのも、決して悪くはありません。


なぜかというと、ほどほどのストレスを感じるようにしていると、ストレスへの「耐性」がついてくるからです。


カリフォルニア大学ロサンゼルス校のラリッサ・ドゥーリーは、過去6年以内に初期の乳がんと診断された122名の女性に、どれくらいがんに関する不安や悩みを抱えているかを尋ねてみました。


また、自分の人生において、家庭、学業、仕事、金銭、恋愛などでどれくらいストレス経験をしてきたのかも聞きました。


すると、人生のいろいろな局面でほどほどのストレスを感じてきた人ほど、ストレスへの耐性が高く、乳がんになってもそんなに悩まないことがわかったのです。


ほどほどのストレスを感じることは、決して悪いことではありません。


特に若いうちには、ストレスを感じることもどんどんやったほうがいいですよ。


■ストレスを感じることは「心の筋トレ」になる


ストレスから逃げ続けているだけでは、いつまで経っても耐性はつきません。ワクチン接種と一緒で、弱い形でのストレス経験をしておくと、その後のもっと強いストレスにも耐えられるようになります。


人生においては、いろいろと失敗しておいたほうが、失敗にも慣れてきて、そんなに気分がへこまなくなります。若いうちにはどんどん失敗したほうがいいのです。


出典=『イライラ・不安・ストレスがおどろくほど軽くなる本

スポーツ選手は、あえて苦しいトレーニングをし、負荷の高い運動をすることで、筋肉の繊維を破壊します。わざと身体に悪いことをするのです。


ですが、いったん破壊された筋肉の組織は、再生するときに、破壊される前の状態よりもさらに強く再生されるのです。元の筋肉よりも強くなるので、この現象は「超回復」と呼ばれています。


ほどほどのストレスを経験しておくことは、筋肉を太くするのと同じようなことです。小さなストレスをいくつも乗り越えるうちに、大きなストレスに対しても蚊に刺されたくらいにしか感じなくなります。


ストレスを感じずに一生ずっと生きていければいいのですが、現実にはそういうわけにはいきません。ですので、弱いストレスなら、どんどん経験することでむしろ自分のストレス耐性を高めたほうがいいのです。


■事故に遭った患者「生きているだけでもよかった」


もし交通事故に遭って脊髄(せきずい)損傷になったら、読者のみなさんはどういう気持ちになるでしょうか。一生、車いす生活になることを想像するだけで、とても苦しそうで、とても悲しい思いをするだろうな、と思うのではないでしょうか。


ところが、現実に脊髄損傷になった人に聞いてみると、どうもそうではないことが明らかにされています。


米国コロラド州イングルウッドにあるクレイグ病院(神経リハビリテーションの専門施設)のケネス・ガーハートは、153名の救急病棟のナースや医療関係者に、もしあなたが脊髄損傷になったとしたら、「生きているだけでもよかった」と思うかどうか聞いてみました。


すると「生きていてよかったと思う」と答えた人は18%しかいませんでした。


ところが、実際に事故に遭った患者に同じことを聞くと、なんと92%が「生きているだけでよかった」と答えたのです。


事故に遭うことは不幸なことには違いありませんが、当事者はというと、そんなに落ち込んでばかりというわけではなく、むしろ「生きていてよかった」という喜びのほうを強く感じるものなのです。


不安や心配もそうで、不安に思っていることが実際に起きたとしても、「なんだ、こんなものか」と思うことのほうが現実には多いのです。


■自分で悩みを大きくしない


私たちは、心配事について自分の頭の中で勝手に大きくしてしまうものですが、実際にそれが起きてみると全然たいしたことはなかった、ということは少なくありません。拍子抜けすることもあるでしょう。


派遣社員や契約社員として働いていて、「いつ契約が打ち切られてしまうだろう」とビクビクしている人は、失業することに大きな不安を抱えているに違いありません。


出典=『イライラ・不安・ストレスがおどろくほど軽くなる本

けれども、実際に契約が打ち切られても、「なんだ、こんなものか」と思うくらいですみます。失業したからといって、生命まで奪われるわけではないのですし、新しい職場を探せばすむことですからね。むやみにおびえる必要はまったくないわけです。むしろ、イヤな職場から離れられて、ラッキーと思うことだってあるかもしれません。


大切なことは、自分で悩みを大きくしないこと。


「○○になったら、どうしよう?」という思考ではなく、「○○しても、実際にはたいしたことはないかも?」という思考をとりましょう。そのほうがむやみにおびえることもなく、スッキリとした心で生きていくことができます。


たとえどんなに不幸な出来事が起きたとしても、命さえとられずにすむのであれば、何も怖いことなどありませんよ。


■ストレスを予想しておく


人生というものは、苦しいことの連続です。たまにうれしいことがあったりしますが、基本的には辛いこと、苦しいことのほうが圧倒的に多いものです。


ですから、「人生というものは、思うにまかせないもので、苦しいもの」ということをあらかじめ肝に銘じておくといいですよ。


そんなふうに思っていれば、仮にイヤな出来事が起きたとしても、「ほら、やっぱりね」と気楽に受け止めることができますから。


デューク大学のアンドリュー・カートンは、あらかじめ予想しておけば、ストレスを感じる出来事が起きても、そんなに苦しさを感じないことを実験で確認しています。


カートンは、70名の大学生にある文章を読ませ、「a」で始まる単語だけを数えていくという作業をやらせました。この作業はひどく退屈で、うんざりするような作業です。実験的にストレスを引き起こすために、あえてそんなことをさせたのでした。


また、作業中には監督者があれこれと話しかけたりして邪魔をすることになっていました。これはストレスをさらに高める操作です。


■「甘い期待」よりも「苦しいもの」と思えば何とかなってしまう


さて、カートンは作業を始める前に、半分のグループには、「時々、監督者に邪魔をされることもあります」とストレスがあることを予想させておきました。残りの半分にはそういう説明はしませんでした。



内藤誼人『イライラ・不安・ストレスがおどろくほど軽くなる本』(明日香出版社)

すると、ストレスを予想させられたグループでは、邪魔をされてもストレスをそんなに感じずにすみ、作業量も落ちないことがわかったのです。あらかじめストレスがあることを予想しておけば、私たちはそれに耐えられるのです。


ちょっと話は変わりますが、これから結婚をする人は、結婚に甘い期待などは抱かないほうがいいですよ。


むしろ、ケンカをしたり、子育てで苦労したりするなど、大変な思いをするものだと思っていたほうがいいでしょう。そのほうが、結婚生活に幻滅しないですみますからね。


結婚に甘い期待を抱いていると、現実には苦しいことのほうが多いので、「だまされた!」「もうイヤだ!」ということになってしまいます。甘い期待を持っているほど、現実の結婚生活に対する幻滅は大きくなります。


これから社会人になろうという人にも同じアドバイスをしておきましょう。


どんな仕事もそうだと思うのですが、苦しいことや悲しいことはいくらでも起きます。社会というのは、そういうものです。ヘンに甘い期待などを持っていると、ガッカリすることばかりが起きて、すぐに会社を辞めたいと思うかもしれませんので気をつけてください。


「仕事は苦しいものだ」と思っていたほうが、耐性がついて、けっこう何とかなるものです。


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内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は釣りとガーデニング。著書に『いちいち気にしない心が手に入る本:何があっても「受け流せる」心理学』(三笠書房)、『「人たらし」のブラック心理術』(大和書房)、『世界最先端の研究が教える新事実心理学BEST100』(総合法令出版)、『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)、『羨んだり、妬んだりしなくてよくなる アドラー心理の言葉』(ぱる出版)など多数。その数は250冊を超える。
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(心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長 内藤 誼人)

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