なぜ髪を切るだけで「6000円」もかかるのか…現役美容師が明かす「安い、早い、上手い」1000円カットとの決定的違い

2025年3月22日(土)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/YakobchukOlena

美容室はカット料金が1000円台の店もあれば、1万円以上するところもある。なぜこれほど価格差があるのか。美容師の操作イトウさんは「6000円前後の『高価格帯』と3000円前後の『低価格帯』で二極化が進んでいる。店の運営方法を分析することで『適正価格』が見えてくる」という——。
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■ヘアカット料金は二極化が進んでいる


だんだんと春らしい気候を感じるようになった、今日この頃。転勤・異動や転職など、生活環境が一変する方も多いでしょう。新天地で悩みの種になりやすいのが、新しい美容室探し。


ネット予約サイトをのぞくと「カット料金」は驚くほど価格差があることから、「安くてお得」がいいか「高くても上質」を求めるか、悩ましいところ。


実際、ビジネスパーソンとしてはどちらが有益なのでしょうか?


美容室の多い繁華街のヘアカット料金は、6000円前後の「高価格帯」と3000円前後の「低価格帯」と二極化していることがほとんどです。およそ2倍近い金額差から、お客様のニーズも多岐にわたることがうかがえます。


ですがなぜ、それほどまでに価格差が生まれているのか?


このカット料金の「6000円」と「3000円」の価格差を招いている要因の一つは、ホットペッパービューティーを中心としたウェブ予約サイトでの「新規顧客の獲得合戦」です。


■なぜ2倍もの価格差が生まれるのか


美容室側がロイヤリティーを払って掲載しているウェブ予約サイトは、運営側にも消費者にも利便性があり、圧倒的な集客力を発揮します。ですが運営側からすると、サイト内の数多ある美容室から消費者に選ばれないと、お客様が来店することはありません。


この熾烈な争いの中で重要視されるのが、「価格」です。


「安いカット料金」にすれば、集客力は飛躍的にアップします。「割引クーポン」も同様、初回割引は「お得感」と「お試し」の要素を兼ね備え、初回の満足度が高ければ固定客につながりやすくなります。


それ故、カットを中心とした「施術の安売り」をする美容室は多くあります。


ですが、店によって「およそ半額にもなるカット料金」は、どのように算出されているのでしょうか? カットは、美容師が付きっきりで作業する必要があります。時短するにも限界がありますし、材料費で経費削減とはいかないはず。


そんな低価格帯の運営方法には、3点の特徴があります。


■低価格を実現する「3つの運営方法」


①スタイリストがお客様を掛け持ちする

「3000円」の美容室の運営は、端的に言うと“数をこなす”ことで売り上げを出しています。


多くの低価格帯では、一対一の応対ではなく、分業することで作業効率を上げて現場を回しています。スタイリスト(カットを担当する人)の予約枠を同時刻に2人受け付ける形で、お客様の掛け持ちをしています。


皆様も美容室で、「シャンプーは別のスタッフ」といった場面を経験されているかと思います。このようにアシスタント(見習い)や手が空いたスタッフが代わることで、シャンプー&ブローをしている間に2人目のカットをして効率化を図っています。


②お客様一人当たりの時間の配分が違う

低価格帯の美容室は“数をこなす”ために、予約段階でお客様一人当たりの時間の配分が短く設定されていることも多いです。


例えばカットの場合、高価格帯が「カットは1時間」と設定しているところ、低価格帯は「40分で終える」「カット&カラーは2時間を1時間30分で終える」といった具合です。


写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio
③カルテを書かない

多くの美容師には、お客様の施術内容をカルテに書き記しておく習慣があります。次回来店時に「前回の履歴」を活かすための作業ですが、低価格帯の場合、記入しない店が多いのです。


なぜなら、手間がかかるからです。


薬剤の配合や気になる点に至るまで、一日に担当したお客様全員のデータをカルテに記入するには、それなりの時間と労力を要します。


しかし、お客様全員のカルテを書き記しても、全員が「2回目の来店」をするわけではありません。


すると、その手間は「無駄になった」とも考えられるため、時短や労力を減らすことに比重を置いて「カルテを書かない」という選択をとっているのです。


■1000円カットは「革新的なエコシステム」


このような運営スタイルについて、「安いのはエコシステムによるものじゃなくて、人力なの?」と考えた方も多いのではないでしょうか?


正直なところ、「カットの技術」やオペレーションについて革新的なことはしていません。シンプルに、アナログに、数をこなしているだけです。


これには、美容室にとって「集客すること」と「固定客を増やすこと」が一番の課題であるという側面もあります。固定客で回転できることが運営の理想ですが、固定客が少ない上に集客力が無ければ、売り上げが立たなくなってしまう。


それ故に、「安くても一見様を多く集客して売り上げを出す」ことを選ぶ美容室が多いのです。


ところが、業界にも革新的なエコシステムによって低価格を実現している業態があります。それが、「1000円カット」です。


その手軽さから利用している方も多いと思いますが、一方で「安すぎて、実際どうなの?」という疑問があるのも事実です。


■安売りをするほど首を絞める結果に…


1000円カット(最大手QBハウスのカット料金は、2025年3月時点で1400円)は、現場の作業を極限まで効率化することで低価格を実現しています。


「10分でカットを終える」「シャンプーをしない」「ヘアカラーやパーマはしない」「切った髪の毛は掃除機で吸う」など、美容師・理容師の負担になる一切の無駄を省くことで、業界でも例外的な「カットの安売り」を可能にしています。


QBハウス 横浜市役所店(写真=Yoh-Plus/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

これらを比較すると、「6000円の美容室は高額過ぎるのでは?」といった意見もあるかと思いますが、実は適正価格です。


近年、美容室では、工程すべてを分業せずに一対一で対応することが多くなりました。これは、昨今の人材不足によって若手を雇えない美容室が増えたことが理由の一つです。


現場のスタイリストはすべての工程を自身で行うので、もちろん掛け持ちをする余裕は無くなります。ですから、一日でカットできる人数は限られ、施術時間の「人件費」、さらに好立地に店を構える「テナント代」などを鑑みると、安売りすることは薄利多売。安価であるほど首を絞める運営になってしまうのです。


■一流はヘアカットにいくらかけるのか


とはいえ、今回のお話は「高価格帯は正義で、安売りは悪」といった二元論で一蹴したいわけではありません。


1000円でも、3000円でも、6000円でも、1万円でも、それぞれの運営スタイルを考えれば、妥当な価格設定だと言えます。


ですが、一流のビジネスパーソンはどちらを選ぶべきでしょうか。


以前にも、岸田文雄首相(当時)の散髪が多いと話題になりました(時事通信社〈岸田首相の散髪、なぜ多い? 年24回、安倍・菅氏の2倍【政界Web】〉)。一国の首相の身だしなみへの気配りには納得です。そして「散髪にランニングコストを意識していた」という旨は、適切な金銭感覚をお持ちのように見えますし、多くの方は好感を持ったのではないでしょうか。


一美容師としては、美容室選びに「上質」を求めるなら「高価格帯の美容室」を選ぶことをオススメしています。


理由は、価格帯の違いによって、美容師側の精神的・体力的負担は大きく変化するからです。


低価格帯の美容師は、次から次に押し寄せる仕事を終わらせるために作業の手を早める場面が多くなりやすく、美容師によっては精彩を欠く場面が増えてしまうのです。


さらに高価格帯の場合、常連の方ほどフォローが手厚くなります。


低価格帯の場合「2回目の来店」をしても、カルテを書き残していなければ内容が引き継がれず、場当たり的な対応になりやすくなります。


そのため岸田首相よろしく、ご自身の許容範囲内の料金で「高価格帯」を選択するほうが、快適に過ごしやすくなると言えます。


写真=共同通信社
髪を触る岸田文雄首相(※当時)=2023年10月31日 - 写真=共同通信社

■健全な運営をするための「適正価格」とは


以前から、「日本のカット料金は欧米の主要国に比べて安い」と言われています。筆者個人も、6000円が美容師にとって健全な運営をするための適正価格だと考えています。


「安い、早い、美味い」は義理人情の日本文化の賜物ですが、個人的にはカットを安売りすることは良いこととは思っていません。


なぜなら、カットにおいては「省ける部分」が少ないからです。


例えば料理人は、万全の「仕込み」をしておけば、営業中の作業は最低限で済みます。牛丼チェーンなら、盛りつけた丼をお客様に提供するだけです。


ですが、このような「仕込み」はカットにはできません。お客様と相対して、オーダーを聞いて、髪を切る。1000円カット以上に簡略化することは元々「無理ゲー」で、タイムアタックのように作業を早めるしか方法は無い。消費者にとっては便利ですが、いささかウェルビーイングとは言えない運営なのです。


現場の美容師は、1000円でも6000円でもその場の最善を尽くしています。ですが時間に追われる美容師ほど、日々に忙殺されて、この“いびつさ”に気が付いていないところがあります。


美容室料金の今後は、「今までが安過ぎた」と言われる類の一つではないかと思いますし、人が手を掛ける職人作業ですから、インフレに応じて見直されていくものだと認識しています。


美容師は皆、喜んで帰るお客様の姿が見たいだけなのです。


どんな働き方であっても、美容師が仕事に対する真っ当な対価を得て、お客様も豊かな生活を送れるようになることを、願ってやみません。


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操作イトウ(そうさいとう)
美容師
東京・二子玉川と自由が丘を拠点にする30代美容師。「ヘアスタイルはロジックで美しく、カッコよくなる」「ステキな美容師さんに出会ってほしい」をメインテーマにしたブログをnoteにて執筆している。
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(美容師 操作イトウ)

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