早生まれの子は実は1年先を行っている…脳科学者が「早生まれは本当はすごい」と断言する理由

2025年3月27日(木)16時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

なぜ早生まれの子と遅生まれの子の学力に差が出てしまうのか。東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授は「実は、早生まれの子は脳が若いうちに刺激を受けることができるというメリットがある。しかし、『遅生まれの子の方が成績がいい』というステレオタイプが、能力を発揮することを妨げているのではないか」という——。

※本稿は、瀧靖之『本当はすごい早生まれ』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。


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■「脳の可塑性」は若いほど高い


「早生まれが本当はすごい」のは、脳に「可塑性」という性質があるからともいえると思います。


「可塑」というのは聞きなれない言葉だと思います。これは「思い通りに物の形をつくること」をいいます。脳には、「思い通りに脳自体をつくることができる・変化させることができる」という性質が備わっています。


実は、この可塑性は何歳になっても残ります。例えば10歳になっても、30歳になっても、50歳になっても、70歳になっても、新しいことを学ぶことができるのは、脳に可塑性があるからです。ただし、可塑性は「若い脳の方が高い」ということもわかっています。新しいことを学ぶのであれば若いうちの方がいい、ということは、皆さんも実感として感じているはずです。


■1年早く脳がチャレンジしている


早生まれの子というのは、結果的に他の子よりも一足早く集団生活に入り、様々なことをスタートすることになります。多くの他者とコミュニケーションをするのも、体操をするのも、絵を描くのも、合唱をするのも、合奏をするのも、勉強をするのも、遅生まれの子よりも脳が若いうちに始めることになるのです。


これは実は、早生まれの大きなメリットです。


なぜなら脳の可塑性を、より早いうちから高めることになるからです。脳が若いうちに、いろいろな経験ができるということですね。1年早く難しい問題にチャレンジしていくことになるからです。


結果的に早生まれという状況は、脳の可塑性を高めることにつながるともいえます。思考、判断、記憶などの脳に対する負荷を、周りの子よりも早い段階でしっかりかけていくということは、脳の機能的な側面から見ればかなり大きなプラスなのです。


■脳は徹底的に「コスパ重視」


ここで少し、脳の基本戦略、特に「成長戦略」についてお話をしておきましょう。


脳は、「まず、周囲の環境を受け入れ、次にほとんど使わないものを少しずつ切り捨てていく」という方針を持っています。


若い脳は特に、あらゆる環境に対応できるような柔軟な状態になっています。何においても、小さな子がすぐに覚えてしまうのは、そのためです。しかし、その後、使われなくなったネットワークは少しずつ切り捨てていくと考えられています。なぜなら、そのようなネットワークを脳に持っていても、多くの場合エネルギーの無駄だからです。


脳はコスパ重視なのです。


写真=iStock.com/Sasiistock
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脳は効率重視。周りに存在しない音は、聞こえなくなる言語を例にとって、この性質を説明するとわかりやすいと思います。8カ月くらいまでの赤ちゃんは、どんな言語のどんな発音や抑揚も、完璧に聞き取ることができると考えられています。


しかしそれ以降、周囲から聞こえてこない音は、少しずつ聞き取りにくくなると考えられます。例えば、日本人の「L」と「R」を聞き取るための音感も、磨かれずに落ちていくと考えられます。なぜなら、日本語を母語として育つ場合、「L」と「R」を聞き分ける能力をほとんど使わないからです。


■11カ月の差で同じことを学ぶすごさ


脳の限られたリソースを、使わないものに当てるのは無駄。コスパが悪いのです。


このような、「周囲の環境を受け入れ、次にほとんど使わないものを少しずつ切り捨てていく」という脳の成長は、脳の部位によって違いはありますが、脳が発達する限り続いていきます。


早生まれの子というは、あらゆる物事を、遅生まれの子より、脳が若いうちに取り込むことになります。つまり、「周囲の環境を受け入れる」という戦略がはまる確率が高い、ということがいえるかもしれません。いつでも少し若い脳で、つまり受け入れやすい脳で、物事に取り組むことになるからです。


実際に、その年の4月の子と3月の子が、同じことを学んでいるというのは、すごいことです。早生まれの子は、実は1年先を行っているのです。


■「思い込み」がポテンシャルの足かせに


このように、脳の可塑性という側面で見れば、早生まれの子は遅生まれに対して有利なはずです。もちろん幼少期は、1年という物理的な差と脳の成長の男女差が、表面的な成績の差を生むことはあるでしょう。ただ、高校受験頃になれば、その差は縮まるどころか、早生まれの早期のポテンシャルが発揮されるフェーズに入るのではないかと考えています。


しかし、現状の調査では、そうなっていない。それはなぜなのか。


そこには、心理的な作用がマイナスに働いているのではないかと私は考えます。学年の中で、「遅生まれの子の方が成績がいい」「リーダーは遅生まれの子」という状態に、物心がついたときから置かれることによって、「自分はこんなものかな」と考えてしまう。「後塵(こうじん)を拝(はい)す」ことが、何となく当たり前になってしまっているのかもしれません。


この「思い込み」こそが、本当はすごい早生まれの子が、能力を発揮することを妨げているかもしれないのです。


■「自分にはできない」が悪い結果に


思い込みと成績の関連を示した研究があります。


ここで扱っている「思い込み」は、「女性は男性より数学が苦手」というものです。アメリカの女子大学生を対象にした「ステレオタイプの脅威」に関する調査を確認してみましょう(※1)。


※1 Steven J. Spencer, et al. Stereotype Threat and Women's Math Performance. Journal of Experimental Social Psychology ,Volume 35, Issue 1, January 1999, Pages 4-28.


この調査では、数学のテストの前に「このテストの成績に男女差はなかった」と説明した学生たちと、「このテストの成績に男女差があった」と説明した学生たちの成績を比べています。すると前者より後者の方が、成績が悪かったのです。


女子大学生は、「数学のテスト結果に性差がある」といわれたことで、自らの数学の成績を下げてしまったことになります。これが「ステレオタイプの脅威」です。


「性差がある」と聞いただけで、「女性は数学が苦手」というステレオタイプに自らが囚われてしまったわけです。


■親の何気ないひとことが成績を左右する


子どもに対する類似の調査も行われています。幼稚園から小学校2年生の女児と母親を対象にしたイタリアの実験では、「母親が男児の方が算数は得意と思っているほど、女児の算数の成績が低下する」という関係が見られました(※2)。


※2 Carlo Tomasetto, et al. Girls' math performance under stereotype threat: The moderating role of mothers' gender stereotypes.Developmental Psychology, 47(4), 2011, 943–949


例えば普段何気なく、「お母さんも算数が苦手だったのよ」「男の子は数学が得意だから」といったことを話していると、それが子どもの算数や数学の成績に、実際に影響してしまうということがわかっているのです。


これと同じことが、早生まれで起きているのではないか、というのが私の仮説です。


女子大学生の数学のテストでは、「ステレオタイプの脅威」を取り除けば、成績が向上することがわかりました。ですから早生まれに対しても「ステレオタイプの脅威」を取り除くことができれば、可塑性によって積み増された能力を発揮することができるのではないでしょうか。


写真=iStock.com/PeopleImages
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■ステレオタイプは変えることができる


早生まれの現状は、次のような状況にあります。


可塑性(プラス)<ステレオタイプの脅威(マイナス)

つまり可塑性のプラスが、ステレオタイプの脅威のマイナスに負けているということです。結果として早生まれの方が、成績においても、非認知能力においても、遅生まれに負けているとしたら、もったいないことです。


ここで大事なのは、「早生まれは不利」という、何となく皆が持っているステレオタイプを変えることです。


ステレオタイプというのは、なかなか変えられないと思うかもしれません。


でも、そんなことはありません。例えば日本のジェンダーギャップも、足元においてはずいぶんと変化してきました。


ジェンダーギャップ指数(※3)自体は、「政治参画」「経済参画」「教育」「健康」のうち、「政治参画」「経済参画」が足を引っ張っているために、146カ国中118位と下位に低迷しています。ただ、「教育」「健康」では世界トップクラスで、ほぼ平等を達成しているのです。


※3 ジェンダーギャップ指数:世界経済フォーラムが「男性に対する女性の割合(女性の数値/男性の数値)を発表したもの。ランキングで発表している。


■「生徒会長と言えば男」は過去の話


それは、実際の学校運営や行事を見聞きしていてもわかります。



瀧靖之『本当はすごい早生まれ』(飛鳥新社)

次のお母さんのお話は、その変遷の一例です。


長男が小学生の頃は、運動会の紅組と白組の応援団長も、騎馬戦の両「大将」も、男の子が当たり前でした。6歳離れた二男の小学校最後の運動会では、白組の応援団長だけが男の子で、紅組の応援団長と騎馬戦の2人の「大将」は、女の子でした。中学校では、今や「生徒会長は女の子」が当たり前です。


男の子が団長、大将、会長になるのが当たり前、というステレオタイプは、特に子どもの中では急速に失われているようです。


そうであるならば、生まれ月に関して持っているステレオタイプも、くずれていく可能性は大いにあります。そして、それを積極的にくずしていくのは、この本を読んでいる皆さんになるはずです。


「早生まれはすごい」、「早生まれは成績がいい」、「早生まれは成功する」……、そういうイメージを多くの方が持てるようになれば、「本当はすごい早生まれ」が名実ともに世の中に浸透していくだろうと思うのです。


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瀧 靖之(たき・やすゆき)
東北大学加齢医学研究所教授、医師
1970年生まれ。東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。医学博士。東北大学加齢医学研究所臨床加齢医学研究分野教授。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターセンター長。早生まれの息子の父。脳科学者としてテレビ・ラジオ出演など多数。著書に『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える 「賢い子」に育てる究極のコツ』(文響社刊)など。
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(東北大学加齢医学研究所教授、医師 瀧 靖之)

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