「1~3月生まれは不利」は本当なのか…脳科学者が指摘する「早生まれ」と「遅生まれ」の決定的違い

2025年3月25日(火)10時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

誕生日は子どもにどんな影響を与えるのか。東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授は「1月1日〜4月1日の早生まれの子は、遅生まれの子に比べて相対的に非認知能力が低いという研究結果がある。これは生きていく上で重要な能力であり、この能力をいかに伸ばすかが重要だ」という——。

※本稿は、瀧靖之『本当はすごい早生まれ』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/mapo
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■早生まれの子の学力は低い?


早生まれの子は、不利。


そんな風に思われている方も多いと思います。実際にそれを証明するような研究もあります。2020年に東京大学大学院の山口慎太郎教授が発表した論文は、「早生まれは不利」ということを裏づけるような内容であったため、多くのメディアで話題になりました(※1)。そのため、早生まれが負うとされるハンディキャップに、改めて関心が集まることになったのです。


※1 Shintaro Yamaguchi, et al. Month-of-Birth Effects on Skills and Skill Formation,June 2023, Labour Economics, 84(4).


もしかしたら、その論文を知っていて、本書を手に取った方もいるかもしれませんね。


ただ、論文の読み方にはコツがいるというのも事実です。実際、この論文に対しては、次の部分に注目した方が多かったように思います。


・遅生まれの子どもほど成績が良い。
・学年が上がれば学力の差は縮まるが、差は残る。
・進学した高校の平均偏差値は、3月生まれは4月の遅生まれの子よりも4.5ポイント低い。

確かに、これらの内容に注目すれば、「早生まれの子の学力は低い」ということが証明されてしまったように思えます。


■「早生まれ」と「遅生まれ」の違い


では早生まれの子は生まれつき、学力が低いのでしょうか?


ちょっと落ち着いて考えてみてみれば、そんなことはないということがわかります。4月1日が予定日だった子が、1日遅れて4月2日生まれになったことで、学力が大幅に上がるということはないからです。脳科学の観点からいえば、たった1日の違いで、その子が持つ能力が変わるということはありません。


では、何に違いがあるのか。


それは「早生まれの環境」です。


この環境の違いが「早生まれ」と「遅生まれ」に差をつくっているのです。


では、どのような環境が整えば、「早生まれ」の子を伸ばすことができるのでしょうか。実は山口氏の論文は、この点にこそ注目してもらいたいものなのです。ここに、本書を通じて皆さんにお伝えしていく「早生まれ」を伸ばすヒントがあるからです。


■将来の成功に関わる「非認知能力」とは


論文には、次のような内容が含まれていました。


・遅生まれの子どもほど「非認知能力」が高く、その傾向は学年が上がっても続く。
・早生まれの子どもは遅生まれの子どもより、勉強や読書の時間が長く、学習塾に通う割合が高い。一方、外遊びや運動をする時間や、スポーツや音楽などの習い事をしている割合は低い。
・早生まれの子どもは「先生や友だちから認められていない」と感じていることが多く、対人関係の苦手意識が高い。

ここでポイントとなるのが、最初に登場した「非認知能力」です。


先にあげた3点は全て、この非認知能力に関わります。この能力に注目して調査を見ていくと、違う景色が見えてきます。


早生まれの子が相対的に低いとされる非認知能力とは、どのような能力なのでしょうか。


「認知能力」がIQや学力などテストで測ることができる能力だとすると、非認知能力は、「自制心、意欲、協調性など、テストでは測れない(認知できない)けれども、生きていく上で重要な能力」と一般的に定義されます。


実はこの非認知能力は、「学力に加えて、将来の成功に関わる」ということが研究で明らかになっています。そうであるなら、「非認知能力をいかに伸ばすか」が、早生まれの子の子育てのポイントになりそうです。ちなみに山口氏の調査では、「統制性」「自制心」「自己効力感」という3つを「非認知スキル」として測定しています。


■引け目を感じないように育てればいい


ここで一度、まとめておきましょう。


・認知能力:IQ、学力などの知的な力。知識、技能、思考力などが含まれる。

測ることが可能。勉強や訓練で伸ばすことができる力。


・非認知能力:自制心、意欲、協調性など。自分や感情をコントロールする、目標に向けて頑張る、周囲と協力する力。

測ることができない。親の声かけ、遊び、スポーツや芸術系の習い事、友だちとの関係などによって培われる。


早生まれの子の非認知能力が相対的に低いのは、低年齢では生まれ月による発育の差が大きいため、体格や運動面、活動面、コミュニケーションなど各場面で引け目を感じてしまうことが一因です。


でもそうであれば、その点を伸ばす活動や取り組みに力を入れればいい、ということになります。


写真=iStock.com/Tran Van Quyet
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tran Van Quyet

■塾に通わせて勉強ばかりする“代償”


ご自身が早生まれの場合は、これまで興味を持って取り組んできたことなどを振り返り、どんなことが現在の自分の能力を押し上げたのかを振り返ってみて下さい。親から「勉強しなさい!」といわれながらも、夢中になって続けたバンド活動や部活動が、今のあなたの能力をつくり上げたベースとなっているかもしれません。


調査では、「早生まれの子は、遅生まれの子よりも、長い時間勉強している」ことがわかっています。「塾に通う割合が高い」ということは、親が勉強での遅れを心配して、通わせているということでしょう。


一方で、その他の時間が削られていることも見て取れます。


外遊び、スポーツ、音楽、絵画などの習い事は、非認知能力を伸ばしてくれます。


ピアノ教室に通うかわりに学習塾に所属することは、目の前の成績を上げることにつながるかもしれません。しかし、将来的な成績の伸びを支えてくれるのは、音楽で培う非認知能力かもしれないのです。音楽と学力については、本書の第3章で詳しくご説明します。


■運動は脳を育てることにつながる


外遊びやスポーツ系の習い事は、非認知能力を伸ばすだけではありません。意外に思われるかもしれませんが、運動は直接、脳を成長させることがわかっています。


運動をすると、記憶を担当する脳の中の「海馬」の体積が増えるという調査結果があります(※2)。


※2 Laura Chaddock, et al. A neuroimaging investigation of the association between aerobic fitness,hippocampal volume, and memory performance in preadolescent children. Brain Research, 2010 Oct 28:1358:172-83.


左右に一対あり、タツノオトシゴの形に似ているために、その別名である「海馬」と命名されました。かわいい名前ですが、短期記憶を長期記憶に変えてくれる超優秀な脳の領域です。


出所=『本当はすごい早生まれ』(飛鳥新社)

つまり海馬が発達していれば、それだけ暗記作業が楽になると考えられます。体を鍛えることで海馬が育つのであれば、特に幼い頃の運動は、そのまま脳を育てることにつながります。


早生まれのお子さんの成績を気にして塾探しをする前に、一度「この子を伸ばす方法や習い事が、他にあるのではないか」と考えてみることは無駄ではありません。もしかすると塾に行くよりも、公園を親子で走り回ったり、スポーツをする方が子どもの脳が育つかもしれないのです。


■能力を伸ばすカギは「自己肯定感」


早生まれの子どもは、「先生や友だちから認められていない」と感じていることも、この調査が明らかにしたことです。対人関係の苦手意識も、このような「周囲はわかってくれない」という気持ちに起因しているのかもしれません。


実は、これはとても大きな問題です。


自分のことを大切だと思える「自己肯定感」や、自分が頑張ることで何かを達成できると思える「自己効力感」は、人の能力を大きく左右する要素であることが数々の研究で明らかにされています。


「自己肯定感が高いほど大学の成績が高い(※3)」、「高校生の自己効力感と学力の関係から、自己効力感は学力向上の大きな要因であることが明らかになった(※4)」など、「自己肯定感・自己効力感が高いほど、学力も高い」ということを、これらの研究は示しています。つまり、「人間の能力は、自己肯定感・自己効力感によって左右される」ということです。


※3 Seyyed N. Hosseini, et al. Locus of Control or Self-Esteem; Which One is the Best Predictor of Academic Achievement in Iranian College Students.Iran J Psychiatry Behavioral Sciences, 2016 Mar 15;10(1):e2602.
※4 Shahrzad Elahi Motlagh, et. al. The relationship between self-efficacy and academic achievement in high school students.Procedia - Social and Behavioral Sciences, 15, 765-768, 2011.


早生まれの人の成績が振るわないとしたら、それは自己肯定感・自己効力感が低いからかもしれません。これらの感情の高低は、生まれつきのものではなく、高くもなり、低くもなります。「いかに高い状態にして維持するか」が、分かれ目になるのです。


■早生まれの子には伸びしろがある


「早生まれの人はなぜ不利なのか」という視点で論文を読むと、逆説的に、早生まれの伸びしろがみえてきます。



瀧靖之『本当はすごい早生まれ』(飛鳥新社)

今回の論文から読み取れるのは、「非認知能力を高める子育てをすれば、早生まれの子は伸びる可能性もあるのでは」と考えられることです。


この論文からだけでなく、私自身は、他にも「早生まれは有利」といえる理由があると考えています。脳科学の立場で考えれば、脳が若いうちに多くの刺激を受けることは、プラスのことだからです。


なぜ有利なのかについては、本書を通じてじっくりと説明をしていきたいと思います。


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瀧 靖之(たき・やすゆき)
東北大学加齢医学研究所教授、医師
1970年生まれ。東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。医学博士。東北大学加齢医学研究所臨床加齢医学研究分野教授。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターセンター長。早生まれの息子の父。脳科学者としてテレビ・ラジオ出演など多数。著書に『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える 「賢い子」に育てる究極のコツ』(文響社刊)など。
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(東北大学加齢医学研究所教授、医師 瀧 靖之)

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