肩の可動域は知らぬ間に狭く硬くなっていく…五十肩から「逃げおおせる」ために今すぐ取り組みたい2つの運動
2025年4月1日(火)9時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke
※本稿は、ケリー・スターレット、ジュリエット・スターレット『すごい可動域』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■いつのまにか狭くなっている肩の可動域
肩と、その隣にある首、さらに胸椎(脊椎の中の背中部分で12の骨がある)は、痛くなったり、今までできると思っていたことができなくなったりするまで、ほとんど注目されることがない。
犬と遊ぶためにボールを投げようとしたり、子供を肩の上に乗せようとしたり、頭上にある荷物入れにスーツケースを持ち上げようとしたときに、何かが変だと感じる。そして、腕を伸ばしたり上げたりすることが難しくなっていることに気づく。
水泳やウェイトトレーニングを始めようとしても、最初の段階でつまずくことになる。キャンバス相手に絵を描こうとしても、長く腕を上げていられなくなる。肩の可動域が限られると、セーターを頭からかぶったり、髪を洗ったりするときにも不快感を覚えるようになるだろう(実際、これは、多くの高齢者が体験していることでもある)。肩の可動域を保つ動作を心がけていれば、こうなる未来を避けることができる。
写真=iStock.com/maroke
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首と肩周りの構造は複雑だ。そこにはさまざまな問題が起こり得る。オリンピックレベルの体操選手には肩のリハビリを専門とする人が付いているし、メジャーリーガーの肩と首のトラブルに限定して仕事する医療関係者もいる。
本稿の目的は、肩の基本的な仕組みを学び、取りうるすべての位置に肩を動かせるようにすることにある。つまり、首や肩に起こりやすいトラブルを未然に防ぐことだ。加齢に伴って、すでに、回旋筋腱板損傷や五十肩のような症状が現れている人がいるかもしれない。痛むようになっている肩や首が、この先で紹介するモビライゼーション(関節を動かす動作)をやることで治癒するかどうかは、状態次第になる。改善しないときは、医師を訪ねてもらうしかない。
■あなたの現在の可動域を確認するには
では実際に、今現在の自分の体がどのような状態なのかをチェックしてみよう。肩の可動性を左右する2つの要素を評価する。最初は肩の屈曲だ。
腕を頭上に上げて後ろに動かしたときに、どこまで動くかだ。エンドレンジ(もともと備わっている可動域内で最も遠い点)に近づくかをテストする。2つ目のテストでは、肩の外旋(体の外側への回転)を評価する。こちらは、肩を後ろに回したときにエンドレンジまで動かせるかを問うものだ。
柔軟性がどれだけあるかを測るテストのように思えるかもしれない。しかし、ここで評価するのは、エンドレンジまで達する能力であって、プロの体操選手のような動きをするための能力ではない。どちらのテストも、現時点での可動域を確認すること、その可動域をうまく使いこなせているかを確認することを目的にしている。
1 腕上げテスト
単純に両腕を頭上に上げるよりは少し手が込んでいるが、それでも簡単に試せるテストだ。
●準備
補助具が必要になる。60〜90センチの長さがある塩ビパイプが理想だが、なければ、ほうきの柄などの軽い棒のようなものでも十分だ。それもない場合は、丸めたタオルを使うか、手に何も持たずに行う。
●テスト
床にうつ伏せになり、両腕をまっすぐ伸ばし、両手で塩ビパイプを持つ。親指を天井に向け、パイプを親指と人差し指の間の溝に置く。額と腹を床につけたまま、両腕をまっすぐ並行に伸ばし、親指を立てたまま、両腕をできるだけ高く上げる。“息を吸う、息を吐く”を5回繰り返し、その間、姿勢を保つ。息を止めたり、肘を曲げたりしないようにする。
『すごい可動域』P.123より
■知らぬ間に進む両肩の硬化
●結果が意味するもの
肩周りにどんな感じがしただろうか? このテストをやると、どれだけ両肩が硬化しているか知ることができる。
・腕が上がらない
腕を頭上に上げる機会が少ないことが原因だろうが、肩の可動域が狭い状態にある。モビライゼーションをやるようにすれば、すぐに改善できる。
・床からパイプが上がるものの、維持できなかったり、うまく呼吸したりすることができない
わずかでも動いたことを励みにしよう。努力すれば、少しずつ高くまで上げられるようになる。
・床から3〜5センチ
肩を屈曲させることはできるが、その姿勢が自分のものにはなっていない段階だ。少し疲れているとキープできないかもしれない。練習すれば、エンドレンジに届く。
・床から5センチ以上離れている
すばらしい。肩を屈曲させるうえで何の問題も抱えていない。今の可動域を維持するために、次に説明するウォール・ハングをときどきやってほしい。
そのうえで、週に一度、再テストをしてみよう。
写真=iStock.com/miniseries
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■肩回りの可動域を広げるには
ここでは、2つのモビライゼーションを紹介する。モビライゼーションは、筋力を増強するためのエクササイズではない。関節を動かすことで、圧迫されていた軟部組織(皮膚、神経、筋肉、腱)をほぐし、本来の動きのパターンに体を慣らして、戻すことが目的になっている。
1.ウォール・ハング
壁から離れて立ち、背中を平らにして腰を曲げ、手のひらを平らにして壁につける。頭を両腕の間に入れたまま、肩を外側に回して(肘の内側の窪みが空を向くように腕を回転させる)、壁に“寄りかかる”。そのまま大きく10回呼吸する。呼吸をしながら、背中と胸郭を広げることを意識する。
『すごい可動域』P.135より
2.回旋筋腱板モビライゼーション
ケリー・スターレット、ジュリエット・スターレット『すごい可動域』(かんき出版)
このモビライゼーションが回旋筋腱板(肩甲骨と上腕骨をつなぐ4つの筋肉の腱)に与える効果は顕著だ。床に仰向けになり、膝を曲げる。右肩と上腕が接する点の下にボールを置く。回旋筋腱板にボールがぴったり収まるように、わずかに右側を向く。腕の下にボールを入れないように気をつける。
右腕を横に伸ばし、肘を90度に曲げ、前腕を床に対して垂直にする。ゆっくりと呼吸しながら、ボールの上にある筋肉を収縮させる。次に同じ筋肉を弛緩させる。これを10回行う。そこから、肘を床につけたまま、前腕を前・後ろへと行けるところまで動かす。これを10回、左右を入れ替えて行う。
『すごい可動域』P.136より
これらのモビライゼーションを生活に取り入れて、ぜひ健康な体を手に入れてほしい。
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ケリー・スターレット
理学療法士
ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナルのベストセラーリストに名を連ねる人気作家。オリンピック選手や大学のクラブチーム、NFL、NBA、NHL、MLBの選手などのアスリートのみならず、障害や慢性的な痛みに向き合う子供、会社員に向けて、可動性改善に対する革新的なアプローチを提供している。ジュリエットとの共著に、『ケリー・スターレット式「座りすぎ」ケア完全マニュアル』(医道の日本社)がある。
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ジュリエット・スターレット
アスリート、弁護士、起業家
母親として、そして非営利団体「スタンダップキッズ」の創設者として、座りすぎのライフスタイルに対して警鐘を鳴らし、あらゆる公立学校の子供たちにスタンディングデスクを提供できるよう尽力している。1997年〜2000年まで、パドリングのプロスポーツ選手として活躍し、米国エクストリーム・ホワイトウォーターのチームに所属。2度の世界選手権タイトルと、5つの国内タイトルを獲得。
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(理学療法士 ケリー・スターレット、アスリート、弁護士、起業家 ジュリエット・スターレット)