フジテレビはもう解体するしかない…「第三者委が公表した生々しいやりとり」に元テレビ局員が抱く既視感

2025年4月1日(火)16時15分 プレジデント社

フジテレビ本社ビル=3月31日午後、東京都港区 - 撮影=石塚雅人

元タレント・中居正広氏の性加害を認定するなど、フジテレビの第三者委員会の報告書が波紋を広げている。元関西テレビ社員で、神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「報告書からはハラスメントが蔓延する社内風土が読みとれた。中でも1月17日に行われた港浩一社長の『紙芝居会見』に至る機能不全を見ると、もはや『フジテレビ解体』が現実味を帯びてきた」という——。
撮影=石塚雅人
フジテレビ本社ビル=3月31日午後、東京都港区 - 撮影=石塚雅人

■「経営判断の体をなしていない」


A4で394ページに及ぶフジテレビの第三者委員会の調査報告書は、驚きに満ちていた。


冒頭で、これまでプライバシーや人権保護を理由に、フジテレビの社員だったかどうかさえ明らかにされていなかった被害者について「女性Aは、元CXのアナウンサーであり、CXに入社して数年後に退職している」(報告書18ページ、以下ではページ数のみを示す)と明記された。


なにより、2023年6月2日に「女性Aが中居氏によって性暴力による被害を受けたものと認定した」(27ページ)との一文は、最大の衝撃と言えよう。「トラブル」としか伝えられてこなかった真相が、女性Aの同意によって、つまびらかにされたからである。


性加害に至るまでの経緯や、その後の対応は、まさに「経営判断の体をなしていない」(61ページ)。港浩一社長と大多亮専務(いずれも当時)ら3人の誤った認識、さらには、加害者の利益を優先させる姿勢は、二次加害であり、言語道断というほかない。


私は、今年1月17日のフジテレビの記者会見をうけて「もはや『フジテレビ解体』は避けられない」と書いたが、今回の報告書を読んで、その思いをあらたにした。なぜなら、報告書で解明された、あの会見に至る経緯が、同社の機能不全を象徴していたからである。


■なぜ「わずか1カ月」で噂が広まったのか


まず、情報管理が甘すぎる。


報告書では、初期対応について「女性Aの心身の状況を考慮し、業務遂行及び情報共有範囲について当面の希望を確認」した点などを「適切に対応を進めた」と評価している(54ページ)。


しかし、女性が2024年8月末に退職してから、わずか1カ月ほどあとの10月上旬には、その離職と中居氏との関係についての噂が、「CXバラエティ制作の現場や関連する制作会社などの間で」広まり始めたという(62ページ)。


情報共有範囲を、かなり限定したまま退職したにもかかわらず、瞬く間に伝わっている。港社長(当時)が「外部に漏れたらまずい、絶対に口外するな」と強く指示していた(40ページ)のに、あまりにも保秘が弱すぎないだろうか。


もっとも、コンプライアンス推進室にすら報告しなかった理由について、編成局長は「コンプラにいる人間がそれを聞いて情報拡散しないか不安に思った」と述べている(32ページ)くらいなので、同社では、秘密を守るべき人間であっても、いや、そういう人たちのほうが口は軽いとの認識だったに違いない。


■「とにかく色々しゃべったりしないほうがいいからな」


制作会社にまで噂が伝播していたのに、コンプライアンス担当役員だった遠藤龍之介副会長(当時)には、2024年10月末になっても、知らせてもいない。


情報管理がゆるいくせに、というよりも、ゆるいから、きちんとしたラインで伝えようとの意識が欠如していたのではないか。事態を把握して、適切に対処するには、何よりも情報を共有しなければならない。フジテレビは、報道機関でもありながら、情報の扱い方が、きわめて甘かったのではないか。


その甘さを象徴するのが、週刊誌からの取材への対応である。


なかでも、今回の性暴力が、「CXの『業務の延長線上』で発生した」(53ページ)との第三者委員会の認定理由のひとつとなった、中居氏所有マンションでのBBQに誘ったB氏と、港社長(当時)の会話には、あきれるしかない。


女性セブンや週刊文春が取材に動いている最中の2024年12月15日、2人はゴルフに行っている。それだけでも、あまりの呑気さに脱力するが、港社長による「お前のところにも文春が来たのだろう。とにかく色々しゃべったりしない方がいいからな」との「忠告」(67ページ)は、この期に及んでも、事態の深刻さをまったく認識していなかった証拠にほかならない。


撮影=石塚雅人
港浩一社長(当時)=1月27日午後、東京都港区のフジテレビ - 撮影=石塚雅人

■危機管理対応よりもゴルフを優先


港氏の「ゴルフ愛」は、加速する。


週刊文春の記事が出た12月26日の翌日・27日に、フジテレビは、会社として中居氏へのヒアリングを行う。ただ、同社の仕事納めは26日で、27日は休業日にあたるため、港社長(当時)は、以前から約束のあったゴルフに出かけている。


相手は、親会社フジ・メディア・ホールディングスの社外取締役であり東宝会長の島谷能成氏、フジサンケイグループ内企業の社長、そして、大手芸能プロダクションの社長である。


報告書には、ゴルフ場でのカートの移動中に、港氏から島谷氏に対して文春報道が「全くのでたらめですよ」と言い放った旨が記載されている(76ページ)。そして、ヒアリングに立ち会わずにゴルフに出かけたばかりか、多摩市で食事を済ませ、島谷氏らと別れたあとには、銀座に移動して飲食している。


文春砲はフェイクニュース、との立場なのだから、港氏にとって、危機管理対応よりもゴルフや銀座を優先させるのは、当然である。中居氏へのヒアリングをもとに、ウェブサイトでの同社のリリースを検討する社員たちに、酒席から「アルコールが入っていると思われる状態で、意見のやり取りを継続」(77ページ)する程度で良かったのである。


トップの社長が、こうした態度なのだから、あの会見は、必然の帰結ではないか。


■港社長(当時)が行った「紙芝居会見」の真相


記者会見を2025年1月17日に開くまでも、紆余曲折があったと報告書は記している。その右往左往ぶりも、同社の体たらくを如実に示す。


しかし、かつてフジテレビ系列の関西テレビの報道部門で働いていた私にとって、報告書を読んで、もっとも滑稽に感じたのは、この会見の「真相」をめぐる見解の相違である。


フジテレビ報道局の平松秀敏編集長は、あの紙芝居会見について、フジテレビ系列各局との会議の席で、次のように発言している


私は多分、記者会見で経営陣がカメラの前で醜態をさらすのがイヤだから(会見を)クローズドにしたんじゃないかと、僕個人は真相をそうみています。だから経緯、本当に何があったのか、私は社員でフジテレビの人間ではあるが、ぜひ第三者委員会に明らかにしてほしい

平松氏が期待していた第三者委員会の報告書によれば、その「真相」は、「人権侵害の恐れ」であり「被害者に対する人権侵害を回避することを優先する」ためであった(85ページ)。港氏が、1月27日の2度目の記者会見でも何度も強調した点である。


写真提供=共同通信社
テレビカメラの撮影を禁止した結果、「紙芝居のようだ」と揶揄された会見の様子=1月17日午後、東京都港区のフジテレビ - 写真提供=共同通信社

■報道局長の「進言」?


また、平松氏と同じ席で、報道局長の渡辺奈都子氏は、「事前にクローズの形だということを聞きつけまして、私だけじゃなく、言うべき声を上げたり、進言した者はもちろん多くいるんですけども、それでも覆らなかった」と反省している。


報告書では、渡辺局長が、石原正人常務(当時)に対して、「せっかく苦労なさって会見するのに非難轟轟になってしまったら残念だと思うのです」と当日の午前9時41分にショートメールを打ったと書かれている(86ページ)。


これのどこが「言うべき声を上げたり、進言した」姿なのだろうか。上司に敬語を使い、懸念を示しているに過ぎないのではないか。


さらに、同社の夕方のニュース番組「Live News イット!」における記者会見の「謝罪」表示について、港氏が怒った。そう、報道担当取締役を通じて伝えられると、報道局全体で、ニュースの表記を「説明」に修正している(89ページ)。


平松氏も渡辺氏も、一見すると上層部に厳しい姿勢を見せているものの、報告書を読む限り、その本音が、どこにあるのか、わからなくなる。


■「フジテレビ解体」の現実味


平松氏が、かつて、日枝久氏の指示でライブドアのあら探しをしていた人物であると報じられているAERA 2025年2月10日号)からといって、いまだに「フジテレビの天皇」に媚を売っているわけではあるまい。


けれども、フジテレビ系列の報道部門の人間ならば、ふたりのことばに何らかの意図を読み取っても不思議ではない。それは、ふたりが「反省」の弁を述べた会議で、長野放送の担当者が指摘している「ローカル局を軽視する」風土である。


系列局には、口先だけで謝る姿勢を見せておけばいい。そんな、いまだに見下した思いを読み取るのは、関西テレビにいた私の被害妄想なのだろうか。


とはいえ、関西テレビも同じ穴の狢だった。フジテレビ社員の処分の、社内イントラへの掲示が、わずか1日8時間限定なのは、「マスコミ対策という意味がある」と報告書にある(163ページ)。


関西テレビにかつていた、ハラスメント常習犯への処分への対応と、まったく同じだったから、私は鈍感になっており、さもありなんと思うばかりだった。ただ、フジテレビほどにはハラスメントが蔓延していなかったと信じたい。


ことほどさように、社長からコンプラ部門や報道部門に至るまで、その役職で果たすべき当事者能力を失っている。その姿は、報告書によって、よりいっそう明確になったのではないか。


今回の報告書と、それに関連するフジテレビの対応を見れば見るほど、もはや「フジテレビ解体」は、現実味を帯びていると言わざるを得ない。


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鈴木 洋仁(すずき・ひろひと)
神戸学院大学現代社会学部 准教授
1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。
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(神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁)

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