イオン、アパ、星野リゾート、NTTデータ…続々参入する異業種企業が手掛ける不動産活用を通じた新しい価値創造とは
2025年3月28日(金)4時0分 JBpress
日本のGDP(国内総生産)の実に22%を占める、建設・不動産・住宅の3業界。日本経済を支えるこれら巨大産業が、今「変革のタイミング」を迎えている。本連載では『「建設業界」×「不動産業界」×「住宅業界」Innovate for Redesign』(篠原健太著/プレジデント社)から、内容の一部を抜粋・再編集。異業種に比べてDXやGXの面で後れを取る3つの業界に求められている、産業構造の「リデザイン」について考える。
今回は、不動産開発の資金調達方法の多様化、異業種企業の参入による不動産を活用した新しい価値創造など、最新動向について解説する。
新たなる資金調達法を手にして、異業種からの参入に対抗する
不動産開発における資金調達法は、ますます多様化しています。REIT(不動産投資信託)も普及し、現在、上場REIT数は50を超えます。
また、事業者が投資家を募って資金を集め、共同で不動産投資を行う「不動産クラウドファンディング」もかなり浸透してきているのです。
特にCREALは自社でファンドを保有し、他社物件も取り扱うことで、市場においてポジションを確立しています。
しかしながら、大手のデベロッパーについては「小口投資を募る旨味」がマーケティング観点以外にあまりないため、参入が進んでいない状況です。
さらに不動産投資の新しい選択肢として、ブロックチェーン技術を活用した「不動産セキュリティ・トークン」と呼ばれる、デジタル化された金融商品(有価証券)も登場しました。
そして、この不動産セキュリティ・トークンを活用した資金調達法を「不動産STO(セキュリティ・トークン・オファリング)」と呼ぶようになっています。そして、2024年8月時点で30強の物件からセキュリティ・トークンが発行されているのです。この普及に向けては「Progmat」や「ibet for Fin」などが、複雑なブロックチェーン領域において、プラットフォーマーとして活動しています。また、東京都はセキュリティ・トークン普及に向けた助成金を用意しているのです。
これらの資金調達法に共通するのは、いずれも個人投資家らから小口で出資を募ることです。幅広く資金を集めることで、不動産開発における資金調達の難易度が下がってきました。
このように、多くの投資家から資金を集めやすくなったことで、不動産開発の幅が拡がり、可能性が高まってきている状況だといえます。
一方で、市場が成熟していないため、投資家が足踏みしているのも事実です。たとえば、不動産クラウドファンディングは市場やルールが形成される前に、ある意味、無法状態の中で多くのプレイヤーが参入してしまったことで、ありもしない利回り表現がされていたり、行政処分を受ける商品が発生したりとマイナスイメージがついてしまっているのです。
この市場イメージを覆すためには、行政のルールメイキングの動きを待っていては市場の好機を逃してしまうかもしれません。
「不動産」と「金融」が絡み合う領域であるため、早期に「安心」「信頼」を投資家に向けてアピールすることが必要です。「創成期」の市場であるからこそ、誰かがやってくれるという他責思考ではなく、事業者側が競争をしながらも、一体となって手を取り合い、早期に公平・公正なルールメイキングを主導することが必要です。
実際に民間主導で「不動産クラウドファンディング協会」も立ち上がり、業界全体への啓発活動を進めています。ここからは、ブランド力のあるデベロッパーの参入を促すことなども進めていかなければならないでしょう。
その中では、NISAとの明確な差別化を行いながら投資家・プレ投資家に対して健全な啓発を進めていく必要があるかもしれません。
とはいえ、小口投資市場は実際には拡大を続けており、事業用不動産の市場に大きな変化をもたらし始めています。
その一つが異業種からの参入です(下図10)。
たとえば、REITを活用して物件を保有し、不動産活用の幅を広げる事業者が続々出てきています。つまり、運営サイドによる不動産活用の多角化が進んでいるのです。代表例でいうと、イオンが商業施設を所有し、小売り特化の企画・開発・運営を行っています。
また、星野リゾートやアパグループはホテルを持ち、宿泊特化の企画・開発・運営を手がけているのです。
さらに、医療・保健・福祉・介護のヘルスケア分野で事業展開するシップヘルスケアHDは、医療・福祉特化の企画・開発・運営を行っています。
図10 運営サイドによる“不動産活用の多角化”
こうした動きが何を意味するのかというと、前項でデベロッパーは不動産オーナーだけではなく、その先のエンドユーザーである入居者やテナントに目を向けることが重要だと指摘したように、イオンや星野リゾートなどの企業は、まさにエンドユーザーに密接した専門家なのです。
ですから、これらの企業は不動産の付加価値向上に非常に長けています。だからこそ、不動産会社が自社開発でショッピングモールを運営したり、ホテル事業を営んだりするよりも、こうしたイオンやアパグループのような企業が運営したほうが、高い収益力を発揮するであろうことは明らかでしょう。
このように、異業種の企業が不動産活用で新しい価値創造を提供する動きは、今後ますます増えていくと予想されます。
実際に2024年には、NTTデータがデータセンターREITの参入を発表しています。自身のオフバランスの文脈もあるものの、実際のデータセンターの運営にも携わるNTTデータだからこそ、データセンター需要を反映させたREIT運用をすることができるようになっています。
■ 異業種からの参入の脅威に備えよ
不動産オーナーではなく、エンドユーザーを重視し、そこに特化したプロフェッショナルが不動産事業に参入してくるというこの動きは、既存の不動産会社やデベロッパーからすると相当な脅威になります。
既存の不動産会社やデベロッパーが、従来のように不動産オーナーばかりに目を向けていては、とうてい太刀打ちできないでしょう。
とはいえ不動産業界で、本質的にその脅威に気がついている企業がどれだけあるのかというと、はなはだ心もとない状況です。現状は、まだまだオーナー重視の姿勢に変化が見られません。
しかし早晩、エンドユーザーに目を向けなければいけないときがやってきます。ただ、そのときには、市場のかなりの部分を異業種の企業に占有されている可能性があります。
あらためて、不動産オーナーだけではなく、その先のエンドユーザーに目を向けた付加価値向上に力を入れていくことが重要だと指摘しておきたいと思います。
他方で、資金調達法の多様化によって、不動産会社やデベロッパーは新たなビジネスチャンスが期待できる面もあります。
たとえば、これまで投資用マンションの一室を所有するオーナーは、仮に毎月10万円の利益を得ていたとして、基本的にそれを預貯金として寝かせているケースが多いのが実態です。そこでマンションの開発業者が不動産セキュリティ・トークンを活用して、仮に1000人のオーナーから100万円を集めたら、10億円になります。開発業者がこの資金を運用する仕組みをつくることも考えられるのです。
オーナー一人で月10万円の原資では何もできなかったかもしれないですが、同じマンションのオーナーたちが集合型で運用していくことによって、大きく資産を増やしていくことも可能になるでしょう。
これは資金調達方法の多様化の恩恵の一つだと思います。資金調達法の多様化は、不動産業者、デベロッパーにとって大きなビジネスチャンスになると理解して、早急に動いていくことが必要でしょう。
■ アントファイナンシャルから見る、個人の新たな資金調達手段
現在、金利が高くなっている中で、個人の融資枠が小さくなる恐れがあります。デベロッパーからすると、いかに属性の良いオーナーを見つけて販売するかという勝負になってきますが、視線を海外に向けると違った事例が出てきています。
その代表例の一つが、アントファイナンシャル(現在は「アントグループ」)でしょう。アリババの子会社であり世界最大のオンライン決済プラットフォームである「AIipay」を運営していることで広く知られています。
彼らは、決済プラットフォーム上の公共料金や電話料金の支払い状況や遅延状況など、あらゆる決済データをビッグデータで解析することで、個人の信用力を可視化する取り組みを始めています。
実際にスコアリングデータをもとに融資をした際の貸し倒れリスクは、これまでの10分の1まで下がったと聞いています。
このように勤続情報や年収などの狭い情報だけではない膨大なデータに基づく個人の信用力の可視化が実現されれば、金融機関の融資枠を拡げることも可能になり、新たな市場を創造することが実現できるでしょう。
国内のオンライン決済プラットフォームと組む、オーナー・入居者の返済・支払い状況からのスコアリングを試みる、といった具合に可能性は大いにあるはずです。自社で金融業に参入する、金融機関に融資枠を売るなど、その手段も多様だといえます。まだ国内に目立った動きが見られる状況ではないですが、注目をしたい領域であることは間違いないでしょう。
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筆者:篠原 健太