「アカウントフォローだけで現金が当たる」は詐欺である…SNSの「お金配り企画」に応募してはいけない理由
2025年4月4日(金)18時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Thx4Stock
※本稿は、櫻井裕一・高野聖玄『匿名犯罪者 闇バイト、トクリュウ、サイバー攻撃』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■美男美女からの「フォロー申請」に要注意
ロマンス詐欺は、SNSやメッセージアプリを通して相手の感情を操り、金銭的な搾取を目的とする犯罪で、日本に限らず世界中で深刻な被害を生んでいる。
特徴的な手口は、SNSの偽装されたプロフィール(闇アカウント)を用いて、フレンドリクエストやフォロー申請を通じてターゲットに接触することから始まる。繋がりが生じたら、恋愛感情を装いながら、ターゲットの心を巧妙に引き込むやり方だ。ロマンス詐欺は、被害者の恋愛感情や信頼を得ることで、経済的な援助を引き出すことに目的がある。
写真=iStock.com/Thx4Stock
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ロマンス詐欺の多くは、国際的な犯罪者グループが関与していることが知られており、特にナイジェリアを拠点とする「ナイジェリア詐欺」と呼ばれるグループが有名である。犯罪者グループは、魅力的な外見や成功したキャリアを持つ人物を装い、フェイスブックやインスタグラム、Xなどで、何気なくターゲットに接触してくる。初めは何気ないやり取りを続け、徐々に親密な関係を築き上げることを狙うわけだ。
■仲良くなったころに「金銭的な援助」を求めてくる
やがて、一定の信頼関係が芽生えた頃に、メッセージに「緊急の医療費が必要」「ビザの手続きで資金が必要」など、金銭的な援助を必要としている状況を匂わせてくる。巧妙なのは、感情に訴える言葉だけでなく、話の信憑性を高めるための偽造文書や写真なども用い、被害者の心に揺さぶりをかけてくることだ。
この時点において、もし被害者に何らかの感情が芽生えていると、相手が困っているという強い思い込みや、関係を壊したくないという心理から、多額の送金に応じてしまうケースが出てくるのだ。
■ChatGPTが書いた「ロマンス詐欺」のシナリオ
ロマンス詐欺の手法には、男女の出会いを装った手口以外にも様々なバリエーションが存在する。たとえば、「王族の縁者」や「国際的なビジネスパーソン」を装う投稿ややり取りを繰り返しながら、ターゲットの信用を得ようとするものなどだ。共通するのは、巧妙に作られたシナリオによってターゲットを欺き、最終的には感情的にも経済的にも大きな被害を与えることだ。
代表的な手口とはどんなものか。左記は、最新のAIエンジンである「ChatGPT」に、ロマンス詐欺の典型的なシナリオについて作成してもらったものだ。
ある女性がインスタグラムで海外在住の男性からフォローリクエストを受けました。その男性はプロフィールで「国際的な企業のエンジニア」と名乗り、高級車や豪邸の写真を投稿して成功者を装っていました。女性がフォローを承認すると、すぐにダイレクトメッセージで接触がありました。
メッセージのやり取りは丁寧で温かく、男性は「仕事で忙しいが、あなたと話す時間は特別だ」と言い、頻繁に連絡を取るようになりました。やがて男性は「真剣に将来を考えている」と語り、女性に特別な存在であると感じさせます。
数週間が経った頃、男性は「出張先で予想外のトラブルが発生し、緊急で送金が必要だ」と相談を持ちかけました。「銀行口座が一時的に凍結されてしまい、助けてくれるのは君しかいない」と訴えたのです。
女性は彼を信じ、数十万円を指定された海外の口座に送金しました。しかし、送金後に男性は「問題が解決するまで少し時間がかかる」と連絡してきたのを最後に、突然音信不通となりました。後日、彼のプロフィールや投稿写真が全て偽物であることが判明し、女性は自分が詐欺に遭ったことを知ります。
■「金を要求するメッセージ」はすべて詐欺
最近のAIエンジンはこれほど論理的で分かりやすい文章を作成できるまでになった。上記の例は、海外の犯罪者グループが日本人をターゲットに、日本語で言葉巧みにコミュニケーションを行うことも、AIエンジンを使えば簡単にできることの裏返しでもある。
ロマンス詐欺への対策は、SNSでの知らない相手とのやり取りには慎重を期すことに尽きる。出来すぎたプロフィールや、早期に親密な関係を求めるメッセージには特に警戒が必要だ。金銭を要求されるものについては、はっきり言えば全て詐欺である。早急にメッセージのやり取りを中止し、その相手のアカウントをブロックするしかない。
とはいえ、普段からどれだけ気をつけても、ふとした瞬間に詐欺に引っ掛かってしまうこともあるだろう。実際、警察庁の統計によると、SNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況は、SNS型投資詐欺の認知件数が前年同期比で4037件増の5939件、被害額が同569.8億円増の794.7億円、ロマンス詐欺の認知件数が同1921件増の3326件、被害額が同193.7億円増の346.4億円と大きく増加している(※)。そして、一人当たりの被害金額が1000万円を超えるケースが多いというのも、この詐欺の特徴だ。
(※)警察庁:令和6年11月末におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について
■もしもロマンス詐欺に遭ったら
では、被害に遭った場合は、どうすればよいのか。もちろん、まずはすぐにでも警察に相談するのが望ましいが、被害額を回復するには、投資詐欺やロマンス詐欺に関する被害者支援を専門にする弁護士を通じて、騙し取られた金銭の回収を試みる方法もある。
SNS型投資・ロマンス詐欺に詳しい、ひかり総合法律事務所の葛山弘輝弁護士が解説する。
「詐欺の被害回復を図るには、まずは何より騙し取られた財産が、どこに移されたかを追う必要があります。この手の詐欺では、主に銀行振込か暗号資産送金によって被害者は財産を奪われるのですが、銀行振込であれば振込先口座の凍結、さらには移転先口座の追跡と凍結をいかに早く実施できるかが鍵となります。
犯人側の口座を凍結するためには、警察に被害相談を直接行うか、弁護士を通じて申請するのが早いでしょう。当然、犯人側も振込先の口座が凍結されるリスクは認識しているので、そこはスピード勝負です。ただ、SNS型投資・ロマンス詐欺は海外の犯罪者によるものが大半なので、窃取された財産の流れは、被害者口座→日本の振込先口座(闇バイトなどによって売られた口座)→別口座(複数の場合も)→各種換金手段(地下銀行・暗号資産の私的取引・グローバルな収納代行サービスなど)→犯人側の海外口座となります」
■暗号資産で詐取されると取り返すのはほぼ不可能
「そこで、各段階にある日本国内の口座を凍結することで、場合によっては被害金額の回復が、一部かもしれませんが可能になります。実際、過去の事例として、1000万以上の被害回復がなされたケースもあります。ただし、現状において暗号資産送金によって窃取された場合は、被害回復がされた事例はまだありません。暗号資産はブロックチェーン(分散型台帳)によって管理されているので、被害者が送金した暗号資産の多くが海外の暗号資産取引所に送られていることまでは追跡可能なのですが、その暗号資産取引所が口座凍結にも送金先名義の開示にも応じないため、そこで行き詰まってしまうのです。
そういう意味において、犯罪に利用されたSNSや広告配信のデジタルプラットフォーム、LINEなどのメッセンジャー、銀行、暗号資産取引所など、犯罪者側の情報を有している先に対して、履歴等の情報開示を適切に求めるための制度運用を、今後どう強化していくかが国家的な課題とも言えます」
■SNSの「現金バラマキ企画」に潜む危険
SNSならではの詐欺として、「現金バラマキ詐欺」というものがある。
現金バラマキ詐欺が広まった背景には、著名人やインフルエンサーが行うプレゼント企画が大きく影響していると考えられる。近年、多くの著名人やSNSで影響力を持つインフルエンサーらが、フォロワーを増やすために、現金や高額商品をプレゼントする企画を実施している。現金や高額商品をプレゼントすることに、応募者が特定の投稿を拡散したり、フォローしたりする条件を課して、自らのSNSでの影響力を拡大することを狙った戦略だ。
こうした手法は、正規のキャンペーン企画であれば、主催者とフォロワーとの信頼関係を深める有効な方法とも言えるが、犯罪者グループにとっては格好の模倣対象となった。著名人やインフルエンサーを装い、実際には存在しないプレゼント企画を餌に悪事を働く犯罪者グループがいくつも出現したのだ。
この現金バラマキ詐欺は、単に金銭を騙し取るだけではなく、個人情報やクレジットカード情報を不正に取得したり、情報商材の購入に誘導したりするなど、様々な目的を持つ詐欺手法だ。SNSで「抽選で○○万円をプレゼントします」「フォローして応募するだけで現金がもらえます」といった甘い誘惑の投稿の裏には、こうした危険が潜んでいるので注意が必要である。
写真=iStock.com/ersler
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■「バラマキ詐欺」の3つの狙い
現金バラマキ詐欺にはいくつかの目的があると書いたが、大別すると次の通りだ。
①個人情報の取得を目的とするもの
詐欺師は応募条件として、DMやLINEなどのメッセージアプリを通じて、詳細な個人情報を送るよう求める。たとえば、名前、生年月日、性別、住所、銀行口座番号、電話番号、メールアドレスなどだ。場合によっては、登録などと称して、パスワードの入力を求めることもある。
ここに普段他に使っているパスワードを入力してしまえば、不正アクセスに使われるだろう。これらの情報は、犯罪者グループにとって金銭に匹敵する価値を持つものであり、新たな詐欺に転用されたり、サイバー闇市場で売買されたりすることがある。
②クレジットカードの不正利用を目的とするもの
犯罪者グループは、当選した賞金や商品を受け取るための「認証手続き」に必要などと称して、ターゲットにクレジットカード情報を入力させることもある。もし、クレジットカード情報を伝えてしまえば、不正利用されて、身に覚えのない請求の発生に繋がる。また、その場でクレジットカードから他のポイントなどを購入させられるケースもある。
③情報商材や高額な契約を目的とするもの
一度「現金が当選しました」と信じ込ませたターゲットに対し、「お金を受け取るためには特定の商品やサービスを購入する必要がある」として、高額な情報商材などを売りつける手法もよくみられる。これらの情報商材には実質的な価値などなく、現金の当選はターゲットを誘導するための入口として使われる。
■お金配り企画に安易に応募した人の痛すぎる代償
こうした現金バラマキ詐欺がSNSで広がる背景には、大規模な現金プレゼント企画が実際に行われたこともあるため、受け取り手が「本物かもしれない」という期待を抱きやすくなっている面もあるだろう。くわえて、一度でも有名人風のアカウントによって投稿が広められると、真偽を確認せずにリポストやシェアを行うユーザーが多くなる、SNSの持つ構造的な仕組みも大きい。
だが、「簡単にお金を手に入れたい」という欲望や、「みんなが応募しているから自分も」といった同調心理によって、甘い誘いに手を出す代償は、単に個人情報や金銭を窃取されることだけにとどまらない。
■いつの間にか詐欺の片棒を担がされていた
こうした現金バラマキ詐欺のアカウントの裏には、特殊詐欺グループなどが潜んでいることも少なくないからだ。警察関係者が説明する。
「現金バラマキ企画に応募した被害者の口座が、特殊詐欺グループの資金洗浄に使われて凍結されるケースもあります。まず、特殊詐欺グループは、SNSで現金バラマキ企画を大々的に告知します。そして、そこに応募してきたターゲットに対して、偽の当選通知をDMなどで送る。それに喜んだターゲットが返信をしてきたら、現金を振り込むためと言って、名前や住所、電話番号、銀行口座などを送信させます。
櫻井裕一・高野聖玄『匿名犯罪者 闇バイト、トクリュウ、サイバー攻撃』(中公新書ラクレ)
そして後日、その聞き出した口座に、当選金額よりはるかに多い額を入金してから、ターゲットには『誤入金してしまった』と連絡します。それで、『一部を謝礼として渡すので、現金で返してもらえないか』などと伝え、回収役の人間を使って手渡しで残りを取り戻す流れです。
実はその裏で、その被害者の口座は、特殊詐欺の別の被害者からの送金先になっており、誤入金したとされる当選金は、別の被害者から騙し取ったカネなわけです。特殊詐欺で一番捕まりやすいのは、ATMの監視カメラに顔が映る出し子です。摘発が増えたことで、その出し子のなり手も減ってきていると言われています。
それで、まったく関与していることに気づかない第三者を使う手口が生まれたのだと考えられます」
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櫻井 裕一(さくらい・ゆういち)
元警視庁警視・危機管理専門家
1977年に警視庁入庁後、一貫して組織犯罪対策に従事。反社会的勢力、外国人犯罪集団、違法薬物犯罪集団等、組織的に行われる数々の犯罪現場で捜査の指揮を執る。新宿署、渋谷署で組織犯罪対策課の課長も経験。2018年、警視庁組織犯罪対策部第四課にて警視をもって退官。2020年にサイバーセキュリティ会社Steam Research&Consultingを設立、代表取締役CEOに。
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高野 聖玄(たかの・せいげん)
サイバーセキュリティ専門家
1980年生まれ。ITエンジニア、編集記者等を経て、2016年から2021年までサイバーセキュリティ企業スプラウトの代表取締役。2022年よりリスクコントロール会社、STeam Research & Consulting(https://www.steamrc.jp/)の取締役COO。著書に『匿名犯罪者 闇バイト、トクリュウ、サイバー攻撃』(2025年、中公新書ラクレ)、『闇(ダーク)ウェブ』(共著、2016年、文藝春秋)、『フェイクウェブ』(2019年、文藝春秋)。
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(元警視庁警視・危機管理専門家 櫻井 裕一、サイバーセキュリティ専門家 高野 聖玄)