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上場企業75%の所要時間が「60分以下」…株主総会の形骸化の背景にある、日本の「不幸な歴史」とその後遺症とは?

2025年3月31日(月)4時0分 JBpress

 今日の株式会社の原型とされる「英国東インド会社」が設立されて400年あまり。地球レベルでの気候変動や人権問題、続発する紛争など、世界が大きく揺れ動く現代において、株式会社は社会とどう向き合っていくべきなのか。本連載では『会社と株主の世界史 ビジネス判断力を磨く「超・会社法」講義』(中島茂著/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。「株式」を巡る歴史をひもときながら、これからの株式会社の在り方や課題を考える。

 今回は、日本で株主総会が活発化しない理由について、一つのきっかけとなった「銀行・4大証券事件」の振り返りや、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイとの比較を交えながら考察する。


株主総会の「不幸な歴史」

(2)立法による対策と、企業側の対策

① 決して許されない「利益供与」

 株主総会は、会社の所有者である株主たちが集まって、会社の将来、自分の株式価値にとって何がよいことなのかを真剣に考えて審議し、投票する場です。会社は、株主は自由に質問し、意見を述べ、投票できるように保障しなければなりません。これを総会に関する「公正運営の原則」といいます。

 会社法はこの原則について、前述したように「総会の招集手続きや決議方法が…著しく不公正なときは、その決議は取消すことができる」と規定しています(831条1項1号)。不公正な方法で決議された事項は、後々裁判で「取消し」になってしまうのです。

 もし経営側が、自分たちに有利に総会が運営されるように特殊株主などにお金を出して頼むなら、それは「利益供与」であり、「公正運営の原則」に反するものです。他の株主全員に対する裏切り行為であり、決して許されないことです。

 ところが日本では、先に述べた特殊株主らが活動する時代は1990年代まで続いていたのです。しかしそうした状況は1980年代から批判の的となり、国際的にも話題となりました。そこで、立法、刑事司法による対応と企業側の自助努力とで、多大な時間と労力をかけて対応し、次第に是正が進んできました。その結果、やっと今日の正常な株主総会の状況になったのです。

② 立法の対応

 立法の対応としては、1982年施行の改正商法で、総会に関して経済的利益を提供することが罰則をもって禁止されたのが最初です(「利益供与罪」6月以下の懲役刑)。利益供与が犯罪であることが明確に示されました。同時に「単位株制度」が導入されました。

 単位株、たとえば「1000株」以上を持った株主でなければ株主総会への出席も議決権行使もできないという制度です。この制度は特殊株主対策として大きな効果を発揮しました。

 利益供与罪は、その後、1997年に罰則が強化されました(3年以下の拘禁刑)。同時に利益供与を要求する罪「利益供与要求罪」が新たに制定されました(3年以下の拘禁刑)。脅しながら要求すれば5年以下の拘禁刑です。このときから、特殊株主らが「利益を提供しろ」と求めるだけで犯罪になるとされたのです。

③ 刑事司法の対応

 刑事司法の対応で最もインパクトがあったのは、1997年に明るみに出た「銀行・4大証券事件」です。日本を代表する銀行や4つの証券会社が「特殊株主」に対して多額の利益供与をしていたことが報じられたのです。

 この件では銀行と4つの証券会社で合計36人の役員が逮捕され、69人の役員が辞任しています。このことにより金融界ばかりではなく、日本の経済界全体が深刻な衝撃を受けました。利益を受け取っていた側の人物は刑事裁判で懲役9月の実刑判決を受けました。裁判所で認定された利益供与額は「117億8200万円」です(東京地裁判決1999.4.21)。

④ 企業側の対応

 この衝撃的な事件を受けて、企業側は1996年に「日本経団連企業行動憲章」を改訂し、不法勢力との対決を宣言しました。不法勢力に対する毅然とした姿勢を示さないと、株式会社というシステム自体が「社会の信頼」を失ってしまう。

 そうした危機感が経済界全体に広がっていました。様々な業界で独自に「企業行動憲章」を定め、また各会社ごとに「企業行動基準」「行動規範」などを定める、そうした動きが続々と始まったのがこのころです。

⑤ そして「司法社会」へ

 日本社会の「法令順守の重視」や「コンプライアンス確立」への動きは、こうした多くの動きが集まり、1つの大きな流れとなって始まったのです。

 それまでの日本では、何らかのもめごとがあると、あちこちに顔がきく「陰の実力者」が出てきて、闇の世界で解決されることが多かったといわれます。しかし、1997年の「銀行・4大証券事件」を機に、何ごとも、表の世界で、「法の精神」に即して正当性をもって解決すべきだという世の中に変わったのです。日本全体が「司法社会」に向けて第1歩を踏み出しました。

 各方面の努力の結果、2000年前後には日本の株主総会は本来の姿を取り戻しました。

【コンプライアンス】
「法令遵守」ともいうが、ただ法令を守るだけでなく、倫理観、公序良俗などの社会的な規範・要請に従い、公正・公平に業務を行うことを意味して使われる。コンプライアンスは「合わせる」という意味の「コンプライ(Comply)」から生じた言葉。「何ものかに合わせる」のが本来的な意味である。会社にとって合わせるべきは、株主、消費者、従業員、社会、それぞれの「期待」である。株主が何を望んでいるのか、消費者はどうか、従業員はどうかと、きめ細かく考えて行動するのが誠実な会社の姿といえる。

(3)現代の株主総会

① 活発化しない質疑応答

 現代の株主総会は「公正運営の原則」に従って、株主と経営陣とが向き合い、貴重な「対話」の場として平穏に運営されています。

 しかし、まだまだもの足りない感じがします。私は本来の姿を取り戻した株主総会に大きな期待を寄せていました。株主の信頼と不安、経営陣の緊張感とが交錯し、株主の関心ごと、経営陣の本音などが飛び出し、興味の尽きないやりとりが活発に行われると予想していました。

 けれども、いまのところ株主総会はそうした期待に応えるものにはなっていません。たしかにどの株主総会でも、株主からの質問や意見が多少は出るようになりました。が、まだまだ信頼と緊張が飛び交う活発な質疑の場にはなっていません。

 上場会社の最近の株主総会では、75%近い会社が所要時間「60分以下」で終了しています(「総会白書2024」111頁)。総会の進行では、計算書類や事業報告の説明、議題の説明などだけで30〜40分はかかってしまいます。

 2、3人の株主から質問が出ると、たちまち60分を超えます。「所要時間60分以下」ということは、ほとんど質問がないか、あっても1人か2人ということです。これでは、精一杯の準備をしてヒリヒリした緊張感を持って臨んだ経営陣も拍子抜けになってしまいます。日本の株主総会は、なかなか活発化していません。

② 活発な意見が飛び交う米国の株主総会

 米国の著名な投資家ウォーレン・バフェットが率いる投資会社バークシャー・ハサウェイの株主総会では、3万人から4万人の株主が出席し、抽選で質問券をもらい、数時間をかけて質疑が行われるといいます。「朝早くから、午後の半ばまで、株主たちは思い思いの質問をし、バフェットがそれに1つひとつ答える。質問者の数は50人以上」という報告もあります(ジェフ・マシューズ『バフェットの株主総会』黒輪篤嗣訳、エクスナレッジ、7頁)。

 バフェットの事例は特別だとしても、米国の株主総会では一般に活発な質疑応答がなされています。

 ある金融グループの株主総会では、「取引先の倒産に対する予防策はできているか」「社外取締役の○○氏は、自身が経営する会社の実績に疑問があるのではないか」「昨年行った企業買収については取締役会の事前協議は十分に行われたのか」「会計監査人は、実際にいい仕事をしているのか」「マクロ経済予測を行っている子会社を売却する計画があるが、その進展はどうか」「銀行と証券の垣根に関する規制緩和について」といった質問がなされ、2時間18分が経過したといいます(大阪証券代行 代行部『アメリカの株主総会』商事法務研究会、135頁)

③ 日本の株主総会が活発化しない理由

 経営陣側の後遺症
 私は日本の株主総会が活発化しない背景には、先に述べた株主総会の「不幸な歴史」の後遺症があると考えています。

 特殊株主の時代には、経営陣は、とにかく揚げ足をとられて、最悪、「決議取消し」になってはいけないと思い、徹底してガードを固める姿勢に終始しました。もちろん経営陣も、現代の株主総会で質問する株主が「揚げ足をとろう」などとは思っていないことは、理屈ではよく分かっています。けれども、不幸な時代に身についた傾向は、正常化以来、20年以上経ってもなかなか消えません。

 株主側の後遺症
 後遺症は株主の側にも残っていると思います。かつて「株主総会に行ってみようか」と出席した株主たちは驚いたことでしょう。なにしろ、総会では肩を怒らせた人たちが、「了解」「異議なし」「異議あるよ」「議事進行」「質問を聞けよ」「議長は交代しろ」「休憩にしろ」などと言い合い、ヤジと怒号とが飛び交っていたからです。到底、普通の株主たちが質問したり意見を述べたりできる場ではないとみえたはずです。

 その時代に出席したことのある株主の心のなかには、「株主総会では質問などできないものだ」という意識が刷り込まれてしまったのではないでしょうか。

『会社と株主の世界史 ビジネス判断力を磨く「超・会社法」講義』
<目次>
第1章「会社は法人である」って、どんな意味?
第2章「定款の壁」を超えて
——怪物ウルトラ・ヴィーレスとの戦い
第3章 法人制度の欠陥——法人は人に危害を加えても責任を負わない?
第4章 株主有限責任はなぜ認められたのか——有限責任と引き換えに求められる公共性
第5章 株式の譲渡は自由で、証券マーケットは独立したもの——株式を「売る権利」
第6章「所有と経営の分離」、だから「コーポレート・ガバナンス」——そして、ガバナンスの核心は株主総会
第7章 変化し続ける「株主総会」——「万能主義」から「限定主義」、そして新たなステージへ
第8章 株主と経営者は「株式会社」を変えていけるだろうか

<連載ラインアップ>
■第1回「所有と経営の一致」から「所有と経営の分離」へ 会社法の転換点「明治44年商法」に隠された歴史の真実とは?
■第2回上場企業75%の所要時間が「60分以下」…株主総会の形骸化の背景にある、日本の「不幸な歴史」とその後遺症とは?(本稿)
■第3回 株主提案の条件が厳しすぎる…ガバナンス強化、気候変動対策など増え続ける声を阻む第2の関門」とは?
■第4回 令和にこそ強く響く松下幸之助の名言「企業は社会の公器」株主と経営者が会社に対して果たすべき「2つの約束」とは(4月14日公開)
■第5回 なぜ株式会社は変われないのか?「総会限定主義」の分厚い壁と株主提案の切り札になり得る「勧告決議」とは(4月21日公開)

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筆者:中島 茂

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