「5億円ものパー券収入」に税金が取られないのはおかしい…検察が「お金配り国会議員」に甘すぎる本当の理由

2025年4月7日(月)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/deepblue4you

自民党が再び「政治とカネ」問題で揺れている。捜査当局はなぜ国会議員を厳しく追及しないのか。弁護士の郷原信郎さんは「検察は全国から応援検事を動員して大規模捜査を行ったが、政治資金規正法に対する本質的な理解を欠いていたために議員の処罰はほとんど行われなかった」という——。

※本稿は、郷原信郎『法が招いた政治不信 裏金・検察不祥事・SNS選挙問題の核心』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/deepblue4you
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■検察は捜査の方向性をなぜ誤ったのか


「自民党派閥政治資金パーティー裏金事件」の検察捜査は、方向性を誤ったものであり、それが、国会議員はほとんど処罰できず、所得税の納税も全く行われないという結果となり、国民の強い不満と批判につながった。


検察は、なぜ捜査の方向性を誤ったのであろうか。


事件の発端は、2023年の日本共産党の「しんぶん赤旗」日曜版の記事と神戸学院大学教授・上脇博之氏の東京地検への、20万円超のパーティー券の購入者の不記載という形式的な事案の告発だった。


一般的には告発事件というのは、特捜部などの検察捜査において積極的に取り組む案件とはされないことが多い。しかも、発端は日本共産党の機関紙の報道である。特捜部としては、告発を受理した以上、所要の捜査として派閥事務担当者の取調べを行わざるを得ないという程度の認識から始まったと思われる。


ところが、その告発事件の捜査の過程で、派閥政治資金パーティーをめぐって、ノルマを超えた売上が収支報告書に記載不要の金として派閥から所属議員側に還流しており、それがかなりの金額に上ることが明らかになった。


■「やらされ感」から始まった特捜部の捜査


政治資金パーティーの問題で派閥事務担当者が聴取されていることに不安を覚えていた自民党関係者の反応もあって、自民党派閥政治資金パーティーをめぐる裏金事件として、マスコミで大きく報道されるようになった。検察としても、裏金の実態の全体的解明に乗り出さざるを得なくなった。


それが、派閥政治資金パーティーをめぐって、ノルマを超えた売上が収支報告書に記載不要の金として派閥側から所属議員側に還流した金額が、清和会(安倍派)では5年間で総額5億円以上に上っていたという、大規模な裏金問題に発展することになった。


多数の派閥所属議員の取調べのため、全国の地検から多数の応援検事を動員して大規模捜査を行うことになったが、特捜部側には、もともと「やらされ感」があり、積極的に捜査に取り組もうとした事件ではなかった。要領よく捜査処理を行って、24年1月の通常国会開会前に処理を終えようとした。


従来の政治資金規正法違反事件のパターンにあてはめ、還流金についての政治資金収支報告書の不記載を政治資金規正法違反ととらえて、捜査処理を行おうとしたのも、もともとの告発事件への特捜部側の姿勢からすると自然な流れだったといえる。


多くの国会議員に関する、政治的な影響も極めて大きい問題だった。そうであるからこそ、事案の実態に即し、違法な寄附の処理や税務問題なども含めて、世の中の納得が得られる処分をすることが必要だった。


■納税も免れた裏金に国民の怒り爆発


ところが、実際には、検察の政治資金規正法適用についての本質的な理解を欠いた捜査により、刑事処罰、納税について国民の認識との間に著しい乖離(かいり)を生じさせただけでなく、「派閥政治資金パーティー裏金問題」についての全体的な事実解明も、ほとんど行われなかった。それが「正体不明のブラックホール」となって、衆院選で自民党を直撃し、自公両党は過半数を大きく割り込み、日本の政治は大混乱に陥ることになった。


政治資金の収支の公開が義務づけられているのに、派閥から「収支報告書に記載不要の金」の供与を受けていた国会議員の処罰がほとんど行われなかったことに対する不満以上に、国民の強烈な反発の原因になったのが、課税に対する不公平感だった。


国会議員が、政治資金パーティーの売上の中から自由に使っていい裏金を受け取り、それについて税金の支払も免れていることに対して、国民は激しく怒った。国民は、事業者も、サラリーマンも、汗水流して働いたお金を報酬・給与として得る。それについては、法人の事業を行って得たお金であれば法人税等を、個人の収入として得たお金であれば所得税等を支払わなければいけない。その上で残ったお金を自由に使うことができる。


■インボイス導入の時期に重なった致命的タイミング


この事件が注目を集め、検察の捜査、刑事処分が決着したのは、個人事業主などが、払いたくもない税金を納めるために、確定申告に向けて気の滅入(めい)るような作業を強いられている時期だった。しかも、前年10月にはインボイス制度が導入され、会計処理の透明化の動きが中小企業や個人事業主にも及び、多くの国民が負担を強いられた。


それなのに、政治家の世界では、自由に使えて税金もかからない裏金という、領収書不要の金のやり取りが行われており、大規模な政治資金パーティーで巨額の収入を得て、その一部を裏金で所属議員に分配し、彼らは税金も支払わず自由に使っている。そのことに対して国民は怒りを爆発させた。


それに加えて、この問題の事実解明がほとんど行われていないことも、自民党側への厳しい批判の理由とされた。


■国民の不満爆発は検察の責任だった


裏金問題に対する国民の不満が爆発したのは、


(1)所属議員側は政治資金収支報告書不記載という違法行為を行っているのに、ほとんどの議員が処罰をされていない
(2)領収書不要の裏金を受け取っていたのに、使途が具体的に明らかにされず、所得税の納税をしていない
(3)派閥から所属議員に裏金として供与されていた経緯・理由等の事実解明が全く行われていない


の3つが要因だった。


このうち、(1)の「裏金議員の処罰」の現状は、すべて検察当局が捜査を行い、その結果、刑事処分を行ったものであり、検察の判断の結果である。


(2)の所得税の納税についても、還付金、留保金を「政治資金収支報告書に記載しない」前提で受領し、そのまま議員個人が保管していた事例もあったことが自民党のアンケート調査で明らかになっており、常識的に考えれば個人所得である。税務の専門家は「個人的な費消の有無に関わりなく、政治資金収支報告書に記載しない金として派閥から供与された金は、全額納税が当然」との意見であるが、議員側には納税に向けての動きはなく、国税当局の税務調査も行われていない。


写真=iStock.com/kanzilyou
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■使途不明金が「政治活動費」で済まされた現実


それは、検察当局が、派閥から所属議員に供与された金は政治団体(政党支部)に帰属する政治資金であり、政治資金収支報告書に記載すべきであったとして、収支報告書の訂正を行わせることで事件を決着させたからだ。それによって、原則として議員個人には帰属しなかったことになり、それを個人的な用途に使った事実が具体的に明らかにならない限り(議員個人が保管していた場合でも)、所得税の課税の対象にならない。


しかも、原則として所得税の納税義務も申告義務もない、ということであれば、「政治活動に使った」とだけ説明すれば済み、使途を明らかにする必要もないということになる。実際に、ほとんどの裏金議員の説明は、その程度のもので済まされてしまった。


個々の裏金議員の裏金の使途等についても説明責任は果たされなかった。還付金等の保管状況・使途等の報告を求めるなどして個々の裏金議員について責任の程度を評価し、処分のレベルや衆院選での公認非公認を判断することは、自民党として行い得ることだった。しかし、検察当局が、「派閥からの還付金等が政治団体に帰属するもので、その収支報告書に記載すべきであった」として、収支報告書の訂正を行わせることで事件を決着させたことを受け、それを前提とする対応を行っただけだった。


■検察は法執行機関の役割を果たせていない


(3)の派閥レベルでの裏金問題の経緯・理由という問題の根本に関わる事実解明は、検察捜査によらなければ困難だった。ところが、派閥の事務担当者の公判でも、検察が明らかにしたのは「かねて、ノルマを超えてパーティー券を販売した場合の還付金、留保金に相当する金額を除いた金額を清和会の政治資金収支報告書に記載していた」という事実だけで、裏金問題の経緯、意思決定のプロセス等の具体的な事実関係は何一つ明らかにされず、事務担当者から所属議員側に「収支報告書に記載不要」と説明していた経緯も不明のままだった。



郷原信郎『法が招いた政治不信 裏金・検察不祥事・SNS選挙問題の核心』(KADOKAWA)

要するに、国民の不満と批判の原因となった、(1)の刑事処罰、(2)の納税の問題は、いずれも検察の捜査と刑事処分の判断の結果であり、しかも、(3)の事実解明も、検察にしか行い得ないことが大半であった。


しかし、国民の認識や期待と事件の結末との間に著しい乖離が生じたことに対する不満や批判の大半は、裏金議員や自民党に集中し、それが総選挙での惨敗につながった。一方の検察に対しては、SNS上などで「検察の捜査処分が自民党議員に手ぬるい、政権に忖度(そんたく)した」などの批判の声もあったが、大きな流れにはならなかった。


このような検察捜査は、政治資金規正法の罰則を正しく適用する法執行機関としての役割を果たしたと評価できるものではない。


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郷原 信郎(ごうはら・のぶお)
郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
1955年、島根県生まれ。77年東京大学理学部を卒業後、三井鉱山に入社。80年に司法試験に合格、検事に任官する。2006年に検事を退官し、08年には郷原総合法律事務所を開設。09年名城大学教授に就任、同年10月には総務省顧問に就任した。11年のオリンパスの損失隠し問題では、新日本監査法人が設置した監査検証委員会の委員も務めた。16年4月「組織罰を実現する会」顧問に就任。「両罰規定による組織罰」を提唱する。『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『検察の正義』(ちくま新書)、『思考停止社会 「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)、『「深層」カルロス・ゴーンとの対話 起訴されれば99%超が有罪になる国で』(小学館)など、著書多数。近著に『“歪んだ法”に壊される日本』(KADOKAWA)がある。
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(郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎)

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