204億円むしり取っても「解散命令は信教の自由侵害」と宣う図太さ…旧統一教会の財産移転先"ダミー教団"の名

2025年4月8日(火)12時15分 プレジデント社

記者会見する旧統一教会の田中富広会長=2025年3月27日、東京都千代田区 - 写真=共同通信社

■旧統一教会が東京高裁に即時抗告する前からしていること


東京地方裁判所は3月25日、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対して解散命令を下した。法令違反による解散命令は戦後3例目。今後、高裁や最高裁での審理が続く可能性は残るものの(教団側は4月7日、「国家による明らかな信教の自由の侵害だ」と批判し、東京高裁に即時抗告)、教団は法人格を失う可能性が高い。それにより法人税や固定資産税など、税制上の優遇措置が撤廃される。だが、新たな問題が生じる危険性も秘めている。「ダミー教団」への財産の移し替え、宗教法人格の再取得への動きなどだ。


写真=共同通信社
記者会見する旧統一教会の田中富広会長=2025年3月27日、東京都千代田区 - 写真=共同通信社

まず、旧統一教会問題の流れを整理しよう。統一教会は1954年に韓国で文鮮明によって設立されたキリスト教系新宗教である。日本では1964年に宗教法人として認可された。


1970年代に入り、信者らにたいして「先祖からの因縁」などと脅し、高額な壺や印鑑などを売る霊感商法問題が社会問題化する。法外な金額の献金を強要されたなどの被害相談が相次いだ。


強引かつ巧妙な勧誘方法にも批判が集まった。教団を母体とする「原理研究会」「国際勝共連合」などの関連組織が大学などに入り込み、信者獲得を拡大させていった。国際勝共連合の発起人には岸信介元首相や、笹川良一氏、児玉誉士夫氏ら大物が名を連ね、政治的影響力も増していった。教団と自民党との関係も、この頃から強まっていった。


1995年には、一連のオウム真理教事件が勃発。カルト宗教への批判が巻き起こる。旧統一教会に関しても多数のカップルが一同に結婚する「合同結婚式」などがワイドショーなどで取り上げられた。


1996年には旧統一教会の教団名を「世界平和統一家庭連合」に変更(認証は2015年)。悪化する教団のイメージを刷新するための「目くらまし」との批判も起きた。


■過去40年間でおよそ1600人、204億円もの被害額が生じた


旧統一教会に関するトラブルは、2000年以降も止むことはなかった。多数の民事訴訟が提起され、多くで教団の責任が認定されていく。2022年には安倍晋三元首相の暗殺事件が起き、それを契機にして教団と政治家との関係や、異常な活動実態、宗教2世問題などが次々と浮上。文部科学省が東京地裁に解散命令請求したのが2023年10月のことであった。


文鮮明(左)と妻の韓鶴子(右)[写真=Steve Dufour/『新世界百科事典』(UPF)/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

東京地裁は、過去40年間でおよそ1600人、204億円もの被害額が生じたと認定した。その上で、「(旧統一教会に)法人格を与えたままにするのは極めて不適切。解散命令はやむを得ない」とした。被害規模はあまりにも甚大であり、同教団は反社会的な集団と言っても過言ではない。


宗教法人法における宗教教団の活動の目的は「宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成すること」である。同教団の場合は、宗教活動はあくまでも「手段」であり、集金こそが「目的」であったと言われても仕方がない。東京地裁の判断は、妥当だと思う。


旧統一教会は東京高裁に即時抗告する方針を示した。最終的には最高裁の判断となる見通しだが、宗教法人の認証が取り消されると、固定資産税や法人税などの優遇措置が受けられなくなる。ただ、任意団体として宗教活動を続けることは可能だ。


旧統一教会の田中富広会長は会見で「解散後、法人の全ての財産は没収される。10万人の信者が集う教会も施設も失う。信者らの宗教活動の自由は、事実上、重大な制限を受けることになる。国家による明らかな信教の自由への侵害で、この決定は宗教全体の危機の始まりだ」などと訴えた。


本当にそうだろうか。統一教会側は、すでに「抜け道」を用意している可能性がある。


■統一教会の資金移転と地元紙に指摘された宗教法人


そのひとつに、にわかに浮上してきた「天地正教」なる教団との関係がある。天地正教は、北海道帯広市に本部を置く単立系の宗教法人だが、統一教会の資金移転先になっている、との指摘がある。地元、十勝毎日新聞などによれば、教祖は統一教会の信者であり、旧統一教会が霊感商法をするための関連団体を引き継いだという。


旧統一教会は2009年に、残余財産の帰属先を天地正教に指定している。その事実だけをみても天地正教は統一教会が、将来的な解散命令を見越した「受け皿」としてのダミー教団といえる。旧統一教会から天地正教に資金が移されれば、被害者への弁済などに影響が出ることは必至だ。旧統一教会が任意団体に転落した後も、収入を天地正教に移し替えれば、非課税がまかり通る可能性もある。


それどころか、天地正教が渋谷区松濤にある統一教会の本部を買収し、宗教法人登記をし直すことで、固定資産税を免れられる可能性もある。これではいくら、宗教法人を解散させたからといっても、旧統一教会にとっては何の痛手も被らないことになる。


文鮮明 合同結婚式(写真=Cristinadeargentina/CC-BY-SA-4.0,3.0,2.5,2.0,1.0/Wikimedia Commons

このような宗教法人の「移し替え」は理論上、可能であり、水面下では多くの宗教法人が売買されている実態がある。不当な宗教法人の売買は課税逃れ、マネーロンダリングなどの温床になっている。宗教法人の悪用を監視、防止する法整備や仕組みが必要な時期にきている。


ただ、旧統一教会の解散劇がトリガーとなって、宗教法人解散のハードルが下がってしまうことには一抹の不安を覚える。人々を苦しめる宗教と、救済に導く宗教とは分けて考えるべきだ。


宗教法人に対する解散命令が出された事例は、過去に2件のみ。1つ目は、オウム真理教に対してだ。地下鉄サリン事件後、1年足らずで解散命令が下された。


もうひとつは、真言宗系単立宗教法人の明覚寺である。同寺院は、「水子の祟り」などと信者を脅し、霊感商法を用いて多額の金銭を搾取。追及の手が伸びると、法人名を変えるなどのカモフラージュを繰り返した。住職らは詐欺罪で有罪判決を受け、2002年に解散命令が下された。


2つの例は、国家転覆を目論んだテロや極めて悪質な詐欺行為であり、弁解の余地はない。


旧統一教会の解散命令は、あくまでも「民事上」の不法行為が前提となっている。それだけに、憲法20条で定める「信教の自由」への侵害にあたらないかどうか、慎重な審理が続けられていた。


■宗教は人を救済に導くが、何をしてもいいわけではない


信教の自由は、裏返せば「宗教への寄付行為」に直結する。「多額の寄付」の事実だけをみて「異常な宗教行為」と断じるのは、それはそれで乱暴な話だ。宗教にたいする「布施」「寄付」は宗教上も教団運営上も、欠かすことはできない。


たとえば地域の神社や寺を護持していきたい、ご先祖様を供養していきたい、という行為は最大限、尊重されるべきだ。かつて欧米では、教会への寄付額は旧約聖書に基づいて「年収の10%程度」がスタンダードとされてきた。現在では、キリスト教信者の寄付の割合は年収の1〜2%といったところだろうか。


日本の仏教でも、かつては堂宇を丸ごと寄進、などということはよくあったことだ。パトロンらによる寄付が信仰や文化を守ってきたのは紛れもない事実である。個々人の心の安寧は社会の安定に寄与し、人々の生活に潤いを与える。宗教の存在しない世界は、殺伐とした風景しかつくらない。


昨今では、寺や神社に多額の寄付をしたことで、親族が宗教法人に返還請求をする、なんてことも起きている。核家族化の弊害かもしれない。こうしたトラブルを避けるためには、祭祀を担う側と信者との間の信頼関係を構築し、法人会計の透明化と説明責任を果たすことが、宗教法人の命綱である。


伝統宗教でも金銭トラブルは少なからず、常に存在する。菩提寺が多額の戒名代を要求したり、墓じまいの際の離檀料を請求したり。アコギな住職にたいして檀信徒が困惑するケースが筆者の元にも多数、報告されている。


旧統一教会のように、集金が目的化した宗教法人にたいする社会の目は今後ますます、厳しくなっていくだろう。各宗教教団は自浄作用を機能させていかねばならない。宗教法人という既得権で守られているから、何をやってもいいということではない。


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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。
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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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