何があっても心が折れない人はこれが圧倒的に強い…「面倒な人とは縁を切る」が正しくない心理学的理由
2025年5月1日(木)10時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BraunS
※本稿は、榎本博明『自己肯定感は高くないとダメなのか』(筑摩書房)の一部を抜粋・再編集したものです。
■「苦手な人」との関わり方
前回の記事では、自己肯定感とは、安定的・持続的なものであるとお話した。
ほめられれば高まり、叱られれば低下し、何かがうまくいけば高まり、うまくいかないと低下するような一時的な気分の高揚とはまったく異なる性質のものだ。
そうした、本当の意味での自己肯定感を高めるにはどうしたらいいのか。
本稿でも引き続き、2020年に「教育新聞」に「なぜ「自信のない子」が多いのか——自己肯定感を育む11の方法」として連載したものをもとに、重要と思われることを列挙しつつ解説していく。
①とくに親しくない相手とのかかわりを無難にこなす経験を積む
私たちは、親しい絆によって支えられるが、面倒な相手とのかかわりには大いに頭を悩ますものである。
人間関係は、ストレス緩和効果をもつこともあるが、ストレス源にもなり得る。社会人にとっての二大ストレス源が過労と職場の人間関係とされるが、子どもや若者にとっても人間関係が大きなストレスになっていたりするのである。
コミュニケーションが苦手な子どもや若者が増えているということで、新人採用にあたってほとんどの企業がコミュニケーション力を最も重視している。なぜコミュニケーションが苦手なのかと言えば、集団遊びが少なくなるなど人間関係に揉まれることが少なくなったからである。
写真=iStock.com/BraunS
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昔は近所の子どもたちの集団遊びがあった。そこでは、年齢に関係なくみんなで遊んだ。年上の子と遊ぶことで、頼ったり従ったりするかかわりに馴染む。年下の子と遊ぶことで、保護したり注意したり大目に見たりするかかわりに馴染む。さらには、親しい子ばかりでなく、あまり親しくない子や仲の悪い子とも遊ばねばならないため、いろんな距離感でかかわる訓練になる。
ところが、今はとくに親しい数人の同級生と遊ぶばかりなので、いろんな距離感でかかわる経験が乏しい。あまり親しくない友だちとは、ほとんどかかわることなく過ごすことができる。似た者同士で過ごすばかりであるため、異質な相手とどうかかわったらよいかわからない。それに加えて、習い事や学習塾に通う子どもが多く、子ども同士で遊ぶ経験自体も乏しくなっている。
■「無難に関わる」ことが自己肯定感につながる
「人間」という文字を見ればわかるように、私たちは人との間を生きる存在である。人との間のほかに生きる場はない。ゆえに、人間関係をうまくこなせないと、自分に自信をもつことができない。自己肯定感を保つには、人間関係を無難にこなしていくことが必要となる。
とくに問われるのが、苦手な相手とかかわる力である。
親しい相手とかかわることはできても、苦手な相手とうまくかかわることができないという子どもや若者が少なくない。大人になっても、苦手な相手とかかわると思うだけでお腹が痛くなり、取引先に苦手な相手がいると訪問できずに逃げてしまったり、職場に苦手な先輩や上司がいると出社できなくなってしまったりする人もいる。
これでは自己肯定感を保つのは難しい。
ゆえに、学校時代には、親しい友だちとのつき合いを大切にするのはもちろんのこと、とくに親しいわけでもない友だちと無難にかかわる経験を積んでおくことも大切である。
■「自分の話はつまらないのでは」という不安
②コミュニケーション力を高める
学生たちと話すと対人不安の強い者が非常に多い。
授業で対人不安について話すと、いつもやる気のない学生さえもが熱心に聴き入り、「まるで自分のことを言われてるみたいだった」「自分だけじゃないとわかって安心した」などと話しに来る。
写真=iStock.com/mapo
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そこで、『「対人不安」って何だろう?——友だちづきあいに疲れる心理』(ちくまプリマー新書)を書いたわけだが、その内容の一部を紹介すると、中学校や高校時代からずっと悩まされていたのは対人不安だったのだとわかったという者が非常に多い。
対人不安とは、自分が他者の目にどのように映っているか、映ると予想されるかを巡る葛藤により生じる不安のことである。
具体的には、「自分の話なんてつまらないんじゃないか」「場違いなことを言ってしまわないか」「変なヤツと思われるんじゃないか」「自分と一緒にいても楽しくないんじゃないか」などといった不安である。
■「コミュ力が高い」の6つの要素
このような不安の強さが自己肯定感の低さにつながっているというのは十分考えられることである。とくに、間柄を大切にする私たち日本人の場合、人間関係における自信の有無が自己肯定感を大きく左右すると考えられるため、コミュニケーション力を高め、対人不安を少しでも和らげることが重要となる。
今の子どもや若者の間では、コミュニケーション力は笑いを取る能力、おもしろく話せる能力と受け取られているようなところがある。だが、だれもが話し上手になれるものではないし、そのような能力だけで人からの信頼や評価が得られるわけでもない。コミュニケーション力をもっと広い意味でとらえておく必要がある。
コミュニケーション力の心理尺度の開発に際して、僕はつぎの六つの因子を抽出した。
①社交力
慣れない相手に対しても気後れせず、場にふさわしい会話ができる性質
②自己開示力
自己防衛的に身構えず、率直に自分をさらけ出す性質
③自己主張力
自分の考えを理路整然と表現し、相手に説得的に働きかけることができる性質
④感情表現力
自分の気持ちをうまく表現し、相手の気持ちに訴えることができる性質
⑤他者理解力
周囲の人に関心をもち、相手の気持ちや考えを汲み取ることができる性質
⑥傾聴力
相手の言葉にじっくり耳を傾け、相手の自己開示を引き出す性質
対人不安を少しでも和らげ、自己肯定感を高めるためにも、このようなコミュニケーション力を身につけるように心がけたい。
■人生は思い通りにいかないことだらけ
③逆境に負けない力としてのレジリエンスを高める
人生は思い通りにならないことの連続といっても過言ではない。
試験で思うような成果が出ない。受験で志望校に合格できない。部活でレギュラーになれない。友だちと仲違いしてしまう。失恋する。
そのように数え切れない挫折に見舞われるのが人生である。
そのたびに「心が折れた」と落ち込んでいたら、人生の荒波を乗り越えていくことができない。当然、自己肯定感は低くなる。
そこで重要になるのがレジリエンスである。
写真=iStock.com/laflor
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レジリエンスは、復元力と訳され、もともとは物理学用語で弾力を意味するが、心理学では「回復力」とか「立ち直る力」を意味する。より具体的には、困難な状況でも心が折れずに適応していく力、挫折して落ち込んでもすぐに回復し立ち直っていく力、きつい状況でも諦めずに頑張り続けられる力のことである。
■すぐに心が折れてしまう人たち
レジリエンスが低いと、困難な状況を耐え抜くことができない。そんなときに口にするのが、「心が折れた」というセリフだ。
榎本博明『自己肯定感は高くないとダメなのか』(筑摩書房)
レジリエンスの研究は、逆境に強い人と弱い人がいるけれども、その違いはどこにあるのかという疑問に端を発している。
過酷な状況で、一時的に落ち込んでも、すぐに回復する人もいれば、いつまでも落ち込んだままで、なかなか日常生活を立て直すことができない人もいる。
何か失敗したときは、だれでも落ち込むものだ。でも、失敗に落ち込むより、失敗を糧にすることが大切だ。そのためには、感情反応より認知反応を心がける必要がある。
感情反応が強い場合は、ひどく落ち込み、心が折れやすくなる。それでは自己肯定感は高まらない。
「失敗は貴重な気づきを与えてくれる」「失敗は成長のきっかけになる」と思えば、失敗を過度に恐れずにすむ。そして、「どこがまずかったのか」「同じような失敗を繰り返さないためには、どんな点に注意したらよいだろうか」というようにメタ認知を働かせ、自分にとっての課題を知ることで、失敗を今後に活かすことができる。
そのように失敗を糧にして成長できれば、自己肯定感は自然に高まっていく。
■“逆境に強い人”に共通する心理傾向8つ
挫折体験もポジティブにとらえるなど、ネガティブな出来事や状況にもポジティブな意味づけをしている人がゆったりした自己肯定感を感じさせるといった知見もあるように、ものごとを前向きに受け止めることが自己肯定感につながっている。
これまでに行われてきたさまざまな研究をもとに、レジリエンスの高い人の特徴として、つぎのような性質を抽出することができる。
・自分を信じて諦めない
・辛い時期を乗り越えれば、必ず良い時期が来ると思うことができる
・感情に溺れず、自分の置かれた状況を冷静に眺められる
・困難に立ち向かう意欲がある
・失敗に落ち込むよりも、失敗を今後に活かそうと考える
・日々の生活に意味を感じることができる
・未熟ながらも頑張っている自分を受け入れている
・他人を信じ、信頼関係を築ける
このような心の癖をもつ人は、思い通りにならない厳しい現実に押し潰されそうになり、一時的に落ち込むことがあっても、けっして潰されることなく立ち直っていくことができる。
このような心理傾向を身につけるように意識することが大切である。
出所=『自己肯定感は高くないとダメなのか』
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榎本 博明(えのもと・ ひろあき)
心理学博士
1955年東京生まれ。東京大学教育学部教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを経て、現在、MP人間科学研究所代表、産業能率大学兼任講師。おもな著書に『〈ほんとうの自分〉のつくり方』(講談社現代新書)、『「やりたい仕事」病』(日経プレミアシリーズ)、『「おもてなし」という残酷社会』『自己実現という罠』『教育現場は困ってる』『思考停止という病理』(以上、平凡社新書)など著書多数。
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(心理学博士 榎本 博明)