「ギャンブルで負けない方法」がわかれば健康で長生きできる…この"謎理論"を天才物理学者が解説する

2025年4月9日(水)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/okan akdeniz

大きな成功をした人は普通の人と何が違うのか。物理学者の大栗博司さんは「持って生まれた才能もあるが、積み重ねる確率をほんの少しずつ有利にするだけで長い目で見て大きな差がでることもある。これはギャンブルにも健康にも言えることだ」という——。

※本稿は、大栗博司『数学の言葉で世界を見たら』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/okan akdeniz
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■数学的に「ギャンブルで負けない方法」


「2つのことが独立に起きる確率は、おのおのの確率の積になる」という性質を応用して、ギャンブルで負けない方法を伝授しよう。


たとえば、コインを投げて表が出るか裏が出るかを賭けるとする。コインに癖がなければ、どちらの確率も1/2だ。癖がある場合も考えるために、表が出る確率をp、裏が出る確率をqとしよう。コインには表か裏かしかないから、この2つの確率にはp+q=1という関係がある。


表が出たら1円もらえて、裏が出たら1円取られるという賭けをする。2回連続して投げて、2回とも表になる確率はp×p=p2。これをくり返すと、n回連続して投げてn回とも表になる確率はpnとなる(pnとはpをn回掛けるという意味で、pのn乗と読む)。


pは1より小さいのだから、nが大きくなると、pnはどんどん小さくなる。これは、連続して何回も勝つことは起きにくいという、常識的にも納得できる話だ。


さて、最初にm円持って、1円ずつ賭けていくとする。ギャンブルは引き時が肝心だというから、N円になったらやめることにしておこう。途中でやめず、目標のN円に到達するか、ゼロ円になって破産するまで続けることにする。


■たった1%の違いで破産確率が急上昇する


勝って帰れる確率をP(m,N)と書くことにしよう。Pは英語で確率を意味する“Probability”の頭文字で、確率を表す記号によく使われる。m円で始めてN円になる確率だということを覚えておくために、(m,N)と書き添えた。確率が1/2より大きければ勝つ見込みがあるし、逆にあまり小さいようならやめておいたほうがよいということになる。この確率を計算すると、


出所=『数学の言葉で世界を見たら』(幻冬舎新書)

となる。


この公式は簡単に導けるけれど、少し長くなるので、僕のウェブページに置いた補遺で説明する。ただし、p=q=1/2のときには、q/p=1なので、右辺の分子も分母もゼロになって、ゼロ÷ゼロと意味がなくなってしまうので、そのときだけは別に計算すると、


出所=『数学の言葉で世界を見たら』(幻冬舎新書)

となる。逆に、所持金ゼロ円になって破産して帰る確率は1−P(m,N)だ。


たとえば、p=q=1/2とすると、P(100,200)=1/2。このときには、100円持ってギャンブルに行くと、持ち金を倍にして帰る確率と、破産してしまう確率は五分五分というわけだ。


さて、ギャンブルの胴元がコインにちょいと細工をして、p=0.49、q=0.51としたとしよう。このとき、上の公式を使ってみると、P(100,200)≒0.02となる。この計算については、第3話第3節で説明した。つまり、持ち金を倍にして帰れる確率は50回に1回になってしまう。98パーセントの確率で破産してしまうんだ。コインに1パーセントだけ裏が出やすい癖をつけただけなのに、破産する確率が50パーセントから98パーセントと激増したのだ。


■ルーレットに0と00があるワケ


カジノの経営が儲かる理由はこれだ。たとえば、アメリカ式のルーレットには1から36までの数字がついたポケットがあって、1から18までは赤、19から36までは黒。これだけなら赤が出る確率も黒が出る確率も18/36=1/2だけれど、ルーレットには0と00のポケットもあって、この2つのどちらかに玉が入ると胴元にお金が行くようになっている。


この場合に赤か黒かで賭けると、お客さんにとってはp=18/38≒0.47。つまり3パーセントの癖のついたコイン投げをしているのと同じことだ。


逆に、賭けがギャンブラーに少しだけ有利だったらどうだろう。p=0.51、q=0.49だったとして、P(m,N)の公式を使うとP(100,200)≒0.98となる。さっきの場合と、pとqの値が反転しているので、持ち金を倍にできる確率と破産する確率も逆転しているんだ。


1パーセント有利なだけで、100円を倍の200円にできる確率が98パーセントになる。これならよほど運が悪くなければ負けない。


このP(m,N)の式は、いろいろなことを教えてくれる。まず、すぐにわかることは、「ちょっとでも不利なギャンブルは、してはいけない」ということだ。ほんの少し不利になるだけで、ギャンブラーが破産する確率は格段に大きくなる。だから、ルーレットやスロットマシンのように、胴元がpをコントロールできるギャンブルでは、簡単に負けてしまう。


写真=iStock.com/andresr
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/andresr

■98%の確率で持ち金を2倍に出来る方法


逆に、ギャンブルで勝ちたければ、pを1/2よりほんの少しでも大きくすればよい。たとえば、ブラックジャックというトランプのゲームでは、配られたカードを覚えておくだけで、優位になる。


米国のカジノでは、ブラックジャックで勝つ確率がおよそp=0.495になるように設定してあるけれど、カードを覚えておくとこれを逆転してp=0.51にできるそうだ。ダスティン・ホフマントム・クルーズが主演した『レインマン』という映画でも出てくる話だ。


昔、僕がプリンストンの高等研究所で研究をしていたときにも、同僚の中に毎週末アトランティック・シティというカジノの町に行って、ブラックジャックで小遣いを稼いでいる人がいた。カードを覚えておくと、勝つ確率を1パーセント増やせるからだ。


ほんの1パーセント有利なだけで、100円を倍にできる確率は98パーセントになる。よほど運が悪くない限り負けない。


つまり、この種のギャンブルでは、「ほんの少しでも有利なときに、十分にお金を持って始めれば、ほとんど確実に勝てる」ということがわかる。これが僕のギャンブル必勝法だ。


■確率がわかれば健康で長生きをする


当たり前のことを言っている、と思うかもしれないけれど、「ほんの少しでも有利なときに」というところに注意してほしい。どんなに少しでも確率が味方してくれているのなら、大金を持っていってじっくり賭ければ、ギャンブルには確実に勝てる。


逆に、ラスベガスのスロットマシンやルーレットのように、ほんの少しでも不利にできているギャンブルの場合は、儲けようとしてお金をつぎ込むと、ほとんど確実に負ける。そのようなギャンブルはしてはいけない。


同じようなことは、君がこれから生きていくうえでいろいろなときに経験するはずだ。たとえば、君は健康で長生きがしたいと思うだろう。でも、思いがけない病気にかかるかもしれないし、学校に行く途中で交通事故にあう可能性もある。


健康で長生きをするというのは、コイン投げで持ち金を倍にしようとする話と似ていると思う。コイン投げのギャンブルのように偶然の積み重ねで結果が決まる場合には、一つひとつのステップがほんの少し有利になるか不利になるかが大きな違いにつながる。


僕らは健康で長生きできる確率をある程度コントロールできる。たとえば、バランスのよい食生活をするとか、適度な運動をする、タバコを吸わない、自動車に乗ったらシートベルトをつけるなど、自分自身の選択で、長生きのための一つひとつのステップを有利にすることができる。


■「毎日の積み重ねが大切だ」は数学的に正しい


もちろん、生まれつきの体質というのも寿命に影響する。長生きの体質に生まれたというのは、コイン投げの話にたとえると、最初の持ち金mが大きいというようなことだ。これに対して、毎日健康に気を使うということは、コインの表が出る確率pを上げることと同じだ。



大栗博司『数学の言葉で世界を見たら』(幻冬舎新書)

コイン投げでは、p=0.49なら100円を倍にできる確率は2パーセントしかないが、p=0.51なら98パーセントで勝てる。確率pのほんのちょっとの差が、大きな違いを生む。


よく「毎日の積み重ねが大切だ」ということが言われるけれど、確率P(m,N)の公式を使うと、それがどのくらい大切なものか、数字としてはっきりわかる。それが数学の力だ。


何かで大きな成功をした人は、普通の人にはない特別な才能があるように見えるかもしれない。もちろんそういう場合もあるけれど、普通の人とあまり変わらなくても、積み重ねる確率をほんの少しずつ有利にするだけで、長い目で見て大きな差ができてしまうこともある。


ここで話した確率の公式は、そういうことを教えているように思う。


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大栗 博司(おおぐり・ひろし)
物理学者
1962年生まれ。東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構機構長。カリフォルニア工科大学フレッド・カブリ冠教授およびウォルター・バーク理論物理学研究所所長。京都大学大学院修士課程修了、東京大学理学博士。シカゴ大学助教授、京都大学数理解析研究所助教授、カリフォルニア大学バークレイ校教授等を歴任し現職。紫綬褒章、仁科記念賞、アイゼンバッド賞、フンボルト賞、ハンブルク賞、サイモンズ賞、中日文化賞等を受賞。科学監修を務めた3D映像作品『9次元からきた男』は国際プラネタリウム協会最優秀教育作品賞を受賞。著書に『重力とは何か』、『強い力と弱い力』、佐々木閑氏との共著『真理の探究』(いずれも幻冬舎新書)、『数学の言葉で世界を見たら』(幻冬舎)、『大栗先生の超弦理論入門』(ブルーバックス、講談社科学出版賞受賞)等がある。
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(物理学者 大栗 博司)

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