「ミスドのパクり」ドーナツで一度大失敗したのに…セブンがレジ横で「できたて商品」を懲りずに売り続ける理由

2025年4月11日(金)8時15分 プレジデント社

最短20分での配送をうたう「7 NOW」を推すセブン‐イレブンの店舗(都内) - プレジデントオンライン編集部撮影

コンビニ各社が商品の戸別宅配サービスに力を入れている。消費経済アナリストの渡辺広明さんは「どこにでもあるコンビニがデリバリーを行っても一見需要がないように思うが、実際はAmazonに一矢報いるほどの潜在需要を抱えている。ただし人手不足などの課題もある」という——。
プレジデントオンライン編集部撮影
最短20分での配送をうたう「7 NOW」を推すセブン‐イレブンの店舗(都内) - プレジデントオンライン編集部撮影

■Amazonに一矢報いる可能性があるクイックコマース


セブン-イレブンは9日の決算報告で、2017年に開始した自社のクイックコマース「7NOW」について、2030年度までに売上高1200億円を目指すと発表した。


コンビニのクイックコマースとは、顧客がスマホのアプリやウェブサイトを通じてコンビニの商品を注文し、近隣店舗から数十分から1時間程度で注文商品を届けるサービスのことだ。コロナ禍で浸透したUberや出前館といったフードデリバリーのコンビニ版と考えればわかりやすい。


現在の日本のネット通販はAmazonの一人勝ちと言っても過言ではないだろう。小売のみならず、動画・音楽のサブスク、広告そしてクラウドサービス事業からの莫大の利益を原資とした大型の物流センターによって支えられたその圧倒的な品揃えは、日本の企業が太刀打ちできる状況には既になくなってしまっている。


そんな日本におけるネット通販の巨人Amazonに一矢報いる可能性があるのがコンビニのクイックコマースだ。


■店で客を待つだけでは生き残れない


クイックコマースに力を入れるコンビニはセブンだけではない。ローソンは、2019年にUber Eatsをコンビニにおいていち早く導入して、今では親会社のKDDIや三菱商事が運営するmenuや出前館、Woltなど複数の事業者と連携してサービスを浸透させている。ファミマも同様のサービスを拡大中だ。


近年は、どんな辺鄙な地方に行っても1軒や2軒コンビニがある風景が当たり前になった。「どこにでもあるコンビニの商品を宅配するサービス」は一見需要がないようにも思える。


そんな環境でコンビニ各社がクイックコマースに力を入れるのは、「もはや店で客を待っているだけでは生き残れない」という危機感の表れだ。


実際、コンビニのクイックコマースは、日本の食卓事情の変化と「Amazonのスキマ」の両方をうまく突いている。


■日持ちしない食品とで「棲み分け」


総務省の2024年の家計調査で、消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」が28.3%と43年ぶりの高水準となった。これは共働き世帯の増加などによって割高な総菜などの中食の需要が増えたためであり、コンビニはここに目を付けた。


コンビニの配送は中食が多くを占めていて、Amazonなどネット通販業者が在庫として持てない日持ちしない食品を中心に宅配できる。一部加工食品はネット通販業者でも取り扱いがあるものの、「棲み分け」はされており、コンビニのクイックコマースの勝機は充分あると考えられる。


実際、コンビニのクイックコマースで注文される商品はAmazonにないものが多い。


セブンが埼玉県の20店舗で行った実証実験では、7NOWで注文された販売数ベスト10のうち9商品が、お店で焼いた焼き鳥やメロンパンなどの「できたて商品」だった。セブンは店内で焼き上げるメロンパンやクロワッサン、フィナンシェなどを提供する「セブンカフェベーカリー」を今年度だけで8000店舗増やす目標を掲げており、クイックコマースを親和性の高い「できたて商品」によって拡大しようとしているのは明らかだ。


出典=セブン&アイ・ホールディングス「2024年度 決算説明資料

セブンは2014年に「レジ横ドーナツ」で失敗した過去がある。その反省を生かして24年から始めた「揚げたてドーナツ」はいまのところ好評のようだ。


■ローソンは「からあげクン」がTOP3を独占


ローソンがUber Eatsを展開した当初、一番の売れ筋商品は「からあげクンレッド」で、ビールや酎ハイなどとの併売が多く見られたようだ。最近ではデリバリー専用商品として、辛味成分のカプサイシンの量を3倍にした「からあげクンレッド3倍味BOX(15個入り)」を発売するなど、進化した取り組みで新規顧客の取り込みの大きな武器となっている。


提供=ローソン
からあげクンレッド3倍味 - 提供=ローソン

実際、ローソンでは現在でもデリバリーの人気TOP3商品を「からあげクン」が独占しているという。中でも人気なのは20個入りや30個入りの商品だといい、担当者は、「デリバリーでは大容量のファストフードが人気がある。スポーツ観戦など、週末に家族や友人など大人数で集まる際に需要があると分析している」と話していた。


ローソン人気商品ランキングTOP3


1位:「からあげクン レッド3倍味(30個入)BOX」


※「盛りすぎチャレンジ」の商品として、2025年2月4日(火)〜2月24日(月)まで販売


2位:「からあげクン レッド」


3位:「からあげクン レッド&チーズ(各10個入) BOX」


また、ローソンでは実店舗を持たず、デリバリー専用に料理を提供するゴーストレストランも展開している。厨房設備を備えた全国約9000店舗(まちかど厨房)のうち、約300店舗で、店頭に並べる商品だけでなく、デリバリー専用の商品の調理も担っている。


セブンでも2024年から、一部店舗で店内調理のピザの宅配サービスを展開している。このようなデリバリー限定商品の展開はクイックコマースの今後の成功の鍵を握りそうだ。


■コンビニデリバリーはサザエさんの「三河屋さん」


コンビニのクイックコマースは、都市部など成功しやすい立地特性があるものの、オーナーの取り組みの深度によっても成否が分かれているようだ。


都内のとあるコンビニオーナーに話を聞いたところ「酒店出身のオーナーは、『サザエさん』の三河屋さんのような御用聞き文化が根付いているため、その進化系としてクイックコマースを捉えており、売り上げが好調のようだ」という。


ローソンではデリバリーが売り上げの1割から2割を占める店舗もあるという。


中食は外食のフードデリバリーと競合する部分があるものの、コンビニは日本の売れ筋である3000〜3500品をカテゴリーを限定せず厳選して展開しているため、例えばおにぎりとファストフードの唐揚げ、ビールやデザート、在庫が切れそうなトイレットペーパーや重たい2Lの水など、多様なカテゴリーの商品を同時に配達できるメリットもある。実際、地方では高齢のユーザーが重い飲料や調味料を注文するケースが多いという。


人口減少で高齢化が進む中、昔ながらの商人的な御用聞きが復活していくのは嬉しいものの、お客を店舗でただ待っているだけではなく、顧客に出向いて売上を確保しなければいけないという事実は厳しく、コンビニ店長出身の筆者としては少し複雑な気持ちにもなる。


■高齢者や過疎地にニーズは眠っている


コンビニは近くにあるのだからわざわざクイックコマースなど頼まずに買いに行けばいいという考えはもはや当てはまらない。身体の不調などを持つ高齢者を中心とした家から積極的に出たくない層や、買い物難民となっている過疎エリアの方々などにはクイックコマースのニーズがまだまだ眠っているとみるべきだ。


但し地方はギグワーカーが少ないので、店舗従業員による配達が必須となる。その場合、アドバンテージがあるのはセブンだろうか。セブンは元々「セブンミール」という店舗配送サービスがあり、店舗による配送では一日の長がある。


いずれにせよ、今後店舗従業員が配達業務を担うとなれば、店舗のセルフレジ化を促進させて接客対応時間を極限まで減らし、空いた時間を宅配に充てるなどの仕事のスタイルの変化が求められそうだ。


実際、ローソンは昨年度から、これまで従業員が手打ちで反映させていた商品在庫の入力を自動化し、機会ロスを減らすとともに、取扱数も700品から3000品まで拡充させた。


注文された商品を従業員が店舗在庫から探してピックアップするのは慣れるまでにかなり時間を擁するため、今後は対象商品のある棚が点滅する電子棚札を導入してピックアップしやすくするなど、ますますの工夫が必要になるだろう。


■クイックコマースのサービスは拡充するだろう


アメリカのロサンゼルスなど都市部では自動運転宅配ロボットによる無人配送が、アリゾナ州などではドローン配送などが既に始まっている。規制緩和が遅々として進まない日本でも、新しい宅配スタイルが普通の光景になっていくのがそう遠い未来ではない気がする。


筆者撮影
ロサンゼルスの街中で見かける無人宅配ロボット「COCO」 - 筆者撮影

ネット通販は即日・翌日配送など配達スピードにこだわってきたが、実際は翌日ほしいと思う商品やそれを望む人もそれほど多くないというケースも多い。そんな中Amazonは、配送を急がなくてもいい場合に対象商品の商品代金を割引するサービス「Amazonゆっくり便」を始めている。今後はドライバー不足も手伝いこのような急がない配送は増えていきそうだ。


一方コンビニのクイックコマースの中食は日常の3度の食事の配送となるため、急ぐべき配送として定着していきそうだ。特に、コンビニにおいては外出をあまりしたくない深夜帯の食の配送にもニーズがあるのかもしれない。


コンビニのクイックコマースはまだ始まったばかりだが、規制緩和の進むクスリの配送など顧客ニーズに合わせて、これから急激にサービスが発展してしていくものと思われる。今後の進化が楽しみだ。


----------
渡辺 広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト・コンビニ評論家
1967年、静岡県生まれ。東洋大学法学部卒業。ローソンに22年間勤務し、店長やバイヤーを経験。現在は(株)やらまいかマーケティングの代表として商品営業開発・マーケティング業に携わりながら、流通分野の専門家として活動している。『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ)レギュラーほか、ニュース番組・ワイドショー・新聞・週刊誌などのコメント、コンサルティング・講演などで幅広く活動中。
----------


(流通アナリスト・コンビニ評論家 渡辺 広明)

プレジデント社

「ミスド」をもっと詳しく

「ミスド」のニュース

「ミスド」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ