「皆さん反社に見えます」「入社の理由? ついでに受けただけです」歓迎会で泥酔→内定取消…採用担当者も呆れた“酒乱商社マン”の「暴れぶり」

2025年4月23日(水)7時20分 文春オンライン

「酒は飲んでも飲まれるな」。ビジネスの場では、一度の失敗で全ての信頼を失いかねない。実際にあった悲しい事例を『 まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白 』(日本経済新聞「揺れた天秤」取材班著、日経BP)から一部抜粋し、お届けする(全3回の1回目/ 2回目を読む / 3回目を読む )。


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商社マンの悲しすぎる「酒癖」(画像はイメージです) ©Trickster/イメージマート


 宴席における酒の失敗は、ときに人生をも狂わせる。


 商社への転職が決まっていた30代の男性は、入社直前の歓迎会で酔っ払った際の言動を理由に内定を取り消された。「泥酔状態での発言は理由にならない」と処分の無効を訴えた裁判。垣間見えたのは取り返せないミスの重さであり、人を見極める採用の難しさだった。


記憶を失い、3次会で我に返ると……


 男性が我に返ったのは、3軒目の焼肉店だった。2018年9月の金曜日。営業職の即戦力として専門商社から中途採用の内定を得ていた男性はその夜、10月の勤務開始に先立って支店長や同僚らが開いてくれた歓迎会で、不覚にも酔っ払ってしまった。


 陳述書などによれば、1次会でビールやハイボールを7、8杯飲んだ。スナックでの2次会の途中から3次会の途中までの記憶がぽっかり抜けていた。覚えているのは、自分に向けられた「おまえ、ふざけんなよ」という同席者の憤りの言葉。何か粗相をしてしまったのではないか。周りに促されるままに「すみませんでした」と頭を下げた。


歓迎会での“呆れた暴れっぷり”とは


 週明け、支店長は参加者のヒアリングを始め、男性の知らないところで言動の「備忘録」が作られた。「(特定の社員に対する)『反社会的な人間に見える』などの暴言」「入社理由は『ついでに受けただけ』」「上司の名前を呼び捨てで連呼」─。会社の方針と違っても自分のやり方を通すのは当たり前、との発言もあったとされた。


 約1週間後、男性は転職エージェントからの電話で初めて事の重大さを知る。その後に会社から書面が届いた。「社内ルール・コンプライアンス順守を著しく軽んじる発言」「社会人としての礼節を欠いた著しく不適切な言動」などを理由に内定を取り消すと書かれていた。


 判例で内定取り消しが認められるのは「内定当時に知り得なかった事実があった」など合理的な理由がある場合に限られる。男性側は「正常な意識下での発言ではなかった」として取り消し無効を求めて訴訟を起こした。


裁判で男が述べた「反省の弁」


 同業の商社でキャリアを積んできた男性は、培ってきたスキルを生かせると思い、転職を決めた。法廷では「久々の飲酒の機会だった」と釈明しつつ「お酒の量をセーブするのが社会人として当たり前だった」と反省を述べた。その上で、詳しい理由の説明がないまま一方的に突きつけられた内定取り消しに「憤りを抱いた」と語った。


 会社側の証人として証言台に立った支店長は、男性の採用面接にも同席していた。従業員20人弱の小さな事業所では、何より協調性が求められる。面接会場での男性の印象は「質問にテキパキ回答し、コミュニケーション能力が高い」。豊富な営業経験も後押しし、内定を迷わなかった。


 酒席での振る舞いを目の当たりにし「暗澹たる気持ちになった」。それでも自分が太鼓判を押した人物だ。途中までは「何とか一緒に働けないか」との気持ちもあった。


 だが、何を言われても開き直る男性の態度に「もうかばう発言はできない。一緒には働けないな」との思いに至ったという。「面接ではおよそ知ることのできなかった言動を見て、募集していた人物像との齟齬は大きかった」


 人材サービス大手のエン・ジャパンが運営するリファレンスチェックサービス「ASHIATO(アシアト)」が22年、人事担当者400人に行った調査では、78.3%が活躍できる人材を面接で見極めることに難しさを感じていた。採用のミスマッチが起きる原因は、36%が「面接で相互理解ができていない」ことを挙げた。


 選考過程で飲み会を開くなど、面接以外に候補者の人柄を探ろうと模索する企業はある。とはいえ多くの場合、そこまでの力は割けないだろう。人事や採用に関わる誰もが、支店長と同様の事態に直面する可能性がある。


酒乱商社マンに同僚が投げかけた“辛辣な言葉”


 東京地裁は22年9月の判決で、男性の酒席での発言を「職場の秩序を乱す悪質な言動」と重く見た。社会人としての礼節などの欠如を会社側は「内定段階では知り得なかった」として、内定取り消しは有効と結論付けた。


 裁判所は、飲酒は一連の失態を正当化する理由にならないと判断した。判決理由は飲酒の影響について「気が大きくなっていたことは否定できない」としつつ「営業職では会食の場でもコミュニケーション能力が求められ、飲み会でこのような言動に及んだこと自体問題だ」と指弾。男性は控訴したが東京高裁も結論を維持し、判決は確定した。


 男性は内定を取り消されたことで自信を喪失し、しばらく就職活動もままならなかったという。別の会社でM&A(合併・買収)に関する仕事に就いた後も「今もこの会社に勤めたい」との思いを抱いて訴訟に臨んできた。ただ、歓迎会に同席した別の社員は陳述書で「このような人が入社してこなくて本当によかったと安堵している」と厳しい言葉を投げかけた。


 一度なくした信頼は簡単には取り戻せない。「酒は飲んでも飲まれるな」。酒席について回る常とう句を社会人としていま一度、心の中で唱えておきたい。

〈 「バカなの?」「育て方、下手ですよね」社員同士の“グチDM”が会社にバレて…裁判所が下した“意外過ぎる判決” 〉へ続く


(日本経済新聞「揺れた天秤」取材班/Webオリジナル(外部転載))

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